第五話 石の扉

 光が顔を照らし、小鳥の鳴き声の音を耳にしたアートは目をわずかに開けた。


「朝か……」


 しばらく朝日の眩しさに格闘を続けていると、部屋の扉が開かれる音が聞こえてくる。


「朝ですよ!起きてください!」


 声に反応を示し上半身を起こし、まだ寝ぼけている頭を声が聞こえてくるほうへ動かして挨拶をする。


「コミさん、おはようございます」


「アートさん、おはようございます。朝ごはんができていますので着替え次第お越しください」


 コミはそれだけを言うと部屋から出ていく。アートはそれを見送るとゆっくりと起き上がり着替えを始めた。


 着替えを終えてから言われた通りに部屋へと向かい扉を開いた。そこには美味しそうに広がる朝食が置かれている。その光景を認識したとき腹が急に鳴き出し腹を抑えた。腹の鳴き声が収まりかけたころ背後から声を抑えた笑い声が聞こえ、顔を向けると笑いをこらえたベルがいた。


「よほどお腹が減っているみたいじゃの。朝食はコミが用意してくれたから、いつまでもそこにおらず席に着いたらどうじゃ」


 ベルはそれだけ言うとアートを少し押しのけ着席し、アートに空いている席に座りなさいとうながす。アートは言われた通りに空いている席へと座った。少し待つと台所からコミがご飯をお盆の上に載せて持ってきて配膳し席へと座る。ベルは全員が座ったのを確認すると手を合わせ感謝をのべた。アートもコミもそれに続き感謝をのべ食事を始める。三人が食事を終えるとベルが今日の計画を話始めた。


「今回は全員で石扉へと向い調査をしようと思うのじゃが、二人は他に意見はあるかの?」


「いえ、僕は石扉の調査に賛成です」


「私も問題ありません」


 二人の意見を聞いたベルは頷いた。


「では準備ができ次第、玄関前で集合じゃ」


 ベルはそういうと食器を片付け始めた。二人も後にならい片付け始める。しばらくして準備を終えた三人は玄関へ集合した。


「全員そろったの。では出発じゃ」


 ベルの合図を皮切りに三人は石扉に向かって出発した。道中は何事もなく目的地へと到着し、ベルは自身が背負っていた麻袋を下ろして中から道具を取り出し始める。


「ベル博士この道具はいったい?」


「アートよ。これがわしの研究道具じゃ。この道具で物に対しかざすようにすると探知するようにできておるのじゃ」


「なるほど……それで例えばどんなことがわかるのですか?」


「この道具で分かるのは、例えば形や箱の中身なんかを見ることができる感じだのう。だから石扉の奥に空間がないか調べるにはこの探知機が適切であると思って持ってきたんじゃ」


 ベルが持ってきた研究道具の説明を聞いたアートはこの探知機であればベルと同じく石扉の奥に何があるのか分かるかもしれないと思ったが、ではなぜ自分が来る前から調査をしていたのに今まで試していなかったんだろうと思い質問をしてみる。


「探知機のことは分かりました。でもベル博士は僕が来る前から石扉を調査していたと聞いていたのですが、なぜ今までこの道具を使わなかったのですか?」


「それは今まで石の扉だとは分からなかったんです」


 アートの質問に答えたのはさっきまで作業台を設置していたコミだった。


「コミさんそれはいったい?」


「ええ、アートさんが来る前はただの石壁だと思っていたんです。そうですよねベル博士」


「そうじゃ、今まで石壁だと思っていたんじゃが、昨日の朝ごろ突然、妙な発光と奥から物音、さらに少しだけ勝手に動いたのじゃ。まあ数ミリだけじゃがの。だからこれはもしかしたら扉なのではないかと思った次第だったわけじゃ」


「そういうわけですアートさん。分かってくれましたか?」


「ありがとうございます。おかげで理由が分かりました」


「では始めようとするかの。わしはアートとともに石扉の近くでこの探知機を使って調査を行う。コミは、探知機から算出されるデータを確認する機械を使い、作業台の方でおかしなことはないか探してくれないかの?」


 ベルの指示に従い二人は行動を開始する。アートは博士とともに石扉の近くへコミはデータを確認できる機械を持って作業台に移動した。アートは石扉の近くまで来ると遠くからでは見えなかった彫刻が確認できた。


