第十話 礼拝堂
コミが開けた扉の中は吹き抜けの礼拝堂になっていた。左右の廊下の中央付近に一階へ向けて降りることができそうな階段があるのが見える。
ドアノブをつかんだまま、中の様子を視界にとらえたコミが話す。
「ここは礼拝堂ですか?」
「まさしくそうじゃの。地上で発見される遺跡の礼拝堂と素材が違うだけでほぼ作りは同じなのじゃ。しかし、ここまで形が残っておるとはのう」
後ろから覗き込んだベルが肯定する。
三人は中へと入り辺りを見回す。アートが天井を見ると所々に欠けている絵が描かれていた。
「天井に描かれている絵は一体……」
「あれは天井画じゃな。しかし人々が崇拝している大きな木、あれは一体何なんじゃろうな」
「不思議な木です。あの崇めている人たちが古代にいた人達なのでしょうか?」
ベルとコミの会話にあった。大きな木を崇拝している人にアートは違和感を覚える。考えると数日前に調べた石柱に書かれていた文字の内容に一致しているのを思い出した。
「ベル博士、コミさん、おそらくあの木は古代人が崇めている神、アールドの可能性があります」
「あの木が神様なのですか!?」
アートの言葉にコミが驚く。
「ええ、石柱に書かれていたんです。神アールドを崇めていること、そしてマホウを使うと」
「まさか古代文字が石柱にも書かれていたのじゃな。しかもマホウという言葉とアールドが一緒に書かれているという」
「それだと、アールドという神様がマホウを授けたということになりますね」
コミの授けたという言葉にベルが反応する。
「そういうことになるじゃろうの。さらに崇めているところを見るとマホウというものは古代人にとって無くてはならないものになっていたのかもしれんの」
キィ……
三人が会話をしていると一階の方で音が響く。
「今の音は?」
「下の方で何かが開いた音がしました」
アートの疑問にコミが答える。
ベルは先ほどの音にいち早く一階を確認し二人を声を小さくして呼ぶ。
「みんな、下のほうを見るのじゃ」
「これは一体……」
なるべく音を立てずに近づき下のほうを見ると、一階の開いた扉から大人の腰ほどの高さを持つ、四足歩行の蜘蛛らしき存在が複数、現れた。
「蜘蛛でしょうか?それにしても大きいですし少し巨像に似ているような」
コミは少し嫌そうにしながら洞察していく。
「騎士の巨像と同じく体の溝に青白い線が動脈のように通っておる。間違いなく蜘蛛に似せた巨像じゃ」
蜘蛛形の巨像は自身の中央にある大きな青い瞳から光を放出しながら辺りを見回している。まるで何かを探すように動く蜘蛛形にアートはどこかで見たような
「もしかして、あれは警備しているのでは?」
「確かに軍の警備とやり方が変わらぬ」
「それだと下に降りるのは危険ですね。どうしますか?しばらく居なくなりそうにありませんが」
コミがどうしようかとベルに聞く。
「しばらく隠れて様子を見るのじゃ。すぐに、この場から去ってくれると嬉しいんじゃがのう」
「もし去らなかった場合は?」
「その時は殲滅じゃの。倒すときはあの青い瞳が弱点じゃ」
いつの間にか展開していた見える君でベルは弱点を探し出していた。
二人は、その用意周到さにあきれながらも返事をする。
しばらく様子をうかがっていると何も異常はなかったのか周囲の確認を終えた蜘蛛形の巨像は来た道を引き返していった。
「行った……ようじゃの」
「戦闘にならなくて良かったです」
「吹き抜けからでも確認はしましたが、
「しかし、祭壇に飾られているはずの十字架はなく、かわりに鳥の像があるのう」
「そう言われたら、そうですね」
ベルとアートが辺りを捜索していると、コミからこっちに来てくださいと呼ばれる。呼ばれたほうに向かうと、一冊の本が置いてあった。
「この本は?」
「まだ開いてないのでわかりませんが、祭壇の上に置いてありました」
「わしがめくってみよう。何があるか分からぬから態勢を整えておくのじゃ」
恐る恐るベルが本をめくる。しかし何も起きなかった。
何も起きなかったことを確認した二人は、本のページを見つめるベルの左右から覗き込む。
「何かありましたか?」
「うむ、読めはせぬのじゃが。文字の横に先ほどの巨像が絵として描かれておるの」
「福音と同じ文字で書かれていますが配置が、かなり違いますね。しかも絵まで載っているとは」
「もしかしたら、内容が違うのかもしれん。アート、何が書かれているのか読めるかの?」
本を渡されたアートは文字を翻訳する。書かれていたのは巨像の名称と、どんな役割を持っているのかが書かれていた。
「巨像の名称と、それぞれに
「なるほどの、これは巨像の辞典じゃったわけじゃな。それで今まであった巨像は、どんな名前でどんな役割を持っておるのじゃ?」
「まず初めに彼らは、あの動く物を巨像と呼ばず、まとめてゴーレムと呼んでいるようです」
「あれは巨像ではなくゴーレムというのですね」
アートの言葉にコミが確認すると彼は頷く。
「はいゴーレムです。それで初めに出会った騎士形はナイトといい、先ほどの蜘蛛形はスパイダーと呼ばれています。ナイトは
「ではゴーレム達はそれぞれの役割に沿った動作のみをおこなっておるんじゃな?」
「そうですね。本が正しければ役割以外の行動はできないかと……」
「役割以外の行動がとれないのであれば、新しいゴーレムが現れたとき、この本で探せば事前に対策が取れますね」
ゴーレムの対策ができることで捜索が楽になると思いコミが喜ぶ。
「じゃが読める者がアートだけなのが事実。戦闘中に本を読む時間などないのじゃ」
「申し訳ないです。出会った時に教えていれば、問題なかったのですが……」
「構わん。プライドが邪魔をしておったのじゃろう。わしじゃって初めて出会う者に、ようやくつかんだ研究の成果を教えはせぬ。しかし、あの時とは違って教えようとしてくれるということは、わしらはアートに信頼されたということじゃ。信頼にこたえて、この本はアートに預けておくの」
渡された本をアートは麻袋に入れようとすると後で返すのじゃぞとベルは冗談ぽく言いながら辺りを見渡す。
「あとは……スパイダー形が入ってきた扉のみじゃの。結局、戦闘になるかもしれぬ。警戒しながら突撃するのじゃ」
コミがアートに向けて詠唱する。アートは扉に警戒しながら身を寄せた。
「準備はできたかの?」
「完了しました」
ベルは頷き……突撃といった。
アートは一気に扉を開き中へと突撃する。
すぐに中から戦闘音が聞こえてきたが、しばらくすると音は収まった。扉からアートが姿を現す。
「殲滅完了しました」
「ご苦労じゃったアート。早速じゃが中はどうなっておったかの」
「中は二階の廊下と何も変わらなかったです」
「では二階の時と同じように捜索するだけですね」
「コミのいう通り、捜索じゃな。さて行こうなのじゃ」
アートを先頭に三人は扉をくぐると中は戦闘によって壊れたスパイダー形のゴーレムが複数、転がっていたのだった。
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