第十二話 ヘッドハンティング
市民プールの管理事務所には大勢の警察官が待機していた。
通報があったのは暑い土曜のことで、昼間から営業していた居酒屋から、客が大暴れして手に負えないからなんとかしてほしいというものだった。暴れているのはただ単に
その日もよく晴れた日で、むせ返るような暑さだった。
「酒を出せ! 酒を出せっつってんだろ!」
人とは思えないその
「お
土曜ということもあって商店街はたくさんの人でにぎわっていた。買い物客たちは警察の
「お、おい! お前! 何をやってるんだ! やめなさい! やめないと、
「商店街にネバーウェア! 商店街にネバーウェア!
「あぁ? だぁれだあ! ケィサツなんくあ呼んだのは! おるぅうあ!」
この男はどれだけ酒を飲んだのだろうか。その
「キャァァアア!」
「
まさに
「次は本当に撃つぞ! 大人しく
鈴木巡査は思ったのだが、ネバーウェア相手に威嚇射撃など必要だろうか。法的には意味があったとしても、ヤツらの前ではまったく意味がない。意味がないだけでなく、単にきっかけを
「やるぃやがったなぁあ! テンメェ〜、そんなんでビビっかこのやるぅぉお!」
ネバーウェアは
「ぐあああ!」
そして、
「ぃやんのかぁゴルァア! おるぁ! かかってこいよぉお!」
「待て! 落ち着け! こんなことをして何の意味がある!」
「あぁ? 意味なんかあるぅかよお!
「落ち着け! まずは落ち着け!」
鈴木巡査はネバーウェアをなだめにかかったが、まったく言葉が通じる気がしない。それどころかヤツはおもむろにゲロを
「おぉ、おぇえ……、おぇぇええ!」
ものすごい酒の
ちょうどその時だった。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきたのは。ヤツもその音に気づくとフラフラと立ち上がった。
「うるぅぁぁああ!」
ヤツが
この時、
ネバーウェア相手に
「例のイベント始まりました!」
重い空気と
「ご報告ありがとうございます。承知しました。それでは
市民プールの事務所にいた警察官たちは、それぞれ
ドキドキ☆ゲリラプールinサマーが秘密裏に計画されていたことを、警察でもSNSのモニタリングを通じて事前に
プールサイドはネバーウェアの大量出現によって大変な混乱におちいっているところだった。あちこちで来場者の悲鳴が上がったかと思うと、ネバーウェアの
この混乱のせいで、
「よう、
「まったくだよ! あんだけ並んだのに!」
「見てみろよ。すげえ数のネバーウェアなんだがw」
「なんなんだこれは? 何が起きてんだ?」
「光合成仮面がすげえいてウケるw」
「いや、あれは
「ここで本物の光合成仮面も登場したらすげえけどなw」
「本物って
「服はもう
「何いってんだ、同じ海パンはいてたらいくらなんでもバレるだろ! 無理だって! ムリ、ムリ!」
「そんなムキになんなよw」
「お前、他人事だと思って何いってんだよ……、ちょっと待て、あれはなんだ?」
プールサイドの入口の方が何やら
「
「おい! あれは警察だぞ! すげえ人数だ!」
プールサイドに混乱が
「ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜ン、ポ〜ン。来場者の
プール場内でどよめきが起こった。これは
「なんで警察がいんだよ!」
「しかも多くね? 聞いてねえぞ!」
「警察にリークされてたのか?」
「ちくしょう! 警察なんかに負けっかよ!」
「そうだ!
「やるぞ! ちくしょう!」
場内にネバーウェアと警察官の
ここで
「よし! アイツから
まずは
「ナメんじゃねえぞこのヤロウ!」
この
「ぐあぁぁぁ!」
「
「ひるむな! 行け! 行け!」
別の盾を持った警官が
「ナメんな! クソが! うおぉぉぉ!」
ネバーウェアが全開の光合成パワーで
「うわあぁぁ! なんだ? 何しやがんだこのヤロウ!」
ネバーウェアはフルパワーで警官隊を押しのけようとしたが、思うように力が出ない!
