第十一話 ドキドキ☆ゲリラプールinサマー

 子どものころは親に連れられて海外旅行に行くこともよくあった。コバルトブルーのビーチや星くずを背にした雄大ゆうだいな山々、大自然だけでなく世界各地にある歴史的文化遺産などもたくさん見てきた。今思えば幼少期に貴重な体験をさせてもらえたものだと親に感謝することもあるが、当時は正直いって親に付き合わされているだけで、無性に退屈たいくつな時間と感じられていた。私のスマホは海外で通信することはできず、いつも楽しみにしている動画チャンネルを見ることはできないし、ゲーム機を取り出せば、母から「海外に来てまでゲームなんて時間の無駄むだ」としかられていた。

 それに対して、友だちと行った夏祭りや花火大会など、身近な場所やイベントではあったものの、これらの思い出はなんと生き生きとしたものだったことか。幼少期の価値観というものは、大人の価値観とはまるでちがったものなのだ。

 今回のエピソードの舞台ぶたいとなる市民プールもまた然り。子どものころに遊んだあの市民プールは、なんと楽しく光りかがやいたものであっただろうか。


「お前、チンコなんか出してないでさっさと着替きがえろよ」

 すでに水着へ着替えていた明智光成がいった。私と光成は補習の後に市民プールへ遊びに来ていたところだった。

「ひやぁ〜、気持ちいい!」

 私はもたもたといつまでも着替えずに、フルチンでこしを左右にらしていた。

 本当にこんなことをしていたのだろうか。さすがにここまでバカなことをしていた記憶きおくはないのだが、明智あけち光成みつなりがこの時のことを鮮明せんめいに覚えているというのである。確かにフルチンでふるふるしていたのだと。かれがいい張るので仕方なく書いているのだが、私には到底とうてい納得のできるものではなかった。


 薄暗うすぐら更衣室こういしつから小走りで表へ出ていくと、プールサイドはまぶしくて目を開けられないほどの明るさだった。遠くに入道雲が見える以外には雲のない晴天。まさに絶好のプール日和である。パラソルやイスが並べられた人混みの間を通りけ、一目散にプールへ向かう。

「おい、光成。ちょっとアレ見てみろよ。なんかヤバいヤツがいるw」

 その時、奇妙きみょうな男が私の目に入った。パラソルの下で、ヘッドマウントディスプレイを着けた男がノートパソコンに向かっていたのである。

「くっそウケるw!」

「ほんとだな。こんな晴れた日にプールで何してんだろ」

 私たちは目の前にある流れるプールに今すぐ入りたかったため、そんな男にはかかわらず、監視員かんしいんに注意されない程度の小走りでプールへ向かうことを優先した。

 水に入った私と光成は感極まって奇声きせいを上げながらはしゃいだ。流れるプールの何がそんなに楽しかったのか、今となって見れば誠にバカバカしいしいことであるが、本当に楽しかった。今でもはっきりと覚えている。

 地域の市民プールであったから顔見知りも多かった。水の流れに乗りながら、時には声をかけたり、水をかけあったりするなどして、夢中になって泳ぎ遊んだ。

 この時、ふざけた同級生が私めがけてビーチボールを投げる一幕があった。ビーチボールはゆらゆらとあらぬ方向へ飛んでいったのだが、それが太り気味のおじさんの顔に当たった。太っているせいで水中メガネが顔に食いんでいるおじさんだった。同級生が即座そくざに「すみません!」と謝ったところ、おじさんはニコニコエクボ顔でボールを投げ返してくれた。めちゃくちゃいいおじさんだった。

 流れるプールを一周してみると、次はウォータースライダーをやろうということになった。このウォータースライダーは子どもたちに人気で、いつも順番待ちの行列ができている。その列にはすでに何人かの顔見知りの姿もあった。


 話を少しもどすが、先ほどパラソルの下にいたヘッドマウントディスプレイの男は、いうまでもなく比留守ひるすその人だった。かれ太満ふとみつと二人でイベントの視察に来ていたのである。ビーチボールが顔に当たったニコニコエクボ顔のおじさんも、もちろん太満その人であった。

