21.家族とは不思議なもので

 家族とは不思議なもので、久々に会ったぎこちなさも数分で"いつもの"家族に戻っていた


「元気にやってるのか?」

「ああ、元気だよ。父さんも元気そうだね」


 日に焼けた肌は俺が知っているよりも逞しく見える


「で、今は何をやってるんだ?」


 俺ではなく母さんの方を見て問いかけている


「さあ?」


 母さんは俺へ水を向けた

 肝心なことは母さん経由で話す。いつもの感じだ


「本屋で働いてるよ」

「ほう、本屋か」


 なんだか嬉しそうだ。どんな反応が返ってくるかとか予想していたわけではないが、嬉しそうな反応というのは予想外だ


「パートだけどね」

「それがどうした。自分で選んだ仕事だろう」


(自分で選んだ仕事……役人もそうだったはずだが)


 両親は前職を辞めたときも、今も退職した理由などを詮索することはなかった


「もしお前が役所をやめたことを世間体や何かのために後ろめたく思っているなら、それは間違いだ」


 母親も頷いている


「仕事辞めたからって、家に帰って来にくいとか思わないでね」

「そんなこと…思ってないよ…」

「それならいいけど」


 とりあえず、俺には帰る場所がある

 自分のアパートと実家――そして増田のアパートだ


「それにしても本屋とはな」

「意外ね」

「でしょ」


「そう言えば、あれ読んだよ――【梅一輪】」

「ほう」


 親父の目が光った

 こんな表情は初めて見た気がする


(功じい……もしかしたら、何かが変わったかもしれないよ)


 ほんの小さな何かだけど

 今は功じいに感謝している

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