第二十話 ギリースーツの二人
今回の話を書くにあたって、私はギリースーツというスナイパーが着る
ギリースーツというものは、スナイパーが敵から発見されないように、植物や木の葉で体をおおい、周囲の草むらや
偽装のための素材は、草や葉っぱであればなんでもいいというわけではない。たとえば森の中でかくれるために、緑色で草みたいだからという理由で
そのため、カモフラージュに使う素材は現地の植生や季節に気を配って
このように優れたスナイパーというものは、
さて、キャンプ二日目の午前中には、メインイベントとなるオリエンテーリングが行われる。前日のインタビューで、私は夜ふかしや
オリエンテーリングを始めるために生徒全員が集合したところで、教頭先生が競技の説明を始めた。
「諸君! これからオリエンテーリングを始める! まさか昨日
昨日の教頭先生はガチな服装で生徒たちをザワつかせていたが、この日の服装はよりいっそう生徒をザワつかせていた。
「え? ええっ? 何あれ? ヤバくない?」
「ヤバい、ヤバい!」
「何キャラ?」
「なんかのコスプレ?」
昨日の生徒たちのリアクションには
「なんかのモンスター?」
「てゆうか、あれって服なのか?」
あれが服かどうかわからないのも無理もない。教頭先生が身に着けていたのは草や木の葉で作られたものだったのだから。
そう、それはまさにギリースーツだったのだ!
「マジでヤバくね?」
「ここまでガチだと、さすがに引くわ」
「教頭先生ってこんなカッコしていいのか? しらんけど」
「今日の教頭先生は一段とすごいですね。毎回こうなんですか?」
ベテランの先生は声を
「そう……。生徒たちを
先生たちもあきれているようだった。やむを得まい。なにせギリースーツなのだから。
「諸君! これから行われるオリエンテーリングは、大自然の中で行われる競技だ! このキャンプ場にはチェックポイントが設置してあって、諸君たちはそれを全部見つけ出してゴールする! それだけだ! 簡単だな!」
教頭先生はチェックポイントの見本をかかげた。
「これがチェックポイントだ! チェックポイントの位置が地図に示されてある! 地図とコンパスを使ってそれらを探しだし、すべてを回ってゴールするまでの時間を競うのだ!」
このキャンプでは、三人から四人ずつのチームにわかれ、チームごとにタイムを競う。これには生徒たちがグループワークを学ぶ目的もあって、地図とコンパスを使い、
「いいか、諸君! このキャンプで行うオリエンテーリングをただのオリエンテーリングだと思うなよ! 諸君たちがよりいっそう楽しめるように、村長が考案したルールを追加している! まずはチームリーダーの背中に白い紙を
主月先生は急に話を
「その紙は水に
生徒たちがざわめく中、ちょうど
「よし」
主月先生は背中をポンと軽くはたくと、その生徒が
これまで何年もこのオリエンテーリングは続けられてきたのだが、実はこのルール、
これまでも期待された生徒はもちろんいた。そういった生徒は運動神経がよいだけでなく成績も
しかし、今年についていえば、ついにクリアする者が現れるではないかという大方の予想があった。それは
光成の方でもやる気満々で、ぜったいに
ちょうどその時、これらの様子を遠巻きに見ている男がいた。このグランピング
「むふっ。何も知らず今年も来やがったな。俺は知ってるぞ。お前たちが
こんな不審者がいることなどつゆ知らず、いよいよオリエンテーリングは始まりをむかえていた。教頭先生は説明を終えると、後のことは
「さあ! 準備はいい? 始めるよ! それじゃあ、よーい」
バン!
