第十五話 校長室の隠し部屋 その後

 私たちが夜の学校に侵入しんにゅうしたあの日から、週を明けた月曜日のことだった。一日の授業を終えた主月先生が職員室に向かっていたところ、警備員さんとすれちがって声をかけられた。

「ああ、主月さん。おつかれ様です。今日も暑いですなあ」

 この警備員さんが他の教員たちと話すことはほとんどないのだが、主月先生だけは違ってよく声をかけられていた。

「お疲れ様です。ほんとに暑いですねえ」

「今日の授業は終わりですか? こう暑い日が続くとかなわんですな。子どもたちはもうすぐ夏休みですから、うらやましいもんです」

「そうですね。私も子どものころは夏休みが待ち遠しかったものですから、子どもたちには精一杯せいいっぱい楽しんでもらいたいと思いますよ」

「いや〜、まったくですな。私らの頃なんかは、なんもない時代でしたからねえ、それでも楽しかったもんですよ。まあ、今の子たちと違って、ずいぶんと悪さをしたもんですが」

 主月先生がひかえめに笑ってみせると、警備員さんは気をよくして話を続けた。

「今はもうこんなとしですが、こう見えて私にも子どもの頃があったんですよ。なつかしいですな。それで、ちょっと声をかけたのはですね、今朝、私が出勤して通用口を開けましたところですね、こんなものが落ちてたんですよ」

 警備員さんはそういって、主月先生に小さな紙きれを見せた。

「なんですか? これは」

「これはですね、私が昔からやってる警備の手法で、戸締とじまりをする時に、必ずこういった紙きれをとびらや窓にはさんでから帰るのです」

「そうなんですね」

「そうしておくことによってですよ、私が帰った後にだれかが扉を開けるとですね、扉にはさまっていた紙きれが落ちるというわけなんです」

「なるほどですね。警備システムがなくても、誰かが侵入しんにゅうしたことがわかるんですね」

「そう。そう。そうなんです」

 警備員さんはうれしそうに続けた。

「その通りなんです。警備システムなんかなくてもわかるんですよ。それで今朝方私がいつも通り通用口を解錠かいじょうしようとしたところですね、これが落ちていたというわけなんです。先生の誰かが通用口を開けたのかなと思いまして、それで聞きたいんですが、昨日の日曜日、誰か出勤した先生がいたか、主月さんはご存知ですか?」

「土曜日は補習があったと聞いてます」

「それは私も知ってましてね、というのも、土曜日は私も出勤したんですよ。夕方に私が戸締とじまりをして帰っているんです」

「そうですか……。私の方でそれ以外は把握はあくしてませんね。この話はもう校長先生にはされましたか?」

「それが、ちょっと、私の方ではあの人がどうも苦手で……」

 そういって、警備員さんは察してほしそうに苦笑いをした。

「ああ、承知しました。それでは私の方から話しておきましょうかね。この紙きれはもらってもよろしいですか?」

「どうぞどうぞ。そんなもん、いくらでも用意できますから。いつもすみませんね」

「いえいえ、こちらこそいつも教えてくれてありがとうございます」

「それじゃあ、よろしくたのみましたよ」

 そういって警備員さんと主月先生は別れた。


 主月先生は職員室にもどるところだったが、今の話を報告しておこうと思い、校長室の前に立ち止まってドアをノックした。

「おいそがしいところおそれ入ります。主月です。ご報告したいことがございましてうかがいました。お時間少々よろしいでしょうか」

「主月先生? ほんの少しだけ待ってくださる?」

 この校長室にはすんなり入れた試しがない。校長先生がいそがしいことは理解できるのだが、それだったら後にしてくれとか、時間が取れないからメールをしてくれとか、ちがうタイミングや方法などを指示することがあってもおかしくないだろう。それが、いつもわずかな時間だけ待たされるのである。なぜ一瞬いっしゅんだけ待たせるのだろうか。そのわずかな時間に何かをやっているようなのだが、毎回こういったことが続くと気になるものである。一体何をかくしているのだろうかと。この時、決まって校長室の中から機械音がして、何かが動いているようなのだ。