「なんだ? パワーが出ねえ! テメェら何しやがった!」
「よし! このまま取り押さえろ!」
「くっそお! ナメんな!」
ネバーウェアは
「ちくしょう! ちくしょぉぉう!」
スライムまみれの警官が、四人がかりでネバーウェアをうつ
「確保!」
「おい! 何やってんだ! お前! 警官なんか
別のネバーウェアが異変に気づいて近づいてきた。
「違うんだ! 力が出ねえ! このスライムに気をつけろ! 光合成パワーが出せねえんだ!」
「なんだって?」
「次はコイツだ! かかれ!」
今度は赤いボンベを背負った警官が真っ先にスライムを
「うわあ! 何しやがんだ!」
しかし、最高に光合成したネバーウェアだ! 素早く動いてかわされてしまう! 外れたスライムの
「きゃぁぁぁ!」
「
「ダメだ! やっぱアイツら素早い!
「何やってんだ! 訓練通りチームワークでかかれ!」
「くそ、すまん! 若干外れた!」
「うわぁぁあ! なんだこれ! キメェ!」
「かまわん! 行け! 行け!」
スライムはやや外れたとはいえ、ネバーウェアの動きは
「確保! 確保!」
この時までに警察では、
反対にネバーウェアの方では
「なんだ? なんだ?」
「確保って聞こえたが、まさか警察に
「なんか、警察が消火器みてえなのから
「あれ浴びるとパワーが出せなくなるらしい!」
「ヤバくね?
「ヤベえよ! ヤベえ!」
「くっそ、イベントなんか終わりだ! こんなところで
しかし、士気の上がった警察は次々とネバーウェアを取り
「確保! 確保!」
プール場外はすでに多数の警察官によって完全に包囲されていたのだ!
「ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜ン、ポ〜ン」
ネバーウェアに
「市民プール管理事務所から、ネバーウェアの
市民プールの外にもすでに多数の警察官が配備されていたのだ。これで
この
「あのスライムの
「ああ。テイクオフしてなくてよかった。けど、あれは
「それな! ここで変身したらお前も
このスライムは
続いて警察では、UOKw協力のもと非公開の訓練が
このように警察は改善を重ねていったのだが、最後まで残った
そういうわけで、今回の作戦の成否は今後を
作戦が大成功に見えた、その時だった。
プールのある一か所で大変な
「ダメだ! スライムがききません!」
「どうなってんだ! あいつは!」
「ひるむな! 行け! 行け!」
「いや! スライムがきかないんですよ! 見てください! あれを!」
「なんだあれは?!」
警察官たちが集中的にスライムを浴びせている先には、お面をかぶった
このネバーウェアは、四方八方からスライムを浴びているにもかかわらず、高らかに笑っていた!
「あっははははは!」
まったくもって
「ぅあっはっはははは〜!」
それはまるで新品のレインウェアや
撥水スプレーやレインウェアが水をはじく原理には、ロータス効果と呼ばれる効果が大きくかかわっている。
ロータスとはハスの英名であるLotusのことであり、ハスの葉っぱが異様に水をはじくことに由来している。ハスの葉には非常に細かい
ハス以外では、カモなどの水鳥の羽も
その水をはじく様は実に見事で、ご存知のないかたはぜひネットで
「コイツ、マジでウケるw! この水のはじきっぷりはスゲえなw! 水じゃなくて
「どうやったらこんなになるんだ?」
「もう調べてる! 光成、お前は目がいい! ヤツの
「ああ……、うわっ! めっちゃ
「マジかよw! くっそキメェなw!」
「なんか不思議だが全然ぬれてないぞ!」
「よし! 今アルゴリズムを生成してみた! 一応送っとく!」
スマホをプールに持ち
このネバーウェアに浴びせられたスライムは、すべて丸い
「アヒャヒャヒャヒャ! 効かねえ! 効かねえなあ! 痛くもかゆくもねえぞ! こんなんで
次々と警官たちが張り
「ぐあぁぁあ!」
「どうした? おら! おら! おらぁ!」
「マズい! ダメだ!