スターターピストルの音が鳴ると、生徒たちは
「ちょっと! あぶない! 足が引っかかるでしょ!」
「男子! もっと
「
「ほら! 危ないからもっと離れて!」
生徒たちがもみくちゃになって走り出したところを、先生たちも大声で注意した。しばらくワーキャーと
「行きましたね」
生徒たちを見送った主月先生は、
「それでは打ち合わせの通り
昨年のオリエンテーリングでは
奇妙な出来事とは一見ささいな出来事で、
これが一件や二件なら子ども同士の悪ふざけと片付けていただろう。ところが、ほとんどのチームでこういったいざこざが起こっていたため、先生たちも何か対策を打たねばという話になっていたのである。
そういったわけで、教頭先生以外の教員は、オリエンテーリング中に何か異変がないか
「あれ? どうしたの?」
「先生、すみません。小川のサンダルが
「ごめん。走ってたらかかとのベルトがブチッて切れちゃって」
サンダルしか持ってこなかった小川くんは明智光成のチームだったのである。
「シューズの予備ってありますか?」
「いや、だからないっていったでしょう」
「ほら」
「いいよ、そしたら
「そんなの無理だろ。
「裸足でなんかダメ。先生も許可できないよ」
「じゃあさ、先生、ガムテープってありますか? ベルトをぐるぐる巻にすればいけんじゃね?」
「なんだって? そんなことしたって、すぐに壊れちまうんじゃないのか?」
光成がつっこんでみたものの、
「ちょっと走ってみて?」
「おお! オッケー!
「いや、そんなそっとじゃなくて、ちゃんと走ってみろよ」
小川くんが走ってみると、
「やっぱダメじゃん」
「ええ? じゃあ、どうすんだよ!」
「もう、しょうがないでしょう。だから教頭先生がシューズを持ってきなさいっていってたんじゃない。そのサンダルでも歩くことはできるでしょう? 先生はこれからコースを
「ちぇ。つまんねーの」
「お前がサンダルしか持ってこねえのが悪いんだろ」
「わかったよ。先生と行くよ。後はまかせたぞ。村長ルール、クリアしてくれよな」
「まかせとけ。ぜったいクリアしてやる。
「いいよ。先生と見回りしてるから、教頭先生みつけたら教えてやるよw」
「じゃあ、先生、後はたのみました。
「先生も
「はあ、はあ、はあ。あのさ……」
明智光成と二人きりになった稲荷静香は勇気をふりしぼって声をかけた。
「はあ、はあ、はあ。私、足手まといになるから、先行っていいよ」
「ごめん、ちょっと速かった?」
「ううん。
「何いってんだよ。これはチーム戦なんだから、そういうのやめろよ。それよりさ、最初のチェックポイントってこっちで合ってるよな」
「私、
「いや、正直いって
そういって、光成は稲荷の方に地図を差し出した。
「ほら、稲荷も見て」
「はあ、はあ、はあ。私にわかるかな……」
稲荷がそばに寄ってきて、同じ向きで見るために光成の横に立った。二人の
「スタート地点がここだから、俺たちがいる道は地図でいうとこの道だと思うんだよね」
「はあ、はあ、はあ。そうだね」
稲荷との距離がこれだけ近くなって気づいたのだが、稲荷が息を切らしているのは、なんだかウソくさいように思った。しかし、光成はそれに気づかないフリをして続ける。
「そうだとすると、この道を行って、あの橋をわたった左手の方に最初のチェックポイントがあるんじゃないかな」
「はあ、はあ、はあ。私もそう思う」
「
「あ、ごめん。大丈夫。走れるよ」
「よし、じゃあ行こう。
「ごめん。ありがとう。大丈夫だから、ついてくよ」
そういうと二人は地図をたたんで走り出した。
さて、私がいるチームがどうなっていたかというと、あと少しで最初のチェックポイントにたどりつくところだった。ところが、近くまで来ているはずなのに、チェックポイントがなかなか見つからない。
「ほんとにこっちで合ってるの?」
「合ってるはず。もう一回地図見てみるか」
チームリーダーが立ち止まって地図を取り出し始めた。
「さっきっから何回見てんだよw」
私はろくに地図も見なかったくせに、ツッコミだけ入れていた。
「もうくたくたなんだけど」
「うるせえな。チェックポイントが道から
「おっ! あそこに見えんのチェックポイントじゃね?」
なんと、最初に見つけたのは私だった。
「ほんとだ!」
「あった! あった! 行こ! 早く行こ!」
チームリーダーが地図をたたんでいるのも待たず、私
「おい! ちょっと待てよ! お前らズルいぞ! 先行くなよ! って何だあ? うわあ! やられたあ!」
「え? なに? なに?」
「くっそお! やられちまった!」
「はっはっはっはっ!