「どうぞお入りになって」

 やはり、すぐに声がかかった。

「失礼いたします」

 主月先生はドアを開けて中をのぞいてみると、そこには教頭先生もいた。

「ちょうど授業が終わったところかしら? 一日ご苦労様でした」

 校長先生は微笑ほほえみをたたえて主月先生にいった。

「教頭先生もいらしてたんですね。ご相談中申し訳ございません」

「いえいえ、いいのよ。それで、何かあったのかしら?」

「ええ、先ほど警備員さんから報告を受けたのですが、土曜日の夜から今朝にかけて、だれかが校舎に入った痕跡こんせきがあったそうなのです。教員で誰か出勤していたのか、校長先生と教頭先生はご承知のことかもしれませんが、念のためご報告に参りました」

 校長先生の顔から微笑ほほえみが消えた。

「教頭先生はご存知?」

「いえ、土曜日には補習がありましたが、それ以外は承知してないですね」

「警備員さんからの報告なんですね? 痕跡こんせきとおっしゃいましたが、どんな痕跡なのかしら?」

「こちらです」

 主月先生は校長先生に近づいて、先ほど警備員さんからもらった紙きれを差し出した。

「これは?」

「警備員さんは戸締とじまりをする時に、こういった紙きれをとびらにはさむそうなのです。その後にだれかが扉を開けると、この紙きれが落ちるというわけなのですが、今朝、警備員さんが通用口を解錠かいじょうした時に、この紙きれが落ちていたそうなのです」

 校長先生の表情が険しくなった。

「あの警備員がそういったことをコソコソとやっているとは知りませんでした。この小学校にはしっかりした警備システムが導入されていることを、あの人はまだ理解できていないようね? 何度いったらわかるのかしら。忌々いまいましい。それで、この紙きれを見つけたのは今朝といっていましたね? 今はもう授業も終わったところですよ? 報告がおそくないですか? 教頭先生はこの件報告を受けましたか?」

「いえ。私も今初めて聞きました」

「まったく……、何度いえばいいのかしら」

 こういうと、校長先生は気持ちを切りえて、あのこおりつくような微笑ほほえみを再びかべた。

「わかったわ。主月先生。報告してくれてありがとう。他にもありますか?」

「いえ、ありません」

「そう。それではもう結構よ」

「は、はい。それでは失礼いたします」

 そういうと主月先生はおじぎをして校長室を出ていった。

 校長先生は少しの間様子を見て口を開いた。

「行ったわね……。教頭先生、警備システムに異変はなかったのですか?」

「いえ、先ほど見たときには特になかったと思うのですが……。何かあるとパソコンにメッセージが出るはずなのです」

「警備システムのログと監視かんしカメラの映像を確認しなさい」

 校長先生は立ち上がって書類棚しょるいだなの前に立った。棚からから資料を取り出しておくに手を差しこむと、機械音をたててたなが横に動き出す。棚があった場所の裏からタッチセンサーが姿をあらわし、校長先生がそこへ指を当てると、何か認証をしたような電子音がするのと同時に、カチャッという音がした。そこは一見かべのようだったが、校長先生が手ですととびらのように壁の一部がおくに開いた。


 そのかくし部屋は、ここが小学校だとはおおよそ思えないほど華麗かれい優雅ゆうがかざられていた。

 あわく白っぽいピンク色の壁に、パステル調の植物や貝殻かいがらをあしらった装飾そうしょくの鏡やたなねこあしと呼ばれる曲線を基調とする脚のついた机や椅子いす天井てんじょうからはきらびやかなシャンデリアが垂れ下がっていて、その空間の優雅な品格をよりいっそう際立たせていた。片側の壁には絢爛けんらんに装飾された金色の額縁がくぶちにおさめられた油彩画ゆさいが肖像しょうぞうがあり、よく見てみると、そこにえがかれているのはまるで王室にいる女王様のようなたたずまいの、ティアラを頭にせた、校長先生の姿だった。

