第二話 ディストリア諸島

 波打つ音が聞こえ、髪をなでる潮風が眠気を誘う海の上で男の声が鳴り響いた。


「起きろ坊主!」


 誰かの声によりアートは重たいまぶたを開ける。太陽の光がまぶしいのか、半開きにさせたまま、欠伸を交えて目をこすり、まだ眠たそうにしている体を強引に起こした。


「徹夜明けは厳しかったか……」


 アートが眠気を取るために背伸びをしていると、男性の声が船の操舵室の方から聞こえてきた。


「まったく、昨夜はディストリア諸島の謎を解くと息巻いていたじゃないか。大丈夫か?まあ、そんなことより前を向きな。見えてきたぜぇ、お待ちかねのディストリア諸島だ!」


 操縦士の男に言われるまま前へと顔を向ける。目の前に広がるそれは何の変哲のない海に浮かぶ、中央に大きな山がそびえ立つただの島だった。


「これがディストリア諸島」


 だがアートの目には宝島とでもいうかの如く輝いていた。


「坊主、妄想なんかしてないで準備をしな、船を近づけるぞ」


 そう声を耳にすると妄想から意識を戻し急いで支度を始める。


 支度を進めるにつれ、船とディストリア諸島への距離が近づき船着き場に船が寄せられた。


「さあ着いた。フューリからディストリア諸島までの代金は千ゴールドだ」


 船から降り、麻袋から指定された金額を取り出し渡す。


「帰った時には坊主の冒険譚を聞かせてくれよ?」


 男は船のエンジンを掛け直しながら問いかける。


「もちろん期待していてくれよ?」


 アートがその問いに答えると、男は満足そうに頷きながら船着き場から離れていった。


 船が見えなくなるまで見送ると、島へと向き直り気合を入れた。


「さて!待ってろよ。絶対に見つけてやるぞ!」


 未知なる冒険に期待を込めながらアートは歩み出した。それから島をあちこちと探し回ったり、現地に住む人達から聞き込みをしたが。成果は上げられなかった。


「何も見つからない。過去に専門家たちが論文を発表した内容しか耳にしないし」


 今のアートは酒場のテーブルに突っ伏しながら呟いていた。突っ伏した状態のままでいると気になる話が耳に入ってくる。


「なあ、町はずれに住むオッサンって、いつも何してるんだ?」


 男は疑問に思いながら相方に話を進めていく。


「数年前に島に来てから山にある石壁に張り付いてばっかで気味が悪いんだよ」


「分からん。気味が悪いのは確かだ。たまにぶつぶつと呟いているのを見かける」


 会話を耳にしたアートは意を決し話をしている男たちのテーブルへと向う。


「今の話、詳しく聞かせてもらえないか?お礼はする」


 アートの突然の言葉に驚きながら振り向き、少し悩むそぶりを見せた後、相方に目を向けながら答える。


「勿論お礼をしてくれるのなら喜んで話をさせてもらうぞ。なあトビー」


「ああ、問題ない」


 その後、彼らから聞いた話では町の奥に石柱と一軒家があり更に奥へ進むと、いつからあったのか分からない石壁があるとのこと。ただ奇妙なオッサンが張り付き、ダンスを踊っているみたいだ。話を聞いたアートは石壁にとても興味をひかれたが、そこにいるオッサンは大丈夫な人なのかと不安にもなった。


「いい話をありがとう。お礼はこれぐらいでいいかな?」


 アートはテーブルに千ゴールドを置いた。


「ああ問題ない。そうだろ?アレックス」


「トビーの言う通り何も問題ないが、こんな情報に支払う金額にしては多いと思うんだが」


「いや、僕にとってはそれぐらいの価値があったんだ」


「兄ちゃんがそう言うなら、ありがたく貰っておくぞ」


 アレックスは満足そうに微笑むと相方のトビーと金を分け合う。それを確認したアートが席を立ち外へと足を運ぼうとすると、先ほど会話していたトビーが声をかける。


「もし行くのであれば止はしないが、あそこにいるオッサンには近づかないほうがいいぞ」


 それだけを言うとトビーはアレックスと会話を始める。


「ありがとう」


 トビーの言葉に感謝の言葉をのべ、再び足を運び外へと続く扉を開けた。

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