チームリーダーの後ろにギリースーツの教頭先生が立っていた。
「ええ? 教頭先生いた? ぜんぜんわかんなかったんだけど!」
「はっはっはっはっ! 君たち油断しすぎだったぞ? 甘い! 甘い!」
「うわあ! マジかよ!」
「ちぇ! いきなりやられちまったかあ!」
「まあ、そうがっかりするな! 10ポイントこそ失ったが、オリエンテーリングは始まったばかりだ! このペースでガンバればまだまだトップをねらえる! 村長は
教頭先生はそういうと、さっさとどこかへ消えていった。
ギリースーツを着ていたとはいえ、教頭先生がいたことなどまったく気がつかなかった。後から思い返してみてもどこにいたのか見当もつかない。
ちょうどその時。この様子を遠巻きに見ている者がいた。
「なんだあの全身草ずくめのヤツは。あんなところに人がいたなんて
「なんだあ? 去年は先生の見回りなんてなかったはずだぞ。ひょっとして
このキャンプ場は、本来はグランピングを目的とした施設だったが、
ビオトープとは、生き物が生息する場所のことをいう。つまり、このキャンプ場は人間が宿泊する施設のみならず、動植物の
主月先生と小川くんが歩いている場所は、この施設で「セミの森」と名づけられた森のすぐそばだった。その名の通りセミがたくさんいるのだろう。
「先生、暑いっすね」
小川くんが
「ほんとね。それにセミの鳴き声もすごい」
左手はセミの森であったが、反対に右手の方はひらけていて、
小川くんは主月先生の後で水筒のフタを閉めていたところ、不意に何かを背中にかけられた気がした。
「うわあ! なに?」
前を歩いていた主月先生も
「どうしたの?」
「なんかついた! 先生見て!」
そういって小川くんは
「何これ! 何があったの!」
「何? どうなってんの? わかんないよ!」
「血?」
「血って何? 血が出てんの?」
「痛くない? ちょっと待って! よく見せて!」
「何これ? ケチャップ?」
「ええ? ケチャップって、どうゆうこと?」
小川くんは背中に手をのばしてそれに
「ほんとだ……、これケチャップかな? 血じゃないよね?」
そういって味見をしようとした。
「やめて! まだケチャップかどうかわからないのに! 毒だったらどうするの!」
「うわあ、マジで?」
「
主月先生はあたりに向かって大声を出した。この道の
「かくれてるんでしょう! こんなイタズラはやめなさい!」
主月先生は柵の
「小川くん、危ないからここで待ってて」
「ここにいるんでしょう! 出てきなさい!」
ヤブの中に入ってあたりをよく見てみたが、
「むふっ、むふむふ。
主月先生はあきらめてヤブから出る。
「ヘンね。誰もいない」
主月先生は
「先生、誰もいないの?」
「そうなの。去年も似たようなことがあったって話なのよね。誰もいないのに背中を
「うん。先生のいう通りケチャップのような気がするよ」
「そう。まずはそれを洗い流しに
「そうだね。ちぇ、今日はついてねえなあ」
「むほっ、
このような
この後、教頭先生は次々と水かけを成功させていったのだが、このケチャップをかけられる事案も次々と発生していたのだった。
私たちのチームでは、順調といえば順調にチェックポイントを見つけていた。開始早々教頭先生にやられてしまい、やる気を失ってダラダラとチェックポイントを探していたのだが、やる気をなくしてしまうと意外に二つ目のチェックポイントは簡単に見つかって、次は三つ目を探しているところであった。
「ああ、私もう
「一気にやる気なくなったあ。次どこ?」
「うるせえなオメエら。とりあえずゴールしねえと終わんねえから、さっさと行くぞ」
「ねえ、あれって
「ああ、ほんとだ! 光成じゃねえか! おーい! 光成!」
私が大声で呼んだところ、明智光成はこちらに向かって声をかけてきた。
「よお! お前らどう?