 比留守と太満の二人はイベントの視察で市民プールに来ていたのだ。そのイベントは「ドキドキ☆ゲリラプールinサマー」というSNS上の有志たちによって計画されたイベントで、市民プールが開催かいさいする公式のイベントではなく、SNSでつながった人たちによって勝手に企画きかくされた、いってみれば非公式のイベントであった。非公式ということはつまり、私たちふくめ、この市民プールの来場者たち全員は、そんなゲリラ的イベントが計画されることなどだれも何も知らないでいたのである。


 さて、ウォータースライダーの列に並んでいた私と光成は、他の同級生にちょっかいを出したり出されたりをり返しながら、少しずつ前に進んでいき、長い階段を登り終えると、ようやくスライダーのてっぺんにおどり出ることができた。

 スライダーの頂上から見下ろす景色は、友人たちと最高に楽しい瞬間しゅんかんであったから、まさに絶景だった。眼下には色鮮いろあざやかな水色のプールが広がっていた。強烈きょうれつな日差しを浴びてまぶしいプールサイド。色とりどりのパラソルやテントたち。子どもたちでごった返すその大歓声だいかんせいが足元のはるか下方から聞こえていた。そして、真っ青に晴れわたった空の地平線近くには、白く巨大きょだいな入道雲が見えていた。

 いよいよ私たちの番が回ってきた。気持ちが高ぶっていた私はクールな光成よりも先に立ち、監視員かんしいんの「ハイどうぞ」という合図を聞くのと同時に、解き放たれたかのように勢いよくスライダーへ突入とつにゅうした。

 そのスライダーはチューブ状になっていて、いくつもの曲がりくねったコーナーがある。最高に楽しかったせいで、一人ですべっていたにもかかわらず、友だちに聞かせるように大声で奇声きせいを上げた。ほどなくチューブが終るとそのまま放り出され、宙にいたまま視界が広がった。青い空に燦然さんぜんと輝く太陽。騒々そうぞうしい子どもたちの歓声かんせい。ザブンと水に落ちると一気に歓声は聞こえなくなり、耳にくぐもったアブクの音に切りわった。水にみくちゃにされながら、なんとかプールの底に足をつけ水面から顔を出すと、再び子どもたちの歓声がわき上がる。私は水から上がり、耳に入った水をとりながら光成がすべってくるのを待った。ウォータースライダーの上の方で何か争うような大声がしていたが、ほどなくしてチューブから人が滑り下りてきた。


 しかし、それは光成ではなかった。緑色のお面をつけた、全裸ぜんらの男だったのだ。


 その男は奇声きせいを上げながらウォータースライダーから飛び出してきた!

「ヒヤァッハアァァ〜!」

 全裸ぜんらのまま着水すると、そのはずみでお面が外れ、水が波打ってもみくちゃにする。男が勢いよく顔を出すと、お面が外れていることに気づいてあわてて探し出し、背後でいていたお面を拾い上げると再び装着した。

 その緑色のお面には、何か植物のような、手書きのお粗末そまつな模様がえがかれていた。ひょっとすると、光合成仮面のつもりなのだろうか?

「キャァァァー!」

 周囲にいた人々の悲鳴が上がった! これを聞いた全裸ぜんらの男はさらに気分を良くして奇声きせいを上げた!

「うひょひょひょひょぉぉ!」

 ヤツは何もかくさない。全裸のままだ!

「ちょ、待てよ! いきなりヤベえヤツが出てきた!」

 私はあわてて明智あけち光成みつなりにATPリンクで接続を試みた。

「光成、聞こえるか? お前がすべってくるのを待ってたら、ネバーウェアが下りてきたんだがw。上でなんかあったのか?」

「ああ、お前が行った後におれが行こうとしたら、大学生くらいの男が急に割りんできたんだよ。けどよ、ネバーウェアってのはなんのことだ?」

「いや、全裸ぜんらのヤツが飛び出してきたんだよw」

「全裸? 割り込んできたヤツは水着はいてたぞ?」

「マジで? すべってる間にパンツいだってことか? ウケるw! しかも、植物の絵がえがかれたお面もかぶってるんだがw」

「はあ? なんだそれ?」

「光合成仮面のマネなんじゃねw? くっそウケんだけどw」

「マジかよ!」

「よかったじゃんw。ネバーウェアにマネされてw。お前も有名になったもんだなw」

「いや、全然うれしくないって!」

 私がATPリンクで通話しているところに、赤いTシャツを着た細マッチョの男がかけよってきた。この市民プールでは、監視員かんしいんはわかりやすいように赤いTシャツを着ているのだ。

