第九話 青白く光る宮殿

 三人は再び地下へと到達する。辺りを見渡すと、先ほど襲ってきた巨像は元の位置に戻っているのが確認できた。動き始めた時に付いた色は元に戻っていないため起動状態のままなのは間違いないだろう。近寄ればすぐに攻撃してくるのは手に取るように分かった。


「やはり無視して通り過ぎるのは難しそうじゃ……おそらく宮殿の中に入るものに対して攻撃をするみたいじゃの。さて、見える君を試してみるかの」


 背負った機械が展開され調査を開始する。ベルはしばらくの間、文字が表示されていくモニターを見つめていたが不意に顔を上げた。


「分かったのじゃ。弱点は人でいうところの心臓付近にあるコアのような物なのじゃ」


「では、そこを破壊したら停止するのですね」


「コアの部分からエネルギーが通っておる、破壊したら停止するのは間違いないじゃろうな。アートよ頼めるかの?」


「はい。コミさん、お願いします」


「魔法よ……」


 詠唱が開始され、アートへと光が吸い込まれた。


「ありがとうございます。後は離れていてください」


 指示に二人は少し離れる。それを確認したアートは短剣を手に走り出した。巨像との間はかなり離れた距離だったが、それをものともせず高速で間合いを詰める。迫ってくるアートを確認した巨像は動き出す。剣が振るわれ風圧がアートを襲うが、ひるまずに接敵し対峙する。巨大な音が鳴り響く激しい攻防が始まった。


 風が吹き込む中、その光景を見ているコミはアートの無事を心配していた。


「アートさん……大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫じゃろう。それ巨像が転んだのじゃ」


 ベルが指をさす、その先には転んだ巨像の胸に剣を突き立てようとしているアートが見えた。巨像は立ち上がろうとするが先に剣の方が突き刺さる。青い光が漏れ出していき、やがて巨像は動きを止めた。


 それを確認した二人はアートの方へと急いで駆けよる。アートは二人を見ると少しよろけながら手を上げた。


「アートさん、やりましたね!」


「何とかって感じですよ。コミさん」


「おぬしの功績じゃ。よくやったのじゃ」


「ありがとうございます。ベル博士」


「ようやくこれで、宮殿の中に入れるの」


 三人は扉が既に開いている宮殿を見る。


「そうですね」


「ようやく入れますね」


「今度は何もおこならないことを願いながら入るとするかの」


 ベルの言葉に三人は笑った。しばらく笑ってから、宮殿に入っていく。


 今度は何事もなく入れたようだ。


 宮殿の中は大きなエントランスホールとなっており青白い光が周囲を漂っている。左右と二つの大階段の間に扉が存在するのが確認できた。


「これは……見事な物じゃのう」


「分かってはいましたが広いですね」


「青い光が外よりも増えておる。おそらく、ここから外へと出て行っているようじゃの」


 外で浮かぶ青白い光はどうやら宮殿から溢れ出したものだったようだ。


「ベル博士どこから調べますか?」


「そうじゃのう。どこか手がかりがあればよいのだがのう」


「ベル博士。一度扉を開いてみませんか?」


 コミは提案しながら右にある近くの扉を開けようとしたが、開かなかった。


「扉が開きません」


「どれ?わしに見せてみるのじゃ」


 ベルが扉に近づこうとしたときに扉から青白く光る丸い円が現れる。その円は文字を内側の線に沿って浮かび上がらせ陣を形成していった。


「ふむ……アート、なんて書いてあるのじゃ?」


「シュゴ、フウインと書かれていますね」


「ということは、この扉を開けることは出来ないってことですか?」


「どうだろうの。コミ、扉に手を」


 コミは扉に手を付けようとしたら、陣から電流が走りはじかれる。イタっという声と共に手を引っ込めた。


「コミさん大丈夫ですか?」


「はい大丈夫です。ですが開けられません。ドアノブには触れられますが扉自体には触れられません」


「開けられないのであれば仕方ないのじゃ。開けられる扉を探すとするかの」


 三人は開けられる扉を探していく。ほとんどの扉は陣が形成され開けることは叶わなかったが、二階にある左側の扉は開くことが出来たおかげで安堵した。


「この扉は開きましたね」


「まさか……この扉以外、開かないとはの」


「開く扉があってよかったです」


 中を覗いてみると長い廊下が現れる。壁にはいくつもの扉があるのが目についた。


「扉……たくさんありますね…」


「とりあえず、近くから見ていこう」


「扉は……開くようじゃの」


 ベルが近くの扉を開くとそこは寝室だった。


「ベッドがありますね」


「見たことのない素材で出来ておるようじゃが、本当にただのベッドじゃな。見える君も何も反応せぬな」


「ではここには怪しいところは無さそうですね」


「次に行きましょう」


 廊下に出て次の扉を開いたが、そこも同じ寝室だった。


「もしかして全部、寝室なんでしょうか?」


「とにかく回ってみるのじゃ。もしかしたら何かはあるはずじゃ」


 他の扉も開いてみたが、寝室ばかりで頼みの綱である見える君は反応を示さなかった。


「何もなかったのう」


「見える君も反応しないですね」


ベルとアートは、何の成果も得られず肩を落としていたが、コミだけは廊下の奥を見ていた。


「ベル博士、アートさんも何を言っているのですか?まだ廊下の奥に扉はありますよ?」


 コミの言葉に廊下の奥を見るが何もなかった。


「何もないですよコミさん」


「わしも何も見えんのじゃが」


「えー!?ほらここに大きな扉が!」


 何も見えないという二人に対して、大きな扉がある場所で手を大きく振りながらここにあるとコミがアピールし始める。


「本当に見えないのじゃが。コミがそこまで言うのであれば、見える君を使ってみるかの」


「どうです?ベル博士」


「ほんの少しじゃが、確かに反応しておるの。コミにしか見えぬ扉か……これもマホウというのが関係しておるのかの」


 見える君は反応しているらしいが、見えるのは壁があるだけだった。


「コミさん、僕たちではどう開ければいいのか分かりません。開けてもらえませんか?」


「本当に見えないのですね。分かりました。開けますので、そこをどいてください」


 コミが壁に触れようとすると、隠されていた扉が青い光で形作られる。それに触れると扉が開いた。

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