第三話 町の奥の一軒家
石壁へと続く草が生い茂る道で、草むらを掻き分けている音が聞こえる。
「町の奥とは聞いていたが、
アートは、ぼやきながら草むらを掻き分けていた。だが足を何度進めても目に見えるのは草むら。
「道あっているよな」
本当に道があっているのか不安になってくる。気が付いたら何度も地図を見返しながら足を進めるようになっていた。そんな時、立派な石柱が視界に入ったのだ。
「あちこちに石柱が散らばっている。この道で間違っていなかったんだな!」
同じ景色から一転し目新しい景色が視界をおそい、道が間違えていなかったことに確信をして喜んだ。
「しかしこの石柱は一体」
アートは近くにあった石柱へと足を運び、手で触れ、顔を近づけながら調べだした。しばらく石柱を調べていると表面を何かで削って作ったと思われる彫りを見つける。
「これはどこかで……」
その彫を詳しく観察していると記憶の片隅に引っかかったため、どこかで見たのか記憶を掘り起こしながら呟いていると、驚いた表情をしてから乱雑に麻袋を開き、書物を取り出しページをめくり出す。めくる手を止め石柱の彫りと開いたページを交互に確認しながら頷く。
「間違いない。書物に書いてある文字と全く一緒だ」
アートの中で大きく確信をするとともに声を出しながらゆっくりと読みだした。
「ワレラ、マホウ、ツカウ、タミ、カミ、アールド、ミチビキ」
どうやら文字によると過去にマホウという物を使う人がいてアールドという神を崇めていることが分かった。
「専門家が調べた後だったが、まだ島には謎が残っていると感じる。それを解き明かすカギは間違いなくマホウだがマホウとは一体なんだ?」
頭を悩ませるがマホウという物が一体どのような物なのか一向に分からない。他の石柱も調べてみるが同じ文字ばかりが並んでいることだけが分かっただけで、マホウに対しては何も分からないまま時が過ぎていく。
「結局、分からず仕舞いか」
どう頭をひねってみても分からないままだったので、いったん保留にすることにして石柱がある場所から離れ歩き出す。だが長いこと石柱を調べていたせいか日が沈みはじめていることに気づいた。
「周りが暗くなってる。こんなところで野宿なんて嫌だけど、こんな場所で泊まれる場所なんてないよな」
野宿は想定していたが、やはり温かい寝床で眠りたいと欲が出てくる。アートの祈りが通じたのか明かりが点いている家を見つける。さっそく家に近づき今晩泊まってもよいか聞いてみようと試みるが、ダメだったら野宿は確定だなと内心思いながら扉を叩く。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
すると、家の中から物音が聞こえてきた。扉が開かれ女性が姿を見せる。急いできたのだろうか少し息が荒げており顔を下に向けている。顔を上にあげ目の前にいる彼の存在を確認すると慌てながら息を整え口を開く。
「どちら様でしょうか?」
中から女性が出てくるとは思いもせずアートは少し驚くが、本来の目的を思い出し質問する。
「僕の名前はアート。今晩だけでもいいので泊まらせてくれませんか?」
彼女はその言葉を聞くと、少し悩んだ様子を見せてから答えた。
「ごめんなさい。訪ねてこられた方を町から離れた場所などに放っておくことなどしたくはないのですが私一人での判断ができないのです。ベル博士が戻ってきてくればお応えできるのですが」
期待していた言葉が聞けず、肝心の家主がいないため泊まることができないと悟る。
「そうですか……失礼しました」
「待ってください」
今夜は野宿になりそうだとアートは残念そうに落ち込みながら踵を返したとき、彼女に腕をつかまれ引き留められた。突然腕をつかまれ驚愕したが何か用がありそうなのでアートは踵を戻す。彼女はアートが踵を戻そうとするとつかんでいた手を放し、体勢が整うまで待ってから話しだす。
「私の名前はコミです。ベル博士の助手をしています。ベル博士はここより奥にある石の扉の研究を始めると一向に戻らなくなるのですが夜には帰ってきます。でも今夜は何故か戻ってこないのです。失礼だとは思いますが、一緒にベル博士を連れ戻してくれませんか?」
どうやら戻ってこない博士をコミは連れ戻したいとお願いがしたかったようだ。
「連れ戻してくださればアートさんが今夜泊まれるように話をつけさせてもらいます」
博士を連れ戻した場合のアートへの利点も提示をする。博士を連れ戻せたら泊まることができるかもしれないという提示に、アートは早急に口を走らせた。
「分かりました。ベル博士という人を連れ戻しに行きましょう」
その言葉にコミは喜び感謝をすると意気込みを見せた。
「ありがとございます。ベル博士を連れ戻したらすぐにアートさんが泊まれるように説得させます!」
支度をするので少し待っていてくださいと家の中に戻っていくが急いで支度をしているのか外にいても足音が聞こえてくる。途中、何かをぶつけた音や声にならない悲鳴を耳にしたかと思えば急激に静かになった。
大丈夫かと不安になったためドアノブに手をかけると勢いよく扉が開かれ木材の音を大きく奏でながら顔面を強打し後ろへと倒れた。
「いてて」
痛みをこらえ顔を抑えながら起き上がったのはいいもの、痛みがなかなかひかない状態が続く。その一連の事態を起こしたコミは唖然としており、頭の処理が追い付いていないようだった。
「ごめんなさい!大丈夫ですか!」
頭の処理が追い付いてくるとアートが無事か確認を取りながら肩にかけていた麻袋を地面におろし治療用の道具を取り出していく。
「今から手当てをします。少し動かないでくださいね」
薬を持ながら顔面の近くまで接近し手で顔を固定しながら赤く変色している場所に傷薬を塗っていく。手で顔を固定されたまま傷薬を塗られていると女性特有の匂いが鼻を刺激する。更にコミの真剣な顔が近くにあり逃げ出したくなる衝動に駆られたまま長く感じる時を過ごす。そんな状態が続いていると不意に顔から手が離れる。
「よし、終わりましたよ。まだ痛いですか?」
しかしアートは反応を示さないようで、不思議に思ったコミは目の前で手を振り意識を確認する。すると意識を取り戻したかのような反応をし、出発をうながしだした。
「さあ、博士を連れ戻しに出発しましょう!」
そういうと一人で先に進んでいこうとする。コミは散らばったままの治療用の道具を急いで片づけ進んでいく彼を呼び止めるように声をかける。
「待ってください!」
麻袋を肩にかけると駆け足で先に行くアートを追いかけだした。
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