24.若者たちの夢

「で、真相は掴めたのか?」


 増田がプリングルズをひらひらさせながら聞いてきた

 俺はポテチと言えば袋に入ったやつ――特にのりしお味――が好きなのだが、増田はプリングルズのサワークリームがお気に入りだ。2枚重ねて食べるのが増田流らしい。3枚ではダメだとか。正直よく分からん


「いや、今ばあちゃんたち海外旅行に行っててさ。帰ってきたら母さんが聞いてみてくれるって」

「それまで待ちか」

「世界一周だから結構かかるらしい」

「へえ。それなら焦っても仕方ないな」


 増田には由香さんの話はしていない


(でも、たぶん)


 何となく由香さん絡みだということは気が付いていると思う


「それにしても海外旅行か。いいなあ」

「80歳を前にして初の海外旅行だとさ。長年頑張ってきたご褒美だからなあ、夫婦水入らずで楽しんできてもらいたいものだ」


 じいちゃんばあちゃんはもうすぐ傘寿を迎える。それまで大病することもなく元気に暮らしてきたのは本当にすごいことだと思う


「俺も世界一周したいな」

「意外だな」


 増田にそんな冒険心があったとは思わなかった


「一年くらい休んで日本からいなくなりたいよ」

「そっちかい」


 現実逃避は勤め人のあるあるだ


「無理だよなあ」

「我慢して長年勤め上げてきた人のご褒美だ」

「実際、退職後まで元気でいられるか分かんねーぞ?体力があるうちに行った方が合理的じゃないか?」

「たしかに――」


 確かに若いうちに世界を見たり、体力があるうちに色々な経験を積んだりすべきだ。それができれば理想的だろう。しかし――


「しかし、社会はそういう風にできてない……少なくとも日本は」

「夢がないねえ」

「一生懸命働いて、お金を貯めて、健康に気を付けて過ごしていれば、退職後にどこへでも行ける。現実的な夢じゃないか‥‥‥一応」

「果たしてそれは夢なのだろうか?」


 なんだか気が重たくなる。独身男2人の会話がこれじゃあ、日本の少子高齢化も当分改善しないだろう


「まあ、仕事を辞めてしまった俺が語る話じゃないわな」


 自虐ネタで空気を変える


「いや、上司をぶん殴って辞めるなんて、夢でしかないぞ」


 さすが増田。鋭い切り返しだ


「だからぶん殴ってないって」

「ハハハハハ」


 役所を辞めて古本屋で働くようになってしばらくが経った。少しずつ役所勤めのことを思い出す回数も減ってきたと思う


「まあ、もう過去のことだよ」

「おう、前向きだな」


 しかし、このときの俺は想像もしていなかった。その過去の出来事が新山古書店に迷惑をかけることになってしまうとは。

 あいつが現れるなんて‥‥‥

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