22.母の勘は鋭い
晩酌がてら【梅一輪】の話で盛り上がった
親父とこんなに話したのはいつぶりだろうか。中学生…いや小学生の頃が最後かもしれない
そこへ母さんが台所を片付けて会話に加わった
「亮が本の話をするなんてね」
「まあ色々あってね」
「色々ねえ…」
そう言うと上機嫌に「うふふ」と笑った
「なに?」
「ううん、なんでも。……ちゃんと成長してくれたなって」
中学に上がってからは思春期、反抗期、それが終わってからも何となく親との心の距離を感じていた。社会人になった今、程よい距離感で会話ができている。大人になってようやく同じ目線に立てたということだろうか
「そう?大して変わってないと思うけど」
少し酔った声で親父が割って入った。親父は酒が入ると陽気になるタイプらしい
「たしかに変わってない。でも、変わった」
「なんじゃそりゃ」
などとツッコんでみたが、とりあえず褒めてくれているのは分かる
「良い経験を積んできたんだな」
久しぶりに話した勢いか、それとも酒の力か。そんな恥ずかしくなるようなセリフを親父はしみじみと言った。俺は照れかくしで焼酎の入ったグラスを煽る
母さんが横から茶化すように付け加える
「良い出会いもね」
「ぐほっ」
思いも寄らない言葉に思わず
「な、なにを」
「そういうのはだいたい恋愛がキッカケって相場が決まっているのよ」
「そういうのって?」
「急に本を読むようになったとか」
図星である。由香さんの顔が浮かんだ
さすが母の勘は鋭い
(ここは話を逸らそう)
「そういうなら、最近ゴルフを始めた父さんはどうなんだよ」
「まあホント!あなたまさか
「なんでそうなる」
流れ弾が当たって親父は困り顔だ
それを見て母さんと二人して吹き出した。親父もつられて笑う
久々の一家団欒。こういうのもいいものだ
(功じいと由香さんのおかげだな)
心の中でキッカケを作ってくれた二人に感謝した
(出来れば由香さんにも同じように楽しい時間を過ごしてほしいが――ただ……)
由香さんのお母さんを探し出すことが良い結果につながるとは限らない。精神的に参っていたとはいえ幼い娘を置いて失踪した母親だ。こんなふうにすぐに元通りとはいかないだろう
(それでも)
由香さんが会いたいと望んでいるのであれば、会わせてあげたいと俺は思う
そのためにも、あの詩の出所を突き止めなければ
子どもの頃の記憶なら両親がなにか知っているかもしれない
「本と言えばさ、こんな詩を聞いたことない?」
俺はできるだけ自然な感じで話を切り出した
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