第八話 魔法よ……導いて――
ベルは洞窟の出口へと走る。引っ張られているコミが離してくださいというがその願いを叶えることはできない。巨像の攻撃からアートが時間を稼いでいてくれる間に可能な限り出口へと逃げなければならなかった。だが掴んでいた手の拘束をコミが強引に払い抜け出す。再び掴もうと振り返ると巨像が
「アートさん!」
コミは手を伸ばしながら叫んだその時……彼女の脳内に映像がよぎった。翼を持つ巨大なトカゲと少女が戦っている。戦っている少女は後ろにいる誰かに向けて何かを言う。その言葉に頷いたその者は言葉を発声しようとした。
声が聞こえてくる――声を合わせよと。言葉を並べていく者に合わせながら無意識に声を出していく。
魔法よ……導いて――
言葉を告げるたびに、足元から全身を、光が覆うようにしてあふれていく。
「オール・エンハンス‼」
最後の言葉を告げたのを合図に、光が伸ばした手に集まっていき、アートに向かって
「コミ!さっきのは一体何なのじゃ⁉」
ベルは先ほど現象に驚きながら、それを引き起こしたコミへ質問をした。だが反応はなく息切れが僅かに聞こえる。様子を確認しようと――
ドォーン‼
巨大な打撃音が耳をつんざいた。思わず顔をそちらに向ける。先ほどの音は巨像が剣を床にたたきつけた音なのだろう。アートがいた場所には振り下ろし終えた剣があった。
どうなってしまったのか想像が出来てしまう。おそらくアートは――
ターゲットをこちらに切り替えたのだろう。態勢を戻しながら、こちらへ向き直し近づき始める。
出口まであと少しで到達できる距離だ。二人が走れば巨像に追いつかれる前に脱出できるであろうと考える。改めてコミを見ると汗をたらしながら膝に手を付け息を整えていた。ベルが考えた作戦は決行できないことは明らかである。
近づいてくる足音に考えることを止め、コミの手を握り引っ張った。少しでも巨像から距離を稼ぐために走る。
迫る足音が徐々に大きくなっていく、それはまるで死神が近づいてくるように聞こえた。
後ろから影が差し、後ろを振り向くと迫りくる剣が見えた。万事休すなのじゃ……そんな言葉が口からこぼれる。恐怖に目を閉じようとした。
何かが飛来する音が聞こえる。それは巨像の背に力強くぶつかった。後ろからの不意打ちに反応できず巨像は前のめりに倒れ膝をつく。
巨像に衝突した何かは飛び降りると同時にベルとコミを抱えて出口へと走る。
外に出た二人は自分たちを運んできた何かを確認するとそこにいたのはアートだった。
「アートさん!無事だったんですね!」
コミは喜び抱き着く。
「コミさん、落ち着いて」
「あっ……すいません」
アートの言葉に落ち着いたコミは離れた。少し恥ずかしかったのだろうか頬を染める。
それを温かい目で見ていたベルは死んでしまったと思われたアートが生きていたから舞い上がっても仕方ないのと思った。
「アート、良く生きてたのう」
「はい、なんで生きているのか不思議なぐらいです」
光が体を覆ったとき力が溢れてきた。そのおかげで生き延びることが出来たのだとアートは言う。
ベルはその光に見覚えがありコミの方へと顔を向ける。
「おそらく私が放った光ですよね?」
「間違いないじゃろう。それ以外にアートに向かっていく光は見えなかったからのう」
コミが助けてくれたことが分かりアートはお礼を言う。
「ありがとう。あの光がなければ助からなかったです」
「いえ、私は特になにも……ただアートさんの無事を願っただけで」
このままでは、いつまでたっても終わらぬなと思いベルは話題を変える。
「そこまでじゃ。コミよ、あの光の正体は一体何なのじゃ?わしには全く見当がつかん」
「分かりません。ただ頭の中に映像と声が聞こえたのです。」
「映像とまた声ですか……」
「それはどのような内容だったのじゃ?」
コミは二人に伝える。アートさんが巨像に殺されそうになっているのを視界に入れた時、走馬灯のように脳内から二人の人物が翼を持つ巨大なトカゲと対峙していたのを見たと。一人が言葉を並べていく声に合わせろと。
「全く分からん。その言葉は覚えておるかの?」
「はい、覚えています。魔法よ……」
ベルの問いに答え、言葉を紡ぎ始めると足元から光が溢れてくる。最後の言葉とともに光はアートへと吸い込まれていった。
「どうやら、その言葉が光を出すキーのようじゃの。コミよ、疲れてはいないかの?」
「あの時よりはしんどくないです」
「無理はせぬようにの。アートはどうかの?」
「力が溢れてきます。あの時と変わりません」
不思議な光の効果を確認したベルは遺跡の入口へと前を向け呟く。
「マホウ……それはかなりの秘密が隠されておるかもしれないのう」
「ベル博士!もう一度、遺跡の中に行くのですか?いくら僕が強くなったからといっても巨像は倒せませんよ」
「分かっておるわい。アートよ、福音にはなにか書いておらぬのか?」
「いえ、巨像に関しては載っていましたが、弱点まではどこにも書いてありません」
「そうじゃろな。わしでも不利なこと書く気はしないわい。そ・こ・で!これじゃ」
ベルは麻袋の中から巨大な機械を取り出し背負った。
見たことがない機械にコミは疑問を口にする。
「ベル博士こんな機械持ってなかったですよね?」
「これはじゃな。石扉の調査に使った道具を改造してパワーアップさせたのじゃ。題して見える君じゃ!」
どうやら、石扉で使っていた機械を一つにまとめて四角い箱型に改造。一つボタンを押すとデータが表示できるモニターが側面から出現し目の前まで展開する。さらに対象に道具を近づけなければ調査できなかったのを遠くからでも調査を可能にした探知機がこの見える君らしい。
高笑いしながら話を進めていくベルに顔を合わせてから溜息を吐いた。
「どうしたのじゃ?いくのじゃ」
いつの間にか入り口付近にいたベルに呼びかけられ二人は慌ててついていった。
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