「俺たちも三つ目。それよりこれ見てくれよ!」
私は後ろを向いて光成に背中を見せた。
「うわ! なにそれ?」
「たぶんケチャップだと思うんだが、さっきかけられたんだよ!」
「
「それがさあ、
「だからやってないって!」
「そうだよ! 誰もケチャップなんか持ってないでしょう?」
確かにその通りで、オリエンテーリング中に地図とコンパス、それと
「どういうこと?」
「光成。光合成人間がこのキャンプ場にいる。たぶん能力持ちだ。姿が見えねえ」
「話かわるけどさ、光成たちは教頭先生に会った?
「マジで?」
「マジだよ。ほら」
チームリーダーが背中を見せていった。背中に
「一個目のチェックポイント付近だった。いやあ、教頭先生がかくれてるなんて、ぜんぜんわからなかったよなあ?」
「あれはぜんぜんわかんねえw。教頭先生ガチだわw。さっきホシケンたちにも会ってさ、あいつらの時は
「芝生だって? 芝生が生えてるところって、かくれる場所なんてなさそうだけど?」
「なんか、芝生のシートをかぶってたらしいw。しらんけどw」
「マジで? さっきとは
「ああ、イシケンの話では、他のヤツらの時は池から出てきたらしいw」
「池ってことは、なに? 水に入ってかくれてたってこと?」
「いや、なんか池にすげえ背の高い草が生えてんだろ? それに
「毎回
「その場その場で完全に同化してるw。あれはマジでわからんw。お前でも無理かもw」
「私たちも
「いや、ほんとマジでわかんない。あれ見つけたらほんと尊敬するわ」
「マジでガチすぎるw」
この発言は明智光成の
「そうか。ますます見つけたくなってきたぜ。ぜったいクリアしてやる。情報ありがとう。それじゃあ
「ああ、俺たちもそろそろ行かねえと」
「じゃあまたな」
そういって、光成は次のチェックポイントへ向かって走り出した。
「ああ、ガンバれよ!
「ヤベえw、光成がガチになっちまったw」
「アイツだったらできるかなあ?」
「ホントにできたらスゴいよね?」
「ねえ、見た?
「ああ、確かアイツらのチームは小川も
「サンダル小川w」
「小川のことだから、どっかでサンダルなくしたんじゃねえのか?」
「ちげえねえw」
「覚えてる? 稲荷ってさあ、バスじゃなくて校長先生と来てたじゃん?」
「ああ。特別扱いなんだよ。だってあの校長の
「おいおい、そうかもしらねえけど別によくね? しらんけどw」
「なに? なんで円座くんは稲荷の
「いやいや、別に肩持ってるわけじゃないけどさあ、もし
「不快ってことはないけど……」
「さあ、俺たちもさっさと次行こうぜ」
こうして私たちのチームも次のチェックポイントへ向かったのだった。
あたりに
「はあ、はあ、はあ。
足手まといになるからというのは半分
「さっきもいったけど、
「私は置き去りにされてもいいよ?」
「なんだって? ホントにいってんのか?」
「ホントだよ?」
予想もしない答えが返ってきて光成は驚いた。まさか、こんなふうに考える人がいるのかと。
「えっと、お前はよくてもさ……、いや、そうじゃないだろう! 逆に俺がケガすることだってあるよな? その場合お前はどうするんだよ? 置き去りにするのか?」
「え? 私?」
「そうだよ。俺だってケガすることは十分にありえるよな? お前みたいに、置いてってくれって、俺もいうだろうけどさ」
「え? え? 私? 私は……、そんなこと……考えたこともなかった……」
「私は……、私は……」
稲荷は激しく
「私も……、私も置き去りになんてできないよ!」
こう
「稲荷だってそうだろう? それに、
そう。
少し光成の能力に関わる視覚情報ついて補足しておこう。
視覚情報というものは思いのほか情報量が多く、人は見たものすべてをとらえられているわけではない。視覚情報として入ってきたもののうち、脳で処理できたものだけを、人は「見た」と認識しているだけなのだ。実際の視覚情報は脳が処理しきれないほど
たとえば、あなたが人であふれた
さらに具体例を上げてみると、その繁華街に
この芸能人の例でいえば、知識というものも重要になってくる。そもそもその芸能人を知っていなければ、その人が芸能人であることすら気づきようもないのだ。つまり、視覚情報というものは知識も重要になってくるのだ。知らないものを見たとしても脳は認識しない。繁華街で百人、二百人とすれ違っても、知らない人のことなど
このように、視覚として入ってきた情報のすべてを人は認識できるわけではない。しかし、
だから、たとえ教頭先生がギリースーツを着ていようとも、この能力でぜったいに見つけられる自信があったのだ!