「君! 危ないから下がって!」

 この監視員は大学の水泳部員で泳ぎは得意であるが、アルバイトで監視員をやっているだけでネバーウェアの対応などやったことがない。正直いってビビっていた。

「ウキョォォォー!」

 しかし、ネバーウェアは監視員が来てもひるむ様子もない。

「ははん? おれをつかまえようってか? どうかな〜? つかまえられるかな〜?」

 男は悪びれる様子もなく、挑発ちょうはつするように全裸ぜんらで反復横とびをはじめた。ところが、もう一人、二人と赤いTシャツの監視員がかけつけてくると、男は全開の光合成パワーで素早くげ出し、ウォータースライダーに飛び乗った。

「おひょひょひょひょぉぉ!」

「キャァァァー!」

 はちの子を散らすように周囲の人々が散っていった。

 パニックのさなか、異変は他の場所でも起きていた。この段階では何が起きているのかわからない人たちも多く、流れるプールでは悲鳴がする方を見て立ち止まる人もいた。すると、何者かが水中で足にぶつかって、「痛え!」とか「キャア!」などの悲鳴が上がり、バランスをくずす者が次々とあらわれた。芋洗いもあらい状態の流れるプールの中を、潜水せんすいしてところかまわずぶつかっているヤツがいたのである。異変に気づいた監視員かんしいんが入水して、息継いきつぎのためにそいつが顔を出したところをつかまえて厳しく注意したのだが、なんと、その男の顔にも緑色のお面がつけられていたのだ。こいつは注意を受けて逆ギレするかと思いきや、意外にすごすごとわきへ移動し、プールサイドに上がった。その際、ケツが丸見えだった。

 なんと、この男も全裸ぜんらだったのだ!

「ポウゥ!」

 その男はり返ると大股おおまたを開き、人差し指を高々とかかげたポーズをとった。

「キャァァァー!」

 これを見た一人の女性がおどろいてげ出したところ、競泳用の水着をはいた男にぶつかった。

「キャッ! すみません!」

「おお? なんですか! 危ないですよ!」

「すみません!」

「どうしたんですか! そんなにあわてて!」

「すみません! はだかの男がいるんです!」

「裸ですって? そんなまさか!」

 そういって競泳用の水着をはいた男がり返ると、顔には緑色のお面がつけられていた。

「え? え?」

 女が戸惑とまどって後ずさりすると、どういうわけか、その男はぱだかだった! 競泳用パンツをはいていたように見えたのは、おしりにマジックでパンツをえがいてだけで、実際には何もはいていなかったのだ!

「キャァァァー!」

 女は悲鳴を上げてげ出した! すると、すぐ近くに赤いTシャツを着た監視員かんしいんの背中が目に入った。

「監視員さん! 大変です! 変質者がいるんです!」

「変質者? それは大変だ! どんなヤツですか!」

全裸ぜんらでヘンなお面をかぶってるんです!」

「全裸? えっと、一つ確認ですが、全裸に何か問題がありますか?」

「はい?」

 予想外の言葉に女性ははげしく戸惑とまどった。なに? この会話のかみ合わなさは? 普通、全裸は問題でしょう!

 すると、遠くにいた別の監視員がかけ寄ってきた。

「おい! お前誰だれだ!」

 これを聞いて、女性の前にいた監視員かんしいんり返った。

「バレたか!」

 顔には緑色のお面がつけられていて、Tシャツをぎ捨てると全裸ぜんらげ出した!

