第十四話 未知なる物の研究
仮研究室に向かうため、出発の準備を終えた三人は家の外へ出る。
「仮研究室は、ここから東に向かった先にあるのじゃ。忘れ物はないかの」
ベルに忘れ物がないかと聞かれた二人は、ないと答えた。
「では出発するのじゃ」
三人は家から東にある仮研究室に向けて歩き出した。しばらく歩いていると広々とした空間に出る。広場の中央には石の台らしき物があり、巨大なオブジェが石の台をかこむように地面から生えていた。そばには沢山の人影が集まって何かをしているのが見える。視線をはずすと少し離れたところにテントらしきものが複数と大きい木造の家が、建っているのが見えた。
「到着じゃ。二人は少し待っておれ、デトロス隊長を探してくるのじゃ」
ベルはそれだけ言うとテントの方へと小走りで走っていった。残された二人はベルの帰りを待つため近くあった岩に腰を掛ける。
「そういえば、デトロス隊長について聞いていませんでした。どういった方なのでしょうか」
「デトロス隊長を知っているのですか⁉
「コミさんが寝込んでいた時に、副隊長のオルフさんが来まして。その時にベル博士から聞かされたんです。国の命令が絶対の方だって」
「確かにそうです。デトロス隊長は国の命令が絶対という方でして、どれだけ理にかなったことであっても、国の命令があれば、そちらに従ってしまうのです。」
「それは……」
アートが何かを言おうとした時、テントの方から二つの影が近寄ってくるのが見えた。
「来たみたいですね」
二人は立ち上がり、近くに来るのを待つ。すると見えてくるのはベルとオルフであった。
「あれ?オルフさんですね。どうしてでしょうか」
デトロスではなくオルフが来たことにコミが疑問に感じて声を漏らす。
「副隊長のオルフを連れてきたのじゃ」
ベルは二人の前に到着するとオルフを紹介する。デトロスが来ると思っていた二人はオルフが来て困惑する。
「私はオルフ副隊長です。現在デトロス隊長は黒い霧の獣の出現により、町の見回りへと向かいました」
困惑する二人はオルフが説明したことで理解し冷静になるが、黒い霧の獣が別のところでも現れていたことに驚く。
「ベル博士、一体どういうことですか?」
「わしも分からんが、どうやら昨日の夜、この島のいたるところで黒い霧の獣が現れたのは間違いないのじゃ。そうじゃのオルフ」
「はい。いまだに信じられませんが、間違いはないでしょう」
「ちなみに、どうやって倒したのかね?」
「オカルト好きの研究員のおかげです。彼女がいなければ倒せなかったでしょう。ですが、他の場所では対策が取れず大きな損害を出しました」
「なら他の場所には、まだ黒い霧の獣がいるのかの?」
「太陽が昇るころには姿かたちが消えていたので、いない可能性が高いです。ただ、確証はないため、念をいれてデトロス隊長が見回りに行きました。しかし、私の話にあまり驚かないということは、お三方も獣に出会っているのですか?」
「だからデトロスがいなかったのじゃな。それと獣には会っておるのじゃ。なかなかに苦労したがの」
「苦労したといっていますが、元気な様子を見る限り、逃げ切れたということで?」
「いや、退治したのじゃ。おそらく、お主たちと同じ方法での」
「なるほど、怪我をする前に弱点が見つかったということですね」
「ところで、今から仮研究室を使いたいのじゃが、アートは入っても構わぬかのう」
「そうですね。本来であれば、正式に軍に所属していない人を入らせてはいけないのですが、ベル博士が信頼しているようですし、許可を出します。くれぐれも余計なことはしないでください。デトロス隊長にバレたら大変ですから」
「分かりました。気を付けます」
「オルフはこの後どうするのじゃ?」
「私はデトロス隊長が帰還するまでは、中央にある石の台の近くで見張りをしています。何かあれば、近くにいる兵士に伝言をお願いしてください」
「分かったのじゃ。では、仮研究室に行くのじゃ。」
三人はオルフと石の台の付近まで一緒に歩いて仮研究室へと向かった。
「ここが仮研究室じゃの」
ベルが顔を向ける先には大きめの木造で出来た家がある。遠くからでも見えていた家だ。
「仮研究室なのはわかりましたが、どうしてここだけ木造なんですか?軍の方はテントで生活しているのに」
アートは疑問を口にするとテントの方へと顔を向ける。
「それはじゃな。高価で壊れやすい機械などを持ってきておるからじゃの。テントの中になんか入れておいたら、何かの拍子に落ちたり踏んづけてしまう可能性が高くなるのじゃ。その危険性をなるべく回避するためにしっかりした家がいるのじゃの」
「それで木造の家を……」
「さて、入るかの」
ベルがドアを開けて中に入り、中から二人を招く。中に入ると機械がたくさん並んでいるのが見えた。
「すごいですね。これだけあれば調べようとしているもの全部、分かるんじゃないですか?」
「いや、この辺りの機械では何も分からぬじゃろう。もう少し奥の方にあるはずじゃ」
三人は家の奥の方へと向かう。家の奥には筒状のガラスが付いた機械があった。
「もしかして、これで調べるのですか?」
「そうじゃ、このガラスの筒に入れて横のボタンを押し、下についているモニターに結果が表示されるという仕組みじゃ。試しにこの紫の欠片を入れてみるのじゃ」