 信じられるだろうか? 小学校にこんな部屋がかくされていたのだ。校長先生は一体何を目指しているのだろう。


 ここで一つ疑問がある。おとといの夜、理事長と太満ふとみつ比留守ひるすの三名がこのかくし部屋に侵入しんにゅうしていた。先ほど校長先生が隠し部屋を開けるところを見た限りでは、ここに入るには指紋認証しもんにんしょうを通過する必要があった。どうやってかれらはこれを突破とっぱしたのだろうか。

 思い出していただきたいのだが、理事長と校長先生は夫婦なのである。仲が悪いとはいえ住居をともにしているのだから、理事長が校長先生の指紋しもんを採取することは不可能なことではない。さらに、この採取した指紋から認証データを生成することについていえば、比留守ひるすの技術を持ってすれば容易たやすいことだったのだ。

「よくもまあ、学校の金を使ってここまでぜいをつくせたものだな。そう思わんかね?」

 これはかくし部屋に侵入しんにゅうした時の理事長が放った第一声である。もともとこの夫婦は仲が悪く、おたがいをののしり合っていたのだが、どう公平中立に見たところで、この時ばかりは理事長のいうことももっともなことだと思えた。


 ロココ調の調度品で統一されたこの部屋の中で、机の上に置いてある既製品きせいひんのデスクトップパソコンだけが無機質であり、この場にそぐわないように見えた。これは警備システムを管理するために業者から納品されたパソコンだったのだが、校長先生はこれを気に入っていなかった。

 そのパソコンを教頭先生がモニターをつけて操作を始める。

「見てください。この通り何もメッセージは出ていないんですよ。何か異変がある場合は、画面右下のアイコンから黄色や赤の小窓が出てくるんですが」

「だから、それはすでに聞きました。警備システムのログと監視かんしカメラの映像を確認しなさいといっているのです」

「警備システムのログですか。承知しました……。ただですね、ログっていうのは、なんていうんですかね、私が見てもちょっとわからなくてですね、佐藤君さとうくんに見てもらってもよろしいですか?」

「佐藤君にですって? あなた、このシステムにどれだけ機微きびな情報がふくまれているのかわかっているのですか! 一般いっぱんの教員に知られてはなりません! あなたが調べなさい!」

 このシステムは警備目的だけでなく、教員の監視かんしにも使われていたのだ。

「ただ、異常がある場合はですね、右下にメッセージが出るので、それが出てないということは異常ないということだと思うのですよ。業者からもそのように説明を受けておりまして……」

 この弁明を校長先生はさえぎった。

「私が受けた説明では、何か偽装ぎそうをされている場合はシステムのログで確認できると聞いています!」

「それは右下のアイコンにメッセージは出ないんですか?」

「そんなこと、私に聞かれてもわかるわけないでしょう!」

「そうしましたら、申し訳ないんですが、業者を呼びましょうか?」

「あの業者を?」

 校長先生はこのシステムの納品前後に、その品質について度重なる仕様変更しようへんこうを要求した上、その業者の社長まで呼び出してめに揉めていたのだ。

忌々いまいましい! わかったわ! 呼びなさい! だけど、業者対応はあなたがしなさい! 私は顔も合わせません! それと、カメラの映像はあなたでも確認できるわよね! 今すぐつけてちょうだい!」

「はっ、承知しました、が、監視かんしカメラはたくさんあってですね、どれにしましょう?」

「なんですって、あなた? 主月先生の報告を聞いていなかったの! 通用口のカメラに決まってるじゃない!」

「ははっ、すみません!」

 教頭先生はもたつきながら監視カメラの映像をモニターに映し出すと、業者に電話をかけはじめ、校長先生はその通用口が映っているだけの映像を食い入るように見つめた。


 そのころ、学校からまっすぐ家に帰った稲荷静香いなりしずかは、愛犬のシロを連れて散歩に出かけたところだった。父が在宅していて、家にいたくなかったのである。

 シロはその名の通り真っ白な秋田犬で、両親にはまったくなつかなかったものの、稲荷静香にだけはとてもよくなついていた。稲荷の方でもシロのことが大好きで、毎日エサやりと散歩をして、ねむる時も一緒いっしょねむっていたのだった。