「きれいな彫刻ですね」


「そうじゃろ?わしも初めて見たときはあまりの綺麗さにビックリしたもんじゃ。さてわしは調査を始めるからアートは何か変わったものはないか探してくれ」


 アートはベルに言われた通りにおかしなところはないか探してみる。だが分かるのは石扉に彫られている彫刻が綺麗というだけであった。それでも数時間は探してはみたものの特におかしな点はなかった。それはベルもコミも同じであった。三人はいったん昼食のため作業台付近に集合する。


「コミ、アートよ何か進歩はあったかのう?」


 その質問に二人は首を振り特に無かったと答える。その答えにベルは落胆したが、まあ始めたばかりだしのうと納得し昼食の準備をおこなう。外で食べるため軽食ではあったが、コミが作った料理はどれもおいしかった。昼食を食べ終わり後片付けをしていた途中でアートはふと違和感がよぎった。石扉には綺麗な彫刻があったが果たして本当にそれだけだったかと。片づけを終えてから再び石扉へと向かう。その途中で違和感の正体に気づいたアートは戻り二人にそのことを話す。


「ベル博士、コミさん少し分かったことがあります」


 その言葉に二人は驚きを見せる。


「アートよそれは本当なのかね?」


「ええ、でも確証は持てませんが」


「それでもよい。いったいどんなことが分かったのじゃ?」


「僕は石扉の彫刻に違和感を持ちました」


「あの彫刻ですか?特に何もなかったような?」


「そうです。特に何もなかったんです。ですがそれは近くで見たときであって少し離れたところから見れば変わってきます」


「なるはどの。ではアートは何が見えたんじゃ?」


「文字です。あの扉には大きく文字が刻まれていました」


「文字じゃと……もしやその文字とは」


「その通りです。福音に書かれていた文字と同じものだと思います」


「まさか、その文字が扉を開くヒントになるかもしれないということですか?」


「ええ、あくまで想定ですが」


「なんでもいいのじゃ。とにかく一歩進んだということかの。アートよ、その文字とやらの解析を頼めるかの?」


「了解しました」


「さてコミはわしと一緒に扉の文字でも見てみるかの?」


「はい。私も見てみたいです」


「というこのなのでアートよ頼んだのじゃ」


 ベルとコミは先に石扉へと向かう。アートは本を取り出してから二人の後を追った。石扉を遠くから見ることで確認できる文字を本の文字と照らし合わせて解析してみると一つの言葉が見えてくる。アートにとってそれはどんな意味を持っているか分からなかったが、とりあえず解析結果を話すため石扉の前で話をしている二人に近づいた。アートが近づくとベルが振り向く。


「何か分かったのじゃ?」


「ええ、ただこの言葉に一体どのような意味が含まれているかは分からなかったです」


「別に構わんのじゃ。それでどんな言葉だったのじゃ?」


「マホウ、チカラ、トビラ、アクでした」


「なるほど、これは間違いなく扉なんじゃな。じゃが……マホウ、チカラとはいったいなんのじゃ?」


 ベルは結果を聞くと考え込んでしまった。アートは考え込んでしまった博士をどうしようかと悩んでいると近くにいたコミが博士はいつもこうなんですよと言ってから、石扉の前まで行きませんかとアートに動向を求める。どうにも一人では近づきにくいらしい。


「アートさん、ごめんなさい。一度も近くでは見たことがなかったので」


「いいですよ。僕は今、どうしようか困っていましたから、それじゃ行きましょう」


「はい」


 アートとコミは石扉の目の前に向かう。


「遠くからでも分かっていましたが、かなり大きいですね」


「これが扉だとは思えませんよね」


 目の前まで近づいた石扉はかなりの大きさで壁にしか見えない。


 フィィィィン……


 突然、音が聞こえてきた扉に驚く。


「さっきのは音は……」


「音……」


 今の音に混乱していると後ろから博士が走ってくる。


「二人とも、さっきの音は……何なのじゃ?」


 息を切らした状態で到着した博士はそのまま質問する。


「ベル博士、僕たちもさっぱり……コミさん?」


「コミ?どうしたんじゃ?」


 二人の声が聞こえないのかコミは心あらずといった顔で扉に手を付けていく。声が、聞こえる。そのような言葉をつぶやいた時……


 空気が震え強い風が吹き上がる。手を中心に扉に青白い線か駆け巡っていく。その線は不思議な模様を描いて風と共に止まった。


 手を離したコミは崩れるように倒れた。二人はさっきの光景に驚きながらも倒れたコミに気づき、そばへと駆け付ける。


「ベル博士……」


「分かっておる。じゃが今はコミを休ませよう」


 二人は手分けして片づけをする。さっきの光景に疑問を描きながらも家へと戻りコミを休ませた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る