ガラスの筒を外し紫の欠片を入れ元に戻す。しっかりとセットできているか確認してから、ボタンを押すと機械が動き出した。
「あとは、しばらく待つだけじゃな」
「どれだけ待てばいいのですか?」
「数分もすれば大丈夫じゃろう」
三人はじっと見つめながら機械の結果を待っていると、後ろから声を掛けられる。
「みんな~何してるの?」
突然、後ろから声をかけられた三人はビックリし後ろを振り向く。すると、背の高い女性が薄笑いしながらこちらを見ていた。
「見られない子がいるけどコミちゃん、ベル博士、久しぶり元気してた?」
「お・お・驚かせないでくれなのじゃ!」
「久しぶりだったからつい?」
「つい?ではないのじゃ……」
ベルはため息をつき頭を抱える。
「アート、この人はミランダじゃ。例のオカルト好きじゃよ。これじゃから来たくなかったのじゃ」
「オカルト好きなのは確かだけど、来たくないは心外ね」
来たくなかったとの言葉にミランダはベルを睨みつける。
「ミランダ、この人はアートじゃ。現在、わしの研究を手伝ってもらっておる」
「アートです。よろしくお願いします」
「アート君ね。よろしく」
ミランダが手を伸ばし握手を求める。アートは握手に応じると、手をつかんだまま引っ張られ肩を組まれた。ミランダは耳元で囁く。
「ベル博士から嫌なことされてない?何かあったらお姉さんに相談するのよ」
「ミランダ聞こえておるぞ。何も変なことはしておらぬのじゃ」
ベルの言葉に肩を組むのをミランダはやめた。
「分かっているわよ。でも念のためってね。それよりもコミちゃん元気してたー?変なことされていない?」
「大丈夫ですよ。二人とも良い方です」
「男だけの空間が嫌だったらすぐに戻ってきてもいいのよ」
「たく、用件はそれだけかの?」
「違うわ。私も、その機械を使いたくてね。ここに来る道中で軍の人に聞いたと思うんだけど、黒い霧の獣を退治したって言ってたじゃない。それで、獣が落としたこの紫の欠片を調べてみたくってね」
ミランダがポケットから紫色の欠片を取り出す。それは、アートたちが持っている紫の欠片と同じように見えた。
「もしかして、これと同じではないですか?」
コミがポケットに入れていた紫の欠片を取り出す。するとミランダがビックリする。
「あなたたちも持っていたの!?もしかして今、機械に入れているものは……」
「そうじゃ、その紫の欠片じゃ」
四人が話しをしていると、機械が鳴り出した。
「どうやら、終わったようじゃの。どれどれ?」
ベルはモニターに表示された結果を確認を始めると、ミランダが後ろかのぞき込む。
「どう?何が書いて……うそ……こんなのありえない」
「大丈夫ですか?何が書いてあったのですか?」
ミランダのあまりの動揺に心配したコミが質問する。その質問に答えたのはベルだった。
「膨大なエネルギーが眠っておる。この欠片一つで、一世帯の一ヶ月分の電気が賄えてしまうほどじゃ」
「そんなに……」
「それってとんでもないじゃないですか!」
ベルの答えにコミとアートは驚愕する。二人の驚愕を見て落ち着きを取り戻したミランダが話を続ける。
「ええ、とてつもないわよ。こんなものが溢れかえったら、世界の常識は瞬く間に変わってしまうでしょうね」
「しかし、欠片のエネルギーを抽出することが現状できぬため、すぐに問題にはならぬであろうな」
「え?できないの?」
ミランダはベルの言葉に思わず疑問を口に出す。
「現状それができるのは、マホウが使えるコミだけじゃ。しかもエネルギーの一部は消えてしまうようじゃの」
「どうしてエネルギーが消えてしまうなんて分かるんですか?」
コミの体に吸い込まれた光のことを、いくら思い出しても分からないアートが疑問を口にする。
「エネルギーがコミに吸い込まれていったとき、コミは爆散しなかったのじゃ。こんなエネルギーを人体に入れれば、速攻で肉体が吹き飛ぶはずじゃからの」
三人だけが分かる会話が始まり、理解が追いつかないミランダがストップをかける。
「まってまって、三人だけが分かる会話しているんじゃないわよ。まず、マホウという言葉が分からないし、第一コミちゃんの体にそんな危険物が入って大丈夫なの?」
「特に体に違和感はありませんね。いつも通り動けます」
「コミが大丈夫と言っておるのじゃから、おそらく大丈夫であろう。それでマホウというのはじゃな——」
ベルがミランダにマホウを教えようとすると、ミランダがコミのもとへ駆け寄り、肩を強くつかむ。
「大丈夫じゃないでしょ!コミちゃんは一度、健康診断をおこなったほうがいいわ。うん、それがいいと思う……ね?」
コミはミランダの顔の圧に負けてしまい。素直に手を引かれていった。
「どうします?ベル博士」
ベルはため息を吐いた。
「とりあえず戻ってくる前に、他の調べるものを機械で調べるのじゃ」
「あっはい……」
アートとベルは二人が帰ってくるまで、調べるはずだった物を機械に入れ込んで結果を確認していき紙に書きこんでいったのであった。
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