 稲荷静香は学校で特におとなしい生徒で知られていた。いや、おとなしいというよりは、だれとも話さないといった方が正しい。最近の小学校ではグループワーク形式の授業が多いものの、その時ですら発言することはほとんどなく、それ以外ともなれば、彼女かのじょの声を聞くことなどまったくといっていいほどなかったのだ。

 稲荷には友だちなど一人もいない。そのためなのか、あるいは、あの校長先生のむすめであったからか、昨年までのクラスではいじめにあっていた。ところが、校長先生に忖度そんたくした担任の先生が、これを防ごうと尽力じんりょくして致命的ちめいてきなところまでは発展しなかったのである。しかし、このことについては稲荷の方でも薄々うすうすと察しており、先生たちが味方になってくれたのは、稲荷のためではなく校長先生のためなのであって、そういった大人たちの姿を見て、ますます内にこもるようになっていったのだった。

 しかし、今年の担任である主月先生はこれまでの先生とちがっていた。今までの先生に見られたような校長先生への過剰かじょうな忖度など、主月先生からは感じられなかったし、そのこともさることながら、ある事件があって、担任になる前からある接点が二人にはあったのだった。

 とはいえ、いじめというものは先生の見ていないところで生まれるものである。担任の先生がかわったところで抜本的ばっぽんてきな改善にはつながらなかったかもしれないが、今年のクラスは生徒たちもふくめ、それまでと明らかにちがっていたのだ。

 それは明智光成あけちみつなりの存在が大きかったのかもしれない。


 稲荷いなりとシロは川沿いの道にたどり着いた。

 この場所は台風が去った後に明智光成と出会ったあの道である。

「覚えてる? ここで出会った男の子のこと」

 おどろいたことに稲荷が口を開いた。これは他の生徒が見ても驚いたにちがいない。彼女かのじょが自分からしゃべっていたのだから。しかも、人に話しかけているのではなく、犬に話しかけていたのである。

かれはね、勉強もできて、運動神経もよくて、すごい子なんだよ。男の子も女の子も、みんな明智くんのことが好きなんだ。目立とうなんてしてないのに、知らず知らずのうちに、みんなのリーダーになってる子なの。シロは会ってみてどう思った?」

 学校での稲荷とは違って、彼女はさらにしゃべり続ける。

「彼がいるだけでね、クラス全体の雰囲気ふんいきが違うんだ。人って好きとかきらいとかって気持ちがあるでしょう? だから、みんな私のことが嫌いなんだけどさ。明智あけちくんがクラスにいるとね、人を嫌うって気持ちがなくなっていくんだよ。みっともないって、みんなそう思うようになるの。私もそう。私は学校のみんなやお父さんやお母さんも、みんな嫌い。でもね、クラスに明智くんがいると、そういのって、みっともないって思うようになるんだよ」

 真っ白なツバの広い帽子ぼうしをかぶっていた稲荷いなりは、シロと河川敷かせんじきに降りていった。

「見て。日差しが強いと、いろんなものが色あざやかに見えるね。まぶしくて目がくらみそう」

 シロはハッハッと舌を出して息をしていた。

「暑いね。あそこの木陰こかげで休もう」

 二人は直射日光をけ、河川敷に生えた一本のやなぎの下へ向かった。水筒すいとうから水を出してシロにあたえた後に、稲荷も同じコップを使って水を飲んだ。

「知ってる? ほら、地面に草が生えてるでしょう? こういうどこにでも生えている草って、もとから日本にあった草じゃなくて、ほとんどが外国から来た草なんだって。でも、不思議じゃない? 草って歩いたり走ったりできるわけじゃないでしょう? それなのに、こんな遠い国まで来れたんだよ? どうやってだと思う?」