「どうした? うらぁ! もう終わりかよ!」
「くそ! スライムがきかねえと歯が立たねえ!」
「一名、
「オヒャヒャヒャヒャ! 無敵だ! 無敵すぎる! オメェら弱すぎだろ!」
「くっそぉ! ナメんじゃねえぞ!」
目配せした二人が異なった方向から
「ぐほぅ!」
「やめろ! 待機だ! 待機!」
「アヒャヒャヒャヒャ! オヒャヒャヒャヒャ! オワッヒャヒャヒャァァア!」
流れるプールから何者かが飛び出してきたかと思うと、超撥水男の背後へ着地したと同時に、
あれだけ同級生に身バレすることを
それにしても仮面の草はどこから手に入れたのだろう。プールサイドに草などあっただろうか。顔にからみついているこの草はカタバミという名の草で、
「本物だ……! 本物の光合成仮面だぞ!」
周囲にどよめきが起きた。
「あれは子どもじゃないのか?」
「うわさで聞いてるのとは
警官たちはもがき苦しんでいる超撥水男を
「ぐおぉぉお……、きいたぜ今のは……、本物だとぉ? ゲホッゲホッ!」
「想定外事案発生! 想定外事案発生! 本部に確認する!」
「くっそぉ! ナメんじゃねえ!」
警官たちに押し返された
「ぐぁぁああ! いっ痛え!」
光合成シールドを張った肉体は鋼鉄のように固い! 最高の光合成パワーで
「ぐおぉぉおっ、痛え……、くっそ痛え! ちっくしょお!」
光成は仮面からカタバミを数本つみ取ると、それはみるみる成長して大きくなり、黄色い花が火花のように
光合成ブレードは、そのエネルギー出力量によっては肉体を焼き切ることもできる。しかし、出力量を弱めれば
「ぐぁぁぁっ、あ、足が! 足が! なんだこりゃあ!」
超撥水男は
太った男が急に飛び出してきたかと思うと、超撥水男を担ぎ上げて背中に乗せた!
「うわ! 何すんだこのヤロウ!」
「うるせえよ。助かりたかったら
太った男は顔に水中メガネが食い
「キメェな! テメェ、
太った男は
「な、なんだ? このヤロウ!」
「
太った男はニコニコエクボ顔でいった。しかし、目が笑っていない。
「視察? これはゲリライベントで
「
「サンズマッスルって、あのサンズマッスルか!」
サンズマッスルとは、光合成人間の
「そうか! うわさで聞いたことあるぞ! お前らサンズマッスルはATP能力持ちをヘッドハンティングしてるって!」
「そうだよ。う
「てことは、俺はヘッドハンティングされたってことか? すまねえ! マジで助かった!」
「このまま
「これはお前の能力なのか?」
「まあね。クックック」
「二名
マンションの壁に張り付かれたのでは地上の警官たちになすすべもない。太満は超撥水男を体にくっつけたまま、まるでヤモリのように壁をペタペタとキモいほど
屋上では強い風が
太満のくっつくという能力は、追手がついてこられない場所を移動できるため、逃走する上で極めて有効な能力だった。しかも、二人くらいなら体にくっつけても体から
太満はヘリがいる方角を確認すると、死角に入るように屋上から降りて
太満のたるんだ
太満によるヘッドハンティングは、
「本部から司令! 本部から司令! 光合成仮面も確保! 光合成仮面も確保!」
プールサイドでは残ったネバーウェアたちの
「光合成仮面も確保だって?」
「確保って、相手は子どもだぞ?」
「本部からの司令だ! 未成年とはいえ、光合成仮面からも
「ああ? 今なんつった?」
「君は未成年だ! 乱暴な真似はしたくない! 大人しく従いなさい!」
「ああ? 子どもあつかいして下に見てんじゃねえぞ!」
なんと、光成はこの
「なんだ? 何をいってるんだ君は! その武器を地面に置きなさい!」
「だから命令してんじゃねえ!」
光成は光合成ブレードをしまうどころかさらに出力を強めて、まるで
「ななな、なんだ! やむを得ん! スマンな!」
スライム班がノズルを向けた!
