第二十二話 特定非営利活動法人サンズマッスル
「長官、お待たせいたしました」
明智大臣に長官と呼ばれた男は
「いえいえ、大臣もお
「ええ、おかげさまで今回の会合自体はなんとか」
「それで、サンズマッスルは? 何かいってましたか?」
「さすがにもう
「現状ねらい通りに進んでいるというわけですか。それにしても、よりによってあのような者と関わりがあったとは……。宮内先生にこれから話しに行くことを考えると気が重くなりますよ」
「まったくです。今回の人選は入念に下調べしていたつもりなのですが。実際、サンズマッスルは光合成
「でも、まあ、あの理事長は宮内先生の弟子みたいなもんでしたから、他の
長官は運転手さんの方を見てそれ以上いうのをやめた。そして、
ご存知の通り、サンズマッスルというNPO法人は、理事長やシニアプレイヤーの
話は少しそれるが、明智大臣が車で移動し始めたちょうどその
以前、市民プールにてドキドキ☆ゲリラプールinサマーという勝手イベントがゲリラ的に行われていたが、この時に参加した光合成人間の一人に、坂本と同じ会社に勤めていた
その同僚は市民プールでの
彼はゲリライベントに参加していなかったので
一人暮らしだった彼にとって、
これまでの彼は自身が光合成人間であることをかくしてきたが、会社でそれがバレてしまったこともあったので、この際ハローワークでもカミングアウトして、自分が
窓口で自分が光合成人間である
サンズマッスルの
サンズマッスルの事務所は、駅からやや
坂本はたまたま近くに住んでいたということもあったので、インターネットではなくこの事務所へ直接訪れることにしたのだった。
事務所へ入ると窓口には受付番号の発券機が置いてあって、坂本はそこから整理券を取ると待合スペースにあるソファーに
しかし、たった今呼び出されたというのに、窓口にいる女は後ろを向いているではないか。坂本は声をかけた。
「あのう、番号を呼ばれた者ですが」
「こんにちは。どうぞ、おかけください」
女は
「
「あ、はい」
坂本は
「そうしましたら、こちらをお読みになって、住所、氏名、生年月日をご記入ください」
そういって、顔の見えぬ女は
「は、はい……」
その用紙には申込日と氏名、住所、生年月日を記入する
「ありがとうございます」
女はそういうと、用紙を見てパソコンにパチパチと入力し始めた。
「それとですね、一応、本当に光合成人間かどうか確認をさせてもらっていまして、失礼ですが、こちらを
そういって女は
「へ? あ、こういうので確認するんですね?」
「そうなんです。窓口にいらした方はこっちの方が簡単なので。オンラインの方ですと血液検査になるんですけど、失礼ですが、パワーってあります? 一応200キロくらい出していただかないと、光合成人間だと認められないんですけど。あまりパワーのない方もいらっしゃるので」
「に、200キロ?」
「ええ、光合成人間でない方の世界記録で、192キロも出した方がいらっしゃって、ホントかって思いますよねえ? でも、それを基準に規則が作られちゃって申し訳ないんですが、もし差し支えなかったら、表でやっていただいても結構です。今日は天気もいいですし。あ、一応、この
顔の見えないサラサラ
「いや、ええっと、わかりました。やってみます」
光合成人間は
表に出た坂本はなるべく
坂本は
「あ、終わりました? 確認させてもらいますね? どれどれ。ああ、オッケーです。これで記録させてもらいますね」
そういってサラサラ髪の女はパソコンにパチパチと入力し始めた。こんな
「これで200キロ出なかった場合はどうなるんですか?」
「その場合はですねえ、血液検査になります。血液検査だと
「けっこういらっしゃるんですか?」
「はい? あの、もう一度よろしいですか?」
「あの、200キロ出ない方って、けっこういらっしゃるんですか?」
「いやあ、多くはないですけど、でも、いらっしゃることはいらっしゃいますよ? 天候とかもあるかもしれませんけど」
坂本はこの女も200キロ出せるのか気になった。見たところかなりやせている。「ちなみに、あなたは……」といいかけ、あなた呼ばわりするのもどうかと思い、胸に名札がついていることに気づいて、そこに書かれた文字を読んでみた。そこにはこう書いてあった。
更々上野。
さらさらうえの? と読むのだろうか?
