第七話 巨像の門番
「きれいな場所ですよね。でもどうやってこんな幻想的な景色を作り上げたのでしょう?」
「確かに、こんな幻想的な場所をなぜ作れたのか疑問に思うのじゃ。じゃが、こんなにも発達した技術があるのに滅んでしまっているのが不思議じゃのう」
「言われてみれば確かにそうです。どうして私たちよりも高い技術力を持ちながら滅んだのか……」
二人のやり取りを聞いていたアートは考える。どうして滅んだのか……自分たちが生きている世界よりも、はるか先の技術を持つ者たちが何故?と思考を巡らしていくと見えない点が見えてきてハッと気づいた。
それを見たベルはにやける。
「アートは何か分かったようじゃの」
「え?何か分かったのですか?」
ベルの発言を聞いてコミはアートに問いかける。
「はい。ですが滅んだこと自体は分かりません。でも見えてきたものがあります」
「ほう。見えてきたものとは?」
「間違いなく滅ぼした存在がいたということでしょう」
コミは驚いたが、確かにそうでなければあり得ないと確信する。
ベルはその答えに満足そうに頷いた。
「確かにそうじゃな。滅んだということは滅ぼした存在もいなければならない。そうでなければ今頃、わしたちはこの技術を手にしておろうの」
「でも、これだけの技術を持つ者を滅ぼした存在がいるのであれば何故、私たちは滅んでないのでしょうか?」
確かに、高い技術を持つ者たちが滅ぼされるのであれば、その者たちよりも低い技術を持つ、自分たちなど赤子の首をひねるよりも簡単に滅んでいるだろう。ならばその存在はどこにいったのだろうか?アートは考えれば考えるほど思考の海に沈んでいく。
「封印されたか、すでに存在しなくなっておるか、であろうな。さて入口に着いたの」
ベルの声に反応し思考の際に下に向けていた顔を前へと向ける。そこには巨大な扉があり、近くには門番のように鎧の騎士の巨像が存在していた。
「大きな扉ですね。私たちだけでは開けられませんよ?」
コミは巨大な扉を見てそう言う。
「そうじゃの。これほどの巨大な扉なぞ、わしらだけでは開けるのは無理じゃ。しかし、また扉なのじゃ……」
先ほど扉の謎を解決し、これから新しい謎を解明しようとやる気になっていたところに同じ問題が降りかかってきて、ベルは少し不満そうにした。
「ベル博士、扉を開けることは軍に協力してもらうことにして、いったん辺りを捜索してみませんか?」
「確かにアートの言う通りじゃな。ではいったん解散して捜索するとしようかの。捜索の中断はわしが合図を送るから、その時は一度この場所に落ち合おうなのじゃ」
三人は一度解散して捜索を始める。ただ門前にもかかわらずかなりの広さを誇っているため怪しいと思うところだけを中心に見なければどれだけ時間があっても捜索しきれないほどだった。
各々が捜索しているとコミが巨像の前で二人を呼んだ。
「ベル博士、アートさんこちらに来てください」
その呼びかけに二人は捜索を止めコミの方へと集まる。
「コミさんどうかしたんですか?」
「この像に何かあったのじゃ?一見おかしなところは無い像じゃが」
「ここを見てください」
二人の疑問にコミは巨像の足元に指をさす。
「これは文字じゃな。まさか像の足元なんぞにあったとは。コミよ、わしが見た時にはなかったとは思うのじゃが、どうやって見つけたのじゃ?」
「像に近づいた瞬間、足元から光が溢れてきたのです。それで近くで確認してみると文字が浮かび上がってきました」
「なるほどの文字が浮かび上がったと。やはりこれらの捜索はコミがいないと難しそうじゃな。アートよ文字は読めるかの?」
「はい。福音によると扉を開くにはマホウを使うらしいです」
「ふむ、ここでもマホウじゃと?そうなると……コミよ扉に手を付けてもらえぬかの?」