「ちょっと話かわるけどさ、あそこに
光成は遠くにいる清掃員さんの方を見つめながらいった。このキャンプ場がビオトープとして整備されていることはすでに説明した通りであるが、多様な生物相を造成するために水場もいくつか設けられており、このあたりにはちょうど「トンボ池」という名の池があった。そこには
「あの人、さっきもいたんだ」
「え? そうなの? 気づかなかった」
光成は地図を取り出して
「スタートポイント付近で小川と
光成は地図でその場所を指し示した。
「次は二個目のチェックポイントを見つけた後だった。二個目のチェックポイントはここだから、あの
「けっこう
「いや、全部同じ人だった。
「そうなの?」
「ああ、これだけ広い場所で、こんなに離れているのに何度も同じ人を見かけるなんて、
「けど、清掃員さんがそんなことするかな?」
「いや、俺だってそんなこと
「うん。わかった」
ちょうどその時、この二人を遠巻きに見つめる者がいた。
「おいおい、なんだあのイチャついたクソガキは。他のヤツらとはぐれて二人きりになんかなりやがって。金持ちの子どものくせしてよ、生意気にマセてんじゃねえのか? リア充気取りかよ? ふざけやがって。
そして、二人が近づいて来るところを待ち構えている。
「もっと近づいて来いよ。もっとだ! むふっ、むふふふっ。さあてと、どっちにしてやろうか? 女の子の方にしてやろうか? せっかく男子と二人きりだってのに、その高そうなお洋服が真っ赤に染まって台無しだなあ? むほっ、むほほほほほ!」
明智光成は清掃員さんに気をかけながらも、ATP能力を使って周囲の
「どうしたの?」
「あそこの木に何かいる……」
「え? どこ?」
「見るな! 気づかれる!」
この日もよく晴れていて、真っ白い雲が
「なんだ? あれは?」
そこには人がいた。
枝を真似たポーズをしていたが、偏光率を変えて見るとそれは人のように見えた。しかし、あれは何であろう。
「
「ええ? ほんとう?
「もう見るな。気づいてないフリをしよう。
「
「大丈夫だ。心配しないでくれ。場所はわかっているんだ。ぜったい背後は取られない。それより、稲荷はあの
「わかった……」
そういって二人が別々に歩き出し、光成がモミジの木の下に差しかかったところだった。この木はモミジとしてはかなり大きい。古い木なのだろうか。池の方にもたれかかるように幹を
それが動き出したのだ! 木の幹の色をした何者かが!
光成は勢いよく
「ぐほぉ!」
地面に落ちたヤツは、はじめは木の幹のような色をしていたが、
「なんだこれは! カメレオンか?」
ヤツは周囲の色と体色を合わせようとして、それでいてなかなか定まらないのか、目まぐるしく体の色を変えていた! それはCGやプロジェクションマッピングのように、まるで映像を映しているかのような
カメレオンは周囲の色と同化するように体色を変化させる生き物として有名であるが、これは何もカメレオンに限った特性ではない。他にもタコやイカなどの生き物も体の色を変えることで知られている。しかし、
人間の場合、体の色というものはメラニンという黒い色素で色がついているため、この
ところが、カメレオンの場合は逆に体の色素に色がないのである。色のない色素とはいかなるものか。これを簡単に説明するのは難しいが、
少し話がそれるが、
光というものはスペクトルという七色の光で構成されていることが知られているが、光合成はこの中で赤と紫色のスペクトルを利用しているため、光合成スーツではそれを反射しない緑色の
色というものは反射されたスペクトルが眼球に入って知覚される。つまり、どの色のスペクトルを反射させるのか、これを変化させれば色を変えることができるのだ。
自然界にある色素には様々な種類があって、その中には構造色というものがある。これは物質の色そのものではなく、特定のスペクトルを反射する構造になっているがために、特定の色に見えるという性質の色素なのだ。
たとえば、スズメなどの茶色い鳥の羽では、黒や茶色は色素自体の色であって構造色ではない。それに対して構造色の羽を持っているのは、カワセミやオオルリといった青い鳥で、これらの鳥の羽が青く見えるのは、羽自体が青いのではなく、青いスペクトルを反射する構造色によって青く見えているのだ。
この色素構造を変化させ、
いうのは簡単だが本当にそんなことができるのだろうか? それができるのだ! 事実、カメレオンはそうやって色を変えているのだから!
