第十七話 ネバーウェアへの道
母の実家が
「おい、マジかよ……」
「本当にオカンの実家が壊れちまった……」
「さっきの壊れ方見たか?
そういって光成は
「おいおい、なにかくれてんだよ」
「お前がここにいるのは何も
「いやいや、なにいってんの……」
私がここまでいいかけると、
「まずい!」
光成はそういうと
「ATPリンクでの通話に切り
光成がそんなことをいい出すうちに、瓦礫がガラガラと動き出して、その下から男が立ち上がって姿をあらわすではないか! しかも、私たちが
「マジでネバーウェアじゃねえか!」
その男は私に気がつくと、あからさまに
「や、やあ! ビックリしたよ、家が
「いやあ、驚いたよ。シャワーを浴びていたらね、急に家が壊れるんだから」
「シャ、シャワーを浴びてたって?」
正直いって私はビビっていた。
「そうなんだよ。こんな真っ昼間から堂々と
「
光成がATPリンクでいってきた。いわれるまでもない。家が
「シャ、シャワーを浴びてたなんてウソだろ?」
「何をいってるんだい? シャワー以外で裸になんか、
青柱は相手が近づくまでビビらせまいとして、ニコニコ笑顔を取りつくろい、らしくないしゃべり方をした。
「ウソだ! ここはお前の家なんかじゃない!」
「何をいってるんだ? 自分の家じゃなかったらこんな裸になんかならないだろう?」
「だからいってるんだ! お前は光合成人間だ! ネバーウェアだ! だから
「ははは、大人相手にずいぶんと失礼な物言いじゃないか。自宅でシャワーを浴びてた人に対してネバーウェアはないよね?」
「ここはお前の家なんかじゃないっていってんだろ!」
私がビビっていたにもかかわらずここまで強気に出ていたのは、光成がなんだかんだいってテイクオフしてくれるだろうという打算があったからなのだ。
「ものわかりの悪いクソガキだな! 大人を
「マズい!」
急に光成がATPリンクでそんなことをいい出したので、そちらの方をチラッと見ると、なんと、光成が曲がり角を曲がってかくれてしまうではないか!
「おい! なんで
「
そういわれて私が反対側を
「サクラ! お前はここで待機していろ!」
「ですが、
「だがな、ヤツの能力は思っていたよりも強力だ! 初めは自分まで重くなってしまって使えない能力だと思っていたが、ヤツは自主的にトレーニングをしていて、体力だけでなく光合成パワーも相当に
「そ、そうなのですか?」
「ああ、だからまず私が一人で行く! 私は能力持ちではないから、ヤツの性格を考えればぜったいにナメてかかってくる! ヤツを油断させるから、サクラ、お前はその
「わかりました……。十分にお気をつけください!」
「
「
サクラは知っていた。
太門が青柱に限らず後進の育成に身を
太門がほれ込んでいたのは青柱のATP能力ではない。めざましい成長をとげるその若々しく青くさい向上心にあった。若気のいたりとでもいうものか、青柱にはいささか精神の
しかし、向上心ならばサクラにだってある。
「青柱君。あなたは今、身を
まさかの
「自宅でシャワーを浴びてただって? ウソばっかいってんじゃねえよ! このネバーウェアが!」
青柱は
「てめえ、
「お前こそ何いってんだ! 自分の姿を見てみろよ!
「てめえ……、まだそれをいうのか! ネバーウェアだって? ああ? 俺のことをいってんのかあ? 俺のことをネバーウェアっていってんのか!」
「そうだよ! ネバーウェアだからネバーウェアっていってんだよ!」
「だまれ! だまれ! だまれ! てめえ何様のつもりでいってんだ! ネバーウェアっていうんじゃねえ!」
次の
「ぐぁっ!」
「どうだ!
「そこまでだ! 青柱!」
「ああ?
青柱が声のする方を見ると、そこには仁王立ちをした
「青柱! こんなことはやめろ! 今すぐその少年を開放するんだ!」
「だ、太門さん?」
なんでこんなところに太門さんが? 太門に見られてしまった! よりによって一番見られたくない太門にだ!