坂本は名札を見つめながら「さらさらうえの……」といいかけると女が答えた。
「あ、私の名前ですか? これで『さらさらかみの』って読みます。名札には名字しか表記しない規則になっていますので、名字だけで失礼しますね」
「ああ、そうなんですね」
最近ではカスタマーハラスメントが社会問題になっているためその対応であろう。規則で従業員を守っているのだ。サンズマッスルがどんな団体か心配だったが、意外と従業員思いの団体そうである。
「それで、ええっと、
坂本がこう聞くと、パチパチ入力する女の手が止まった。
「…………。それは私が光合成人間かどうか
「へ? ああ、すみません。ちょっと気になったものですから、失礼しました」
「そういったスタッフの個人的なことについてはお答えできない規則になっております。
サラサラ
この時に坂本は気づいたのだが、パソコンに入力する女の手が左右逆なのである。
「ちなみに……」
女は何食わぬ顔でいった。本当に何食わぬ顔だったかどうかはサラサラ
「ATP能力ってあります? 差し支えなければでかまわないんですけど、アピールポイントになりますので」
「ああ、ATP能力ですか? いやあ、お
「ああ、そうですか。ぜんぜん恥ずかしいことなんてないですよ。失礼いたしました」
女はそういってまたパチパチと打った。
「あった場合はATP能力の確認とかもするんですか?」
「そうですね、まあ、一応、
「ちなみに、
「ですから私の個人的なことについてはお答えできません」
気まずい
女はパソコンの入力を終えると、筆ペンを取り出して親指が逆向きの左手に持ち、
左右が逆になった手で筆ペンのキャップをしめる様を坂本が不思議な気持ちで見つめていたところ、女は何かのはずみでキャップを
女は席を立って受付カウンターの下を探し始めたのだが、その時の動きに坂本は何か正体不明の
よく考えてほしいのだが、女は坂本の正面を向いて座っていたのだから、体ごと振り向いて反転させたのであれば、坂本から見て後ろ向きになるはずである。それがどういうわけか坂本の方を向いてしゃがんだのだ。いっている意味がわかるだろうか。あまりに一瞬で自然な身のこなしだったために、この違和感を説明することが難しい。実際、坂本が違和感を覚えたことは事実なのだが。しかし、女はそんなことにはお構いなしでキャップを探していた。
「あれ? どこいっちゃったのかしら」
坂本も受付カウンターの下をのぞいてキャップを探してみると、カウンターと床の間には
「ああ、あった!」
そういって、女は坂本の方に手を
「私が取りましょうか?」
「いえ、
そういうと、女はカウンター下の
「いやいや、そこは通れないでしょう! 無茶しないでください! 私が取りますよ!」
「いえいえ、大丈夫です。私、こう見えて
「ええ? そういう問題じゃないでしょう!」
さすがにこの隙間には頭も通らないだろうと思われたのだが、女は頭が小さいのだろうか、サラサラ髪の頭をこちら側に出してきたのだ! 頭だけでなく両手もこちら側に伸ばしてくる!
これを見て気づいたのだが、この時の手はちゃんと親指が内側にあったのだ。これはどういうことなのであろう。やはり、先ほど
しかし、そんなことにはお構いなく女はその隙間を
そして、自分の
女は後ろ向きで椅子に座ったのだ。
体は後ろ向きにもかかわらず、
つまり、この女はずっと坂本に背を向けて応対していたのである。
なぜだ?
「あなたは……、やはり、ATP能力持ちだったんですね……」
坂本が思わずこういうと、女はそれをさえぎった。
「ですから、そういったことにはお答えできません」
サラサラ
後日談であるが、坂本はサンズマッスルの
最後に、これは本当にこぼれ話なのだが、その後、
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