コミは言われるがままに扉に手を付ける。だが特に何も起こらなかった。
沈黙が流れる。
「ダメです。何も起こりません」
苦笑いをしながら手を離した。
「前と同じような動作をしていたはずなのじゃが、何か違うのかの?コミよ何か願ってみたかの?たとえば……扉よ開けみたいな?」
「そういえば何も願っていませんでした。もう一度試してみます」
目を閉じ同じように扉に手を触れた。すると手の中心から光が伸びていき巨大な扉を覆ってから消えた。コミが手を離すと巨大な扉はひとりでに開いていく。
「今度は開きましたね」
「あの時の考えは、あながち間違ってはなかったのかもしれんの。願うことがマホウのキー。コミ!今度何かをするときは願ってみるのじゃ」
開いていく扉を見ていたコミはベルの指示に頷く。
「はい、分かりました。ところで扉が開いたのですが中には入らないのですか?」
「そうじゃの。中へ入ってみるとするかの」
宮殿の中へと足を踏み入れようとしたとき……
突然、甲高い音が鳴り響く。
三人は驚き辺りを警戒する。すると先ほどまで巨像だったものに色が付いていくのが目に見えた。
「色が……」
巨像は黒の色彩を帯びていき青い光がその後を追いながら彫りをなぞっていった。全身に行き渡ると目の部分が怪しく青に輝く。
その瞬間、大きな音とともに目を開けることが出来ないほどの風が吹き荒れる。
風が止み目を開けると巨像は視界から消えていた。いったいどこにと辺りを警戒していると三人の後ろから巨大な影が差しこむ。恐る恐る振り返ってみると……手に持った剣を振り下ろそうとしている巨像がいた。
「避けるのじゃ!」
ベル博士の必死の声に反応して前へと飛び込む。その後から来た風圧が背中を押し遠くへと転がった。巨像の方へ顔を向ける。先ほどまで三人がいた床は粉々に粉砕されていた。巨像は振りかぶった態勢を戻しこちらへと顔を向けた。
「ベル博士!見逃してもらえそうにないですよこれ!」
「どうしたものかのう。コミ、おぬしならどうにかできぬか?こうマホウで」
「できませんよ!そもそもどうやって止めるのですか⁉」
ベルの提案にコミは無理だと抗議をする。いままでマホウというものが手に触れた時のみに発動したため試すにしても巨像に触れなければならない。そんな危険をおかしてまで試してみようとは思わなかった。そうこうしている間にも巨像は近づいてくる。
「ベル博士とコミさんは逃げてください!」
その言葉に二人は驚く。
「アート!おぬし一人で一体どうするのじゃ!とてもじゃないがあれを倒すのは無理だと思うのじゃ!」
「その通りです!そのまま戦っても死ぬだけです!一緒に逃げましょう!」
二人は説得を試みたが、アートは腰に差していた短剣を抜きながら言った。
「倒すのは無理でしょう。全員で逃げるのも難しそうです。そうなれば唯一この中で武器を持った僕が逃げるための時間を稼ぐ、それが一番理想的だとは思いませんか?」
「……確かにマホウという不確かなものを頼るよりかは理想的な提案なのじゃ」
「ベル博士⁉」
信じられないというような顔をしながらベルを見た。だがコミから見たベルは苦虫をつぶしたような顔をしている。きっと苦渋の決断であったに違いない。
「近くまで来ています。早く逃げてください!」
アートのその言葉にベルは逃げようとするが、コミが動いていなかった。ベルはコミの腕を引っ張り逃げる。
それを見届けたアートは巨像へと再び顔を向ける。
すでに目の前まで来ていた巨像が剣を振り下ろす。とっさに横に飛んでかわすが風圧により橋の手すりへと吹き飛ばされ背中を強打する。激痛に我慢しながら起き上がり前へと顔を向けるが、視界にとらえたのは目の前で剣を振り上げている巨像だった。
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