第2章 ~万由里と祖母とバスケ馬鹿と~
第12話 世界のゆくえは?
たむろする男子高校生を追い払った翌日、つまり夏休みの2日目。
俺たちは様子を確認するために再び“山”の方へと来ていた。
見に行ってみると、昨日と変わったところが2箇所。1つは瓦の崩れた神社の本殿の周りに立入禁止の柵が囲われていたこと。
そしてもう1つは、そこにいたのは男子高校生の集団ではなく、代わりに1人の未来人の男が立っていること。
「うわ、今日はあいつがいる」
六花はまだ、あの未来人に対して警戒感を消していない。反対に、貴人は未来人に気づくとその場でいっそうはしゃぎだした。
「祐介! 未来人だ!」
「だな」
「早く訊きに行こうぜ。俺たちは世界を救う英雄になったのか!」
小走りの貴人に引っ張られて、六花と一緒に仕方なく早足でついていく。7月後半の日中の日差しをもろに受けながら急ぐのは、なかなか辛いものがあった。
「来ると、思ってた」
鳥居をくぐると、未来人は相変わらずのカタコトで出迎えた。
「俺たちを待ってたのか?」
未来人は深くうなずいて答える。
「ここにいれば、会えると思って」
「相変わらず熱心だな」
「俺は、そのためにこの時代に来た」
貴人も六花も、俺と未来人の会話の様子を見守っている。
いつの間にか、すっかり俺が未来人の担当みたいになっていた。
「とりあえず相沢万由里の困りごとは解消させたけど、これで世界の崩壊は防げたってことでいいんだよな?」
ずっと、会えたら訊きたいと思っていた問い。この世界のゆくえについて。
あのくだらない攻防で、本当に世界は救えたのだろうか。
「いや」
未来人は、短くひとことでそれを否定した。
「なんで? 相沢の困りごとはなくなったんじゃないのか?」
「高校生を追い払ったのは見てた。けど、それじゃない。相沢万由里を救う鍵は、もっと違うところにある」
(まあ、さすがに違ったか)
バタフライエフェクトみたいに、実はあの高校生が何か未来に大きな影響を与えるのかもと思ったけど、そんな簡単な話ではなかったみたいだ。
「だったらさ、どうすれば世界を救えるのか、もっと具体的に教えてくれてもいいんじゃない?」
焦れたのか、六花が間に割って入った。確かに、その言い分はもっともだ。
「それは、言えない」
「なんでよ。それが分からなきゃ、どうしようもなくない?」
未来人は黙ったままで何も答えない。
六花は、「はぁ」と大きなため息を漏らした。
「そもそも、あんた本当に未来から来たの? そこからして怪しいんだけど」
「そうだ。俺は確かに未来から来た」
「じゃあ、未来って具体的にいつ? 今から何年後? 2000なん年? iPhoneはなにまで出てる?」
「まあまあ、まあまあ! 六花ストップストップ!」
畳みかけるような六花の質問を貴人が慌てて止めに入る。
六花はムッとして、少し不満そうだ。
「ちょっと、邪魔しないでよ。祐介も、こいつのことは気になるでしょ……?」
「まあ、それはそうだけど……」
未来人は黙っているが、六花からの質問攻めにあって、どこか悲しそうな顔に見える。確かに訊きたいことは山ほどあるけど、さすがにかわいそうになってきた。
「なんか俺らに言えない事情でもあるわけ?」
未来人は申し訳なさそうに深くうなずいた。
「どうか、信じてほしい。詳しくは話せないが、嘘は、つかない」
カタコトの言葉から、確かに必死さは伝わった。
こんな姿を見せられて、これ以上追及することはできなかった。
「信じるよ。お前が本当に未来から来たってことも、詳しく話せない事情があることも」
本当に、ただの直感でしかない。
当たり前に考えれば、六花の感性の方が正しいのは分かっている。だけど、この未来人の男は嘘ついていないという確信があった。
「ちょっと祐介、いくらなんでも……。まあ、祐介がそう言うなら、あたしも信じるけど」
「おう。俺も最初から未来人と祐介を信じてるぜ」
仕方なく折れた六花に貴人が続く。
「ありがとう」
未来人は安堵したように息を吐いた。「この男は本当に未来から来たのか?」という問題は、なんとか一件落着した空気になった。
(だけど、本当に肝心なのは――)
「結局、相沢万由里を助けるって、どうすればいいんだよ」
世界の崩壊を防げていないなら、また問題は振り出しだ。
いったい、どんな風に相沢を助けることができれば未来で世界を救えるんだろう?
「なあ祐介。あれって」
貴人が突然、鳥居の向こうの通りの方を指さした。
振り向いて指の先を視線で追うとそこには、大きな荷物を持って歩く女の子の姿があった。
棚のような四角い荷物を両手で抱えて、ふらふらと危なっかしい様子で歩いている。
小柄な身体ときれいな黒髪、そして後頭部の大きなリボンは、相沢万由里に間違いなかった。
「あいつ、なにやってるんだ……?」
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