 柳の枝がそよ風でれ、生いしげった葉がサラサラと音を立てていた。

「ぜんぶ人が運んできたんだって。人って外国からいろんなものを輸入したり、輸出したりするでしょう? シロのご飯も外国から輸入してきたものなんだよ。他にもいろんなものを輸入したり輸出したりするから、そういうのに小さな種がついていたり、混ざりこんでいたりするんだって。きれいな花なんかはわざわざ外国から取り寄せて、それを庭に植えてね、種ができると風にかれて庭の外に飛んでいっちゃって、そうやって人が運んできた草花が、どんどん増えて広がっているんだって」

 この日も真っ青な晴天で、強烈きょうれつな日差しが地上を焼きつくすように照らしていた。熱気でれる草花が燃えるような緑色や黄色に発色している。景色というものは人によって感じ方がまちまちなものであるが、稲荷いなりにとってこの景色が、まるでゴッホの風景画のように色あざやかなものに感じられたのは、彼女かのじょが幸せでなかったからかもしれない。今年のクラスが今までとはちがっていたとはいえ、学校や家庭では、彼女が一人ぼっちであることにはかわりないのだから。シロだけが友だちであり、家族だった。

 稲荷はこしをおろして、目に写る外来の植物をながめた。

 道端みちばたでもどこでも、足元を見れば健気けなげいている黄色い花。タンポポを知らぬ者はいないだろう。私たちが目にするタンポポのほとんどが、日本在来のタンポポではなく、外国から来たセイヨウタンポポという外来種であることは、ご存知の方も多いかもしれない。しかも、そのほとんどが日本在来のタンポポとの雑種なのだ。

 シロツメクサは、クローバーの別名でよく知られた植物であるが、江戸えど時代にオランダから輸入されたガラス工芸品のめ物として日本に持ちまれたものだった。その後、牧草としても輸入され日本でも定着したのである。

 ヒメジョオンは、北アメリカ原産で、江戸時代に観賞用として移入されたことから、おそらく当初は花が美しいとされていたのだろう。しかし、現代の花屋をのぞいてみても売られていることはなく、ただの道端みちばたく雑草に成り果ててしまっているのだった。

 かれらは生まれ故郷から遠くはなれた見ず知らずの土地に連れ去られて来た。場合によっては環境かんきょうに適応できず死に絶えていたかもしれないというのに。どこかさびしくも、かように強烈きょうれつな日差しに照らされ、燃えるようにその身を発色する異国の草花を、稲荷いなりはじっと見つめ続けた。

 この草花たちのなんと健気けなげなことか!

「私もこの草花のように、見ず知らずの国で、だれからも忘れ去られて暮らせたらいいのに。私もどこか遠くに行きたいな。私の居場所なんてどこにもないもの」

 シロはハッハッと息をするのをやめ、やさしく横顔をなめ始めた。稲荷がシロの方を向くと、その真っ黒な両目は真正面で稲荷を見つめていた。

 シロは先ほどからずっと稲荷の顔を見ていたのだ!

 言葉を話さぬこの大きな犬は、悪意やさげすみのないその真っ黒な両目で、ずっと稲荷いなりの顔を見つめ、まるで言葉がわかるように、ずっと、ずっと彼女かのじょの話を聞いていたのだ! 稲荷はその深くけがれのない両目にまれそうになって、シロへの思いが、その胸の中で爆発ばくはつしたかのように膨張ぼうちょうして張りけんばかりになった!

「シロはぜったい一緒いっしょだよ! ぜったい、ぜえったいにだよ! シロとはずぅっと一緒なんだから! いつか、いつか一緒に行こうよ……。どこか、ずっと遠いところに」

 稲荷はシロを強くきしめて体中を激しくなでまわした。


 結局、監視かんしカメラの映像に不審ふしんなものは何も映っていなかった。その後、業者が新人の担当者を送ってよこしたのは実に三日も過ぎた後で、それによる調査でも不審な点は一つも見つからなかった。さらに、その業者は定期点検以外の調査は保守契約ほしゅけいやくふくまれていないとして、きっちりと出張料と作業料を請求せいきゅうしてきた。校長先生がおそろしく激昂げきこうして、やむなくこれを承認したことはいうまでもない。(続く)

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