ここで一つ疑問がある。百歩ゆずって体の色を変化させることができたとしても、衣服についていえばそんなことはできないのではないだろうか。服を着ていればその部分の色は変わらないはずである。ところが、ヤツは全身の色を目まぐるしく変化させていたのだ。これはどういうことなのか?
そうなのだ! 体の色が変わるため一見してわからなかったのだが、ヤツは服を着ていない!
「くっそお! テメェ! よくわかったなあ! 大人しくケチャップかけられてればよかったものをよう! バレちまったらテメェをぶっ飛ばすしかねえな!」
ヤツは大声で
「おお? なんだこのヤロウ! やんのか? オラア!」
相手は最高に光合成した全裸の男だ! 服を着ている光成は完全にパワー負けしていた!
「むほっ! むほほほほ!」
最高に光合成したネバーウェアの
「ぐあっ!」
ついには
「
「なんだよ! 危ないから離れてて!」
「むほっ! おめえ、アケチくんっていうのか? ラブラブじゃねえか!」
「マジで危ないから離れてて!」
「むほほほほほ! 女子に心配されてカッコわりいな! おら! どうした! かかってこいよ! むほっ! むほほほ!」
「稲荷!
「大丈夫じゃないよ! 私たちまだ小学生なんだよ! こんな悪い大人に勝てっこないよ!」
「ああ?」
マズい。光成は子ども
「ねえ、先生たちを呼びに行こう!」
「今なんつった?」
マジか! このタイミングで光成はキレたのだ! お前はバカか! 相手は稲荷だぞ!
「え? 何?
「うるせえな! 今なんつったって聞いてんだよ! 子ども扱いするんじゃねえ! お前こそジャマなんだよ!
稲荷は
「むほっ!
稲荷の
「むほっ! 女の子が
カメレオン男が
「ぐほっ!」
ヤツがもんどり打って
「うわあああああ!」
スライムをモロに浴びたヤツはのたうち回った!
「なんでこんなところに
光成にはそのUOKw隊員の顔に見覚えがあった。そう。この男は、先ほどから何度も目にしていた、あの
「うわあああ! なんだこのスライムは! なんか光合成ができねえ! ヤベえぞ! ヤベえ!」
カメレオン男はスライムまみれのまま
その時である。
「なんだねこれは! いったい何があったというのかね!」
光成は
「教頭先生?」
そこにいたのはギリースーツを身にまとった教頭先生であった。
「大声がするから来てみれば、これは何事かね!」
光成は素早く後ろへ飛び退いた。教頭先生が背中に
「くっくっくっ。
「なに?」
光成は背中に貼ってある紙を調べようとして、背中に手を回してみると、背中についた
「マジ? ぜんぜん気づかなかった……」
明智光成はカメレオン男との
「先生……。いつからいたんですか? ぜんぜん気づきませんでした」
「ついさっきだよ。
「走って来たんですか? それだったら気づいたはずなんですが……」
「まあ、見つからんように
なぜ
こうして明智光成をもってしても村長ルールをクリアすることはできなかった。教頭先生はこれまで続けてきた無敗記録を
教頭先生は
「それと君は……、はっ! 君は校長先生の……」
まぶしいほどの光がビオトープを焼きつくすかのように照らす中、
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