「な、なんで? なんで太門さんがこんなところに?」
青柱はパニックにおちいった! これは大変なことになってしまった! 俺の人生はおしまいだ! さっきまでこんなことになるだなんて想像もしていなかったのに、それが、こんなつまらないことで人生のおしまいをむかえるだなんて! 一巻の終わりだ!
いやいやいや、ダメだ! あきらめるのはまだ早い! 冷静になるんだ!
「
「なんだって? そんなウソは調べればすぐにわかるぞ!」
「太門さん! ウソだなんて頭ごなしに決めつけないでください! いつもそうやってなんでもかんでも決めつけて人の話を聞こうとしない! 太門さんの悪いところですよ!」
「なに?」
「ぬぬ……。だが、お前の家はこんなところにあったか?」
さすがの太門も青柱の住所までは
「いや、しかし、確か、お前は一人暮らしのはずだった!」
「実家っすよ! ここは俺の実家っすよ!」
「ウソだ!」
ここまで聞いていた私は、地べたに
「こいつの実家だなんてウソだ! ここは
「なに? 本当か?
「
「まずは青柱! 今すぐその子を自由にしてやれ! いつまで地べたにはわせるつもりだ!」
「これは違うんです! 太門さん!」
青柱がATP能力を解除すると、私は体を動かせるようになった! このタイミングであわてて
その
サクラ隊員が飛び出してきて、青柱に光合成ブレードで切りかかった! 同時に太門も青柱に飛びかかる!
すると突然、ズドンという音がしたかと思うと、サクラ隊員と太門が地面に
私は逃げ出すことができたが、そのせいで
「
「
「ああ、だがあれは一体なんだ? 何が起きてるんだ? ヤツのATP能力なのか?」
「たぶん重力だ! 重力を強める能力だ! アイツが能力を発動させると
「なんだって? それじゃあ、俺がテイクオフしても、あの二人と同じになっちまうんじゃないか?」
確かに光成のいう通りだった。テイクオフしたとて、近づくことができなければ成すすべもない。地面に押し付けられた
「あぁっはははははははあ! おしかったなあ! よく考えたもんだよ! 子どもを開放しろとかいって、俺が重力を弱めたところをねらってくるなんてよお! なあ!
「
「無様だなあ!
そういって、青柱は
「おら! おら! おら! 見てみろこの俺を! それに対してオメエらのなんと無力なことか! 俺は最強だ! 最強すぎる! あっはははははあああ!」
太門は
「こんなこと……、やめろ……、青柱……」
「おお? 立ち上がれんのか?」
しかし、青柱がズシンとさらに重力を強めると、あえなく太門は地面に
「弱いぜ太門さん! 弱すぎる! 俺はこんなに
そういって、青柱は気取った歩き方をしながら太門に近づいた。そして、はいつくばって動けない太門を上から見下ろした。
「高いとこから失礼しますよ? 太門さん?」
「青柱君!
「ああ? サクラ! 今なんつった! テメエこそ今どんな格好してんのかわかってんのか! はいつくばった無様な姿のくせによ! いい
「なんという
「
「ほざいてろよ。さあてと。君たちは弱すぎるから、
「
「うるせえな! 俺はこのまま逃げてやる! そもそも、こんなタイミングでやって来たテメエらが悪いんだよ! なんだってこんなタイミングで来やがったんだ! オメエらのせいで、俺の人生がメチャクチャになっちまったじゃねえか!」
「いいや
「なんだって?」
「警察や
「き、期待してるだって……?」
「いいや、そんなことをいって警察に
「青柱君! 太門さんがあなたを絶対に見捨てないといったのはウソじゃない! あなたはまだ知らないの? 太門さんの優しさを! 鋼鉄のような優しさを!」
「うるせえ! うるせえ! うるせえ! 俺は絶対に警察なんかに捕まんねえ! そうやって俺をだます気だろ! だまして俺を
「
「よし、わかった!」
光成は
「テイクオフ!」
相変わらず光成のテイクオフは見事だった。どうやったらこんなにスパッと服を
「
「なに? あれが光合成仮面か! ちゃんと見るのはこれが初めてだ!」
「ああ? なんだってえ?」
青柱も光成の方を向いた。
「なんだテメエ! 光合成仮面の登場だってえ? ハッ、ウワサは聞いてるぞ! オメエ強えんだってなあ? いいだろう!