「待て! まずは
「なにいってんだ! 子ども相手だぞ!」
「子どもとはいえ相手は光合成人間だぞ! かわされちまう!」
「だから子どもあつかいすんじゃねえっつてんだろ!」
しかし、浴びせられたスライムは、丸い
「コイツにも効かないぞ!」
「待て待て! 待機!」
この
「おい! 何やってんだ! 落ち着け!」
「ああ?」
「聞いてんのか! 落ち着けっつてんだよ!」
「うっせえな!
「こんな時に暴れてどうすんだ! 冷静になれよ!」
「うるせえ!
「お前バカか! 相手は警察だぞ!」
「わかってるよ! くそ! わかった! 俺はあの太ったヤツと同じ方法でこの場を
「ああ、わかった! だが、ATPリンクは遠くまで通じねえ! 気をつけろよ!」
光成はウォータースライダーに飛び乗ると、そのままとなりのマンションの
後はヘリの死角を
「くそ! 囲まれていたか!」
光成はあたりを
「よし!」
光成はかけだすと、全力でジャンプし、屋上の
「跳んだぞ! あっちのマンションに行った!」
地上では警察官が
「このまま
光成はかけ出して、さらにとなりのマンションに跳び移った。今度は止まらずに次々とマンションを跳び移り、三つ目のマンションに跳び移ったところで、
生け垣の裏を進んでいくと、そこはなんと、市民プールの裏手であった。光成は市民プールから逃げていたのではなかったか。まさか方向を
プールの裏手にはトイレがあって、トイレ裏からフェンスを飛び
しかし、間の悪いことに、ちょうどトイレの裏手に一人だけ警官が残っていた。さらに都合の悪いことには、トイレのわきにも人がいる。これではいくら音を消しても、姿をを見られてしまうかもしれない。
「
光成はATPリンクで私に話しかけてきた。
「ああ? なんだお前、まだ近くにいたのかよ。今どこだ?」
「トイレの裏だ」
「マジ?」
「ああ、だがトイレのわきに人がいるだろう? あれがジャマなんだ」
これを聞いて私はトイレの方を見た。そこにいたのは水着姿のカップルで、
「ホントだな」
「悪いがあの人たちに声をかけて、注意をそらしてくれないか?」
「何? なんだって? マジでいってるのか? 話しかけるって何をだよ?」
「なんでもいい」
「なんでもいいって、そんな簡単にいうなよ。小五の俺が知らない大人に声をかけんのなんてムリじゃね?」
「そこを
「プールだったら目立たないってわけか……。マジかよ!
「そこを頼む。今ちょうど警備が手薄なんだ。急いでくれ!」
「しょうかねえな!」
しぶしぶ私は光成の頼みを聞いてトイレへ向かった。
こんな時に何を話せばいいのだろう? 知らない大人に話しかけるなんて
私はそう決心してリア
「あの~、暑いっすね、この天気ヤバくないっすか?」
ドキドキ☆ゲリラプールinサマーの混乱冷めやらぬプールサイドである。
「いや~、温暖化ですかねえ? プールには最高ですけどね?」
すると水着カップルの女がいった。
「ふぁ?」
冷たい
この様子を見ていた光成は、トイレからやや
「なんだ? 何かいるのか?」
音を消していたとはいえ、警官は何かが動いていることに感づいてしまったのである。光成は目にも止まらぬ速さで飛び出した!
「うわぁ! な、なんだ!」
しかし、目の前には
「な、なんだ?」
こんなものがあっただろうか? いいやなかった。いつからここにあったのだろうか。
警官はプールの方を見た。フェンスの向こうにいるカップルと少年は水着をつけている。水着をはいてない者など外からは見当たらなかった。となりのマンションを見上げてみると、ベランダに
こうして光成は、私の大変な
一言補足しておきたいことがある。
友だちの前で変身することは、光成にとってそれほどまでにハードルの高いことなのである。(続く)
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