第二十四話 宮内先生の水筒
「見てください。これは一雨ありそうですな」
長官がこういうと、明智大臣も外をのぞきこんだ。
「ああ、これは空が真っ暗ですね」
「まいったな。
「
運転手さんがこういったので、長官はお礼をいった。
「いやあ、かたじけない。それでは、もし降り出したらお借りしてよろしいですかな」
「もちろんですよ」
最近では
宮内先生の家は
「まだ降ってないようですな。すみませんが、お二人はここで待機してもらえますか。さあ、大臣。行きましょうか」
そういって長官は車を降り、
もし、この場に私と光成がいたら、宮内先生の自宅周辺を取り囲むように、
なぜだろう。明智大臣には秘密の理由で、UOKwは何か不測の事態にそなえているのだろうか。
車から降りて家の門を目の前にすると、明智大臣は
「これは……、すごいご自宅ですね」
明智大臣が驚くのも無理もない。宮内先生の自宅はとてつもない
「私も最初は驚きました。宮内先生は資産家としても知られているのですよ」
明智大臣と長官が話していると、目の前にある木製の重そうな門が静かに開き、やたら体格のいい男がこちらをのぞきこんできた。
この男は名を関谷という。元力士の大男だった。
「やあ、関谷さん。ご
「どうも、お世話になっております。あの、せっかくお
「なんと。そうでしたか。昼過ぎにお会いする約束だったのですが、何かあったのですか?」
「それが、ご存知の通り宮内は
「そうですか。ちょっとですね、大切なお話をする約束でしたので、お
「そうなのです。すぐに帰ってくればいいのですが。それでは中にどうぞ」
「それではこちらで少々お待ちください」
関谷さんはそういうと
この部屋は
ほどなくすると、中肉中背の中年女性が入ってきて、紅茶の入ったティーカップを大臣と長官の前に置くと、お
この女は名を北島という。近所に住む女で、宮内先生がほとんど家にいなかったことから、こんなに大きな
北島さんが出ていったかと思うと、今度は
「ああ、どうぞおかけになったままで結構ですよ。せっかくお
この女性は宮内先生の
「こちらの方はお役者さん? それとも歌手だったかしら。テレビか何かで見たような顔ですわね」
「申し
「ああ、そちらの方でいらしたのね。さあ、どうぞどうぞ、おかけください」
そういわれて明智大臣と長官は
「宮内先生はどうされたのですか?」
「それが
「ええ、まあ、そうですね……」
長官は
「さあ、どうぞ、紅茶が冷めてしまいます。熱いうちに
「ああ、すみません。いただきます」
そういって、長官と
「それで?」
二人が紅茶を飲む様子を
「ああ、失礼いたしました。本日は先生と大切な約束がございまして……」
「
「あ、なるほど、失礼いたしました。実に美味しい紅茶でございます」
「そうですか。どうして主人のお客様はいつもこうなのかしら。紅茶の感想もなければ、ティーカップについても何もお気づきになりません」
「おお、確かに素敵なティーカップですね。実にエレガントです」
「もう結構です。だから北島さんにいったのよ。どうせ主人のお客様には
「は、はあ」
「それにあの人ったら、スーパーで売ってる麦茶のパックがあるでしょう? 水に入れておくだけで麦茶になるパック。あれを直接
遠くで電話が鳴っているのが聞こえた。
「主人かしら? ちょっと失礼しますね」
そういって
「ごめんなさいね。奥様が
「ああ、そうだったんですね。今の電話は先生からなのですか?」
「電話は関谷さんが出ていましたが、旦那様相手の口調ではなさそうでしたね」
「はあ、そうでしたか」
「それとですね、
そういって、北島さんはくすくすと
「しかし、明日から旅行だというのに、
「まあ、帰りの電車が止まってしまうこともあるでしょうから、予定通りにはならないこともあると思いますけど、それでも連絡はあったように思います……。ああ、降り始めたようですね」
窓からのぞく空は重々しい雲でおおわれ、ぽつりぽつりと降り始めたかと思うと、またたく間に土砂降りになっていった。午前中まで晴れていたのがウソのようである。
そこに
「どうしたの? 関谷さん。そんなに青い顔をして」
「突然ですが……、あの……」
関谷さんは息を飲みこんで続けた。
「たった今、警察から電話がありまして、あの……、
「え……、ええ?」
「なんだって? それは事故なのか事件なのか、どっちなのかね!」
こういったのは長官だった。
「じ、事故だそうです!」
「事故?」
「
「それが、かなり取り乱されていて、せっかくお二人がお見えになっているところ申し訳ないのですが、
今回、宮内先生は若い登山グループに同行して山登りに出かけていた。予定していたスケジュールでは、前日に登頂を終え、山小屋に
朝五時前から山小屋を出て二時間ほど歩いたところだった。あと小一時間程度で下山できるところだったが、宮内先生はキジ
ちなみに、「キジ撃ちに行く」というのは、「ちょっとお手洗いをお借りします」といった
グループのメンバーはその場で
警察へ正確な場所を伝えることができていたため、救助隊員の
窓を閉め切った室内でも激しい雨足が聞こえてくる。まるで
話は少しそれるが、後日、宮内先生の遺品が自宅へ
奥様は北島さんに支えてもらいながら力なくよろよろとその遺品に近づき、
それは、まるで突然に起きた交通事故のような、散乱するランドセルや
それを見た奥様は、聞いたこともないような悲鳴と身もだえするような嗚咽をもらして、水筒を
さて、話を元に
それにしても、宮内先生の自宅周辺に隊員を配備するなど、
なぜ、そんな想定をしていたのだろう。アカシックレコードD.E.大学とメロンズ教授について、UOKwの創設者の一人であり初代副長官だった人物から話を聞くことが、それほど様々なことを想定しなければならなかったことなのだろうか。
あのうどん店で、長官がすべてのことを
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