「キャァァァー!」

騒々そうぞうしいな! いったい何ごとだ!」

 ベンチにロダンの考える人のようなポーズで座る三人の男がいた。うつむいていて顔が見えず、そのポーズから絶妙ぜつみょうにパンツの辺りも見えない。

「芸能人でもいるのか?」

「芸能人だったらサインほしいぞ」

 三人の男たちは思慮深しりょぶかそうなポーズをとっているくせにおかしなことをいい出した。

ちがいます! 全裸ぜんらの男たちが暴れてるんですよ!」

「全裸?」

「男たち? 一人ではないのですか!」

「『暴れてる』というのはいい過ぎなのでは? 証拠があっての発言なんでしょうな?」

 三人の男たちは好き勝手なことをいい出し、またしても会話がかみ合わない。

「あなたはつまり、はだかであることを問題としているのですか? それとも暴れていることを問題としているのですか?」

「どっちなんですか!」

「ここは市民プールなんだから、裸なのは当たり前なのでは?」

 最後の男は、アゴを乗せていた手をグーからパーにしていった。

「実際、私もはいてないのですよ」

 そういって立ち上がると、顔には緑色のお面がついていて、なんとこの男も全裸ぜんらだったのだ!

「キャァァァー!」

「私もです」

「私もですぞ」

 残りの男も順々に立ち上がると、やはり全裸で顔には緑色のお面がつけられていた!


 そこら中で緑色のお面をつけたネバーウェアが突然とつぜんあらわれて、プールは大変なパニックになっていた。この混乱の中、太満ふとみつまどう人々をよそに流れるプールから上がると、パラソルの下でパソコンを操作する比留守ひるすのもとに向かった。

 太満の背後では、また別の悲鳴が上がっていた。

「いよいよ始まったな」

 太満がニコニコエクボ顔で比留守に話しかけた。

「ああ……、ゴホッ、ゴホン!」

「想定していたより多いね。こんなに大規模だとは思わなかった。こんだけいたらATP能力持ちの一人や二人くらいはいるかもね?」

「ああ……、グフッ、ゲホッ、ゴェッホン!」

「クックックッ、こいつは大漁かもな。楽しみだぜ」

 太満はそういって笑うと、大混乱のプールの方へもどって行った。

 同時多発的に現れた緑色のお面をかぶったネバーウェアたちのせいで、プールは大変な混乱におちいっていた。ネバーウェアたちの奇声きせいや来場者たちの悲鳴がひびわたる。

 これがSNSで秘密裏ひみつり企画きかくされたゲリライベント、ドキドキ☆ゲリラプールinサマーの正体だった。


 昨今ではこういったネバーウェアによる迷惑行為めいわくこういが、ニュースでも度々報道されるようになっていた。国会での古地ふるち議員の発言にはこういった背景があったのである。

 しかし、それにしてもネバーウェアは、なぜ公衆の面前で全裸ぜんらになれるのだろうか。現代の日本で育った人間が人前で全裸になるのには相当なハードルがある。法律で禁止されていることもさることながら、人前ではずかしくてはだかにはなれないというのが一般的な行動原理ではないだろうか。普通ふつう、人前で裸になどなれない。それがなぜなれるのか。

 犯罪心理にくわしいと自称じしょうしている動画チャンネルでは、おおむね次のような解説がなされている。

「えーと、ネバーウェアってのはですね、かれらは基本的に光合成人間ですから、太陽光の下では極めて能力が高いんですね。それにもかかわらず社会からはまったく評価されていない。むしろ差別されている。光合成人間が能力を発揮するにははだかになる必要がありますからね。身もふたもないいい方をすれば露出狂ろしゅつきょうの変態なわけで、そういうステレオタイプなレッテルりが社会にあるのもまた事実なわけです。就職なんてもちろんできませんし、結婚けっこんもできません。かれらと社会との間には高いかべがあるわけですよ。こちら側とあちら側というようにね? 自分たちは絶対にあちら側になれない。我々が当たり前と思っている生活を彼らは絶対に送ることはできない、そういう現実があるわけで、そういった境遇きょうぐうにいますと、あちら側の人間は自分たちと同じ人間には思えないんですね。就職して結婚して、子どもを生んで家庭を持つような、幸せそうな人間たちは別世界で別次元の存在なわけです。別世界の人間に対しては仲間意識とか同族意識なんてほとんど感じません。例えばですけど、人前ではだかになることはずかしいことですが、犬とかねことか相手だったらどうですか? 人前と同じようには恥ずかしくないですよね? かれらにとっては社会の人々は犬猫と同じように同種ではないのですよ。だから、我々に対して全裸ぜんらになることを恥ずかしいだなんてまったく思っていません。むしろ逆ですよ。光合成人間であることを見せつけているんです。最高に高い能力を発揮したその姿をね。彼らは人々の悲鳴を聞くと、自分の能力が高いことを実感できます。おそれおののくほどの能力を持った存在なのだと。私はネバーウェアへのインタビューもたくさんしてきたんですけども、おおむね共通したことがもう一つありましてね、それはですね、人前で全裸になった時の高揚感こうようかんを上げる人が多いということなんですね。彼らは我々一般人いっぱんじんの前で全裸ぜんらになることによって最大限に自分の力を見せつけ、自己顕示欲じこけんじよくや承認欲求が一線をえた異様な高揚感となって、自意識が満たされていくのを感じているのです。だから、かれらは我々とちがって、人前で全裸になることができるのですよ。ある種のカタルシスとなって、まったく抵抗ていこうなく全裸になっているのです」