「光成! 先にいっておくが、ヤツが子どもあつかいしてもキレんじゃねえぞ!」
「わかってるよ」
「光合成仮面ってこんな子どもだったんだなあ? どうしたんだよ、お
「ああ? 今なんつった?」
「バカヤロウ! キレんなっつってんだろ! 冷静に
「うるせえな! わかってるって!」
光成は素早く
これなら重力の
「近づくことができねえから、重力の範囲外から
投げ放たれた瓦礫はその勢いのまま、青柱に近づくにつれて
「あぁっはははははああ! いいアイデアだったがおしかったなあ! 子どもにしてはよく考えたものだよ! ほめてやる!」
「テメエ、子ども
「子どもだから子ども扱いしてんだろ! お
「ごふぅ!」
これは単に落下した瓦礫が直撃しただけではない! 青柱自身が強めていた
「ぐぉぉおお……、ヤベえ、やられた!
すると、これと同時に重力が弱まる!
「しめた! 重力が弱まったぞ!」
「ぐおおぉぉ……、
「はっ、ヤベえ!」
青柱は再度重力を強める! しかし、先ほどまでの力は出せず、
「はあ、はあ、はあ、や、ヤベえ……。まさか、
青柱は息も絶え絶えになっていた! 光合成人間が息切れしているということは、つまり、光合成が限界に達しているということなのだ!
すると、これはどういうわけであろうか。立ち上がれないでいる太門のわきを、ズシン! ズシン! と重い音を立てて、光成が歩いているではないか!
「お前は絶対に許さねえ!
光成がやはりキレていたのである!
「光成のヤツ、やっぱキレてやがったのか! それにしても、
光成が仮面の草から一本を
「
光成が
「はあ! はあ! はあ! ダメだ! めちゃくちゃ痛え! これじゃ逃げ切れねえ!」
その時だった!
「ぐあああ!」
青柱は
「なんだヤツは?
「わかった! まかせたぞ!」
太門はそういってサクラを見送ると、
「しまった! ぬかったわ!」
太門は急いでサクラとは反対の道へ向かったのだが、その先でも光合成仮面の姿はみつからなかった。
「音もなく消えたか? しかし、立ち去ったような気配はなかったぞ……」
太門は辺りを
「あれが光合成仮面か……。聞きしに勝る
太門は
サクラは
交差点に差し
並の光合成人間相手であれば、サクラは
ヤツは
こうなってしまうと追いかけることができない。さらに、屋上まで登りきってしまうと、地上にいるサクラからは目視することもできないのだ。急いでビルの反対側に回ってみたものの、上方で別のビルに
その後は完全に見失ってしまった。
「なんてヤツだ!
サクラは最後にヤツの姿が見えたビルをただ
「くそ!」
サクラはきびすを返して
「それにしても、ヤツはなんで
「くっそお!
「うるせえな。もうちょっとだから
太満は
「くそ!
「そうわめくなよ。助けてやったんだから」
「助けただって?」
「そうだ。あのままだったら、お前は警察に
「
「ああ? この
太満は
「車の中で
青柱は肉体的なダメージもさることながら、精神的な
「ネバーウェアのお前を助けてやったんだぞ? 感謝されてもいいくらいだ!」
青柱は絶望のどん底に
「元気ないな? 青柱。
「はっ、お前は……? なんでお前がいるんだよ!」
「だから
なんと、車を運転していたのは、
「お前の
「クッ、クッ、クッ、クッ!」
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