第十三話 情報の整理

 朝日が昇り三人は食事をすました後、遺跡の捜索で手に入れた情報を整理していた。


「まずは、捜索で手に入れたものじゃな。辞典と鍵それとこの青白く光る浮かぶ何か、紫の石の欠片じゃ」


 ベルが本と複雑な彫りがついた金属の棒、青白く光る何かが入っている瓶、紫色に透き通る石の欠片をテーブルの上に並べた。


 本を手に取ったコミが言う。


「この本はゴーレムの辞典だとわかっていますね」


「そうじゃの。これは後でアートに文字を教えて貰ってから調べるとするのじゃ。いいかのアート」


 ベルの言葉にアートは頷く。


「教えるといいましたし問題ないです」


「では、一度この本は置いておくとするのじゃ。次は鍵じゃな」


 本を持っていたコミは机の端に本を置いて鍵の方を見る。


「アートさんの説明どおりであれば、ただの鍵にしか見えないのですけど……」


「いや、何かが漏れているのは確実じゃ。ただの鍵ではないのは間違いないじゃろう」


 ただの鍵にしか見えないとコミはいうが、ベルは否定した。


 鍵がおかしいと言っても、知っている方法で調べても何も分からないのに、他にどうやって調べたらいいかとアートは聞こうとする。


「でも、コミさんが触れても何も起きていませんでした。本にも詳しく書かれていませんでしたし、他に調べる方法があるのですか?」


「福音の本が発見された場所に軍の仮拠点があるのじゃ。その中にある仮研究室であれば調べられるはず。この瓶の中の光も同じく研究室で調べたほうがよさそうじゃの。次はこれじゃ」


 ベルはアートの質問に答えながら、鍵と瓶を本の近くに置き、紫色の透き通る石を三人が見えやすいように移動させる。


「紫色の石ですか……これも研究室で調べたほうがいいのでは?」


 アートはベルが先ほど言っていた仮研究室で調べることを提案するが、ベルがアゴに手を置く素振りをしてから答えた。


「確かに、研究室で調べたほうがよいとは思うのじゃが。昨日の夜に起きた現象に対して確認しておきたくての。今朝から何もなさそうにしておるがコミは昨日から体に変化はないのじゃ?」


「昨日に話した体の疲れが取れたぐらいですね。その後は特におかしなことは起きていませんですね」


「ふむ……ではこの石の欠片を持ってみてくれなのじゃ」


 コミは言われた通り、紫の石の欠片を手に取る。光が反射し、うっすらと輝いただけで、昨日のような現象は起きなかった。


「何も起きないの。何が条件じゃったのじゃ?」


 ベルは、昨日のような反応をしないでいる紫の石の欠片を、見つめながら考える。


「マホウを使用した後だったからではないですか?使用した後に来た疲労が回復したんですよね」


「確かに使用した後でした」


 アートとコミの言葉のやり取りを聞いたベルがコミに指示をする。


「次は、使ってから石を手に取ってみるのじゃ」


 指示に従いコミはアートに向けてマホウを使った後、紫の石の欠片を手に取る。しばらくすると欠片が淡い紫色に光を放ち体の中へと吸い込まれていく。手に持った欠片は徐々に石になっていった。


 それを見たベルはコミに質問する。


「どうじゃ?昨日と変わらぬか?」


「はい……昨日と同じ感覚です。使用した後の疲労もとれました」


「おそらくマホウを使用した者だけが使える石で、疲労を回復させる効果があるのかもしれないのう。疲労が回復した分だけマホウが使えるようになってないかの?」


「感覚的に使用する前に戻った感じがします。おそらくですが使えると思います」


「石の欠片は複数残っておる。一つは研究用に残しておくとして、残りはコミが持っていたほうがいいのじゃ」


 ベルは紫色の石の欠片を一つ手元に置き、残りをコミの前に置きながら話を続ける。


「この先、宮殿を捜索するにあたって、マホウが絶対に必要になってくるはず。そこでマホウを使えるコミが疲れて使えない状態になってしまうと、ゴーレムや霧の獣が現れたときに対処できず、死につながる可能性があるからの」


「分かりました。石は貰っておきますね」


 ベルの言葉に了承したコミは、紫色の石の欠片を手前に引き寄せた。


 それを確認したベルは黒い霧の獣のことを話す。


「あとは昨日の夜、現れた獣じゃの。攻撃が効かず殺したとしても肉体を残さぬ生き物など聞いたことがないのじゃ。頼みの綱は、奴が落とした紫色の石の欠片だけじゃが、心臓だった以外に説明がつかぬ。二人は何か分からぬかの?」


 昨日の夜に現れた霧で体が出来ている獣に対し、最初に出会った二人に質問をするが、二人は分からないと首を振る。


「分からないです。黒い霧で出来た獣としか……」


「僕も霧から生まれた獣というのは聞いたことがありません。オカルトなどを、詳しく知っている人がいれば、何か分かるかもしれませんが」


 アートのオカルトという言葉に何かを思い出したベルが答える。


「そういえばオカルトなら、研究員に詳しいやつがいたの。仮拠点にいけば会えるはずじゃ」


「なら、その人に聞いてみましょう。ちなみに、どんな人なのですか?」


 会ったことがないアートは、その研究員について質問するとコミが答える。


「背の高い女性の方です。陽気な方なので、話しやすいと思いますよ」


 初めて会う研究員は陽気で話しやすいとのことで、アートは少し安心した顔をした。


「さて、ほとんど研究室で調べることになったの。準備をおこなってから、向かうとするのじゃ」


 ベルの言葉に二人は返事をする。準備をおこなうために、部屋を出ていった。それを見送ったベルは一人呟く。


「まさか……あそこに行くことになるとはのう。もう少し離れていたかったのじゃ」


 溜息をはいたベルは、机の上に置いた物を片付け、部屋を出ていった。

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