 以上が動画チャンネルでの解説であるが、私が非常におそろしく思ったポイントが一つある。それは「こちら側とあちら側」という考え方だ。

 この考え方は意外と身近にもあって、例えばであるが、「ウチら」という言葉はだれしも使ったことがあるのではないだろうか。「ウチら」とは、あちら側に対しこちら側を表す言葉である。「あの子はウチらとはちがうグループだから一緒いっしょには遊べない」とか、「アイツは成績優秀せいせきゆうしゅうだからウチらとは違う」とか、大人の世界であっても「ウチらの会社」とか「ウチらの部署」だとか、意外と「ウチら」という言葉を使って「こちら側とあちら側」という線引きをしたいい方をしていることはないだろうか。

 「ウチら」といういい方自体はよく耳にするいい方だし、別にそれほど罪のあるいい方ではないかもしれない。ただ、「あちら側」との距離きょり極端きょくたんはなれた場合はどうなるのだろうか。距離が離れれば離れるほど共感や同情といった感情はうすくなっていくものであり、行き着くところまで距離が離れれば、「あちら側」の人間は仲間ではないから何をしてもよい、最悪の場合、殺してもかまわない、そういうようになるのではないか。極端な例をあげれば戦争はまさにそういったものではないだろうか。

 話をネバーウェアの話にもどすと、先の動画チャンネルでもいわれている通り、ネバーウェアが社会に対して「こちら側とあちら側」と線引きをしていることは事実である。良識のある人からすれば、人間は平等なのだからそういった線引きはやめなさいというだろう。しかし、それは差別を受けていない者たちの意見であって、差別を受けているネバーウェアからすれば、線引きしたのは社会の方なのだ。

 先に線引きをしたのはどちらなのか。

 実際に光合成犯罪の問題を論じる時にこの議論はよくあって、ニワトリが先か卵が先かという議論になりがちではあるのだが、私が考えるには、やはり社会が光合成人間を受け入れなかったのが先ではないだろうか。

 私はドキドキ☆ゲリラプールinサマーのような、悪ふざけの迷惑行為めいわくこういを正当化したいわけではない。国会で古地ふるち議員からの発言があった通り、我が国の治安が悪化していることもまた事実なのである。悪いことは悪い。犯罪は犯罪なのである。しかしながら、光合成人間という理由だけで、線を引いてレッテルをるのはちがうのではないかと私は思うのだ。なぜなら、犯罪をし得る存在という意味では、光合成人間も一般いっぱんの人たちも、みな同じ人間なのだから!

 どうか皆さんに覚えておいてほしいことがある。私が市民プールを最高に楽しい思い出として覚えているように、ネバーウェアにも子どものころがあったのだ。子どものころは社会にこんな格差や差別があることなど知るよしもなく、だれしも無邪気むじゃきではなかったのか。無邪気だったからこそ楽しいことがあった。だからこそ、これだけは知っておいてほしいのだ。この反社会的な行動をするネバーウェアたちであっても、みんなと同じく、子どもの頃の無邪気で楽しい思い出があったことを! (続く)

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