16.彼女の生い立ち1
彼女は出版社に勤めるお父さんと童話作家のお母さんの間に生まれた――
「父は仕事が忙しくて、あまり家にいない人でした。それでもたまの休みには一日中遊んでくれたり外食に連れて行ってくれたりと、家族思いな父親だったと思います
母はそんな父と私を心から愛してくれていて、家のことや私のことをやりながら童話を書いていました
そんな忙しい両親でしたので、子供のときは欲しいおもちゃは何でも買ってもらえました。なかなか構ってあげられないことの埋め合わせという意味もあったんだと思います
でも幼かった私が好きだったのは、お人形でもゲームでもなく母が書いた童話だったんです。私がお話を読んで感想を言うと、母はとても嬉しそうに聞いてくれました
一番のお気に入りは【いずみのお姫様】というお話でした
その中で出てくるお姫様は私の憧れでした。黒木さんは私のことを上品だと言ってくれましたが、たぶん私の立ち振る舞いはそのお姫様の影響を受けているんだと思います」
由香さんはそこで一旦呼吸を置いた
「お姫様になりたかったんですか?」
「はい。子供っぽいですよね」
彼女は笑った
「いえ、全然そんなことはないですよ」
子供の頃に憧れのヒーローやヒロインの真似をするのは誰しもがやった覚えがあるはずだ。しかし、多くの人にとってはそれはあくまで子供の遊びであって、人格形成に影響するということはほとんどないだろう
「それだけその童話が好きだったってことですよね」
「そうですね。私も‥‥‥母も好きなお話でした」
(お母さんも……)
お母さんが好きな童話。きっと彼女にとっては特別なものなのだろう。でも、彼女のお母さんは失踪した‥‥‥
「私の6歳の誕生日の少し前に父が交通事故で他界したんです」
「‥‥‥」
黙ってうなずいた。こういうとき何といえばよいか、俺には分からない。でも彼女が話してくれるのならば、俺は全力で受け止めたいと思う
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