第九話 面接
「スザンヌが家に来ただって? 何をしに来たんだ!」
「私がスザンヌ様に直接お会いしたわけではないので、何をしにいらっしゃったのかはわからないのですが、
「目撃者?」
「ええ、
「ああ、あのおじさんか。もちろん知っている」
「昼過ぎに私が家の前で
「その能力のことなら私も知っている。私が子どもの
「はっ、スザンヌ様がいらしたのは午前十時くらいの
「そうか。いくらスザンヌといえども、光合成おじさんには見つかっていたというわけか。それで、家の中に何か変化はあったか?」
「家中を調べて見ましたが、何の
「ふうむ……。そうか、ありがとう。仕事に関したものは家にはないはずだが、そもそもスザンヌが日本に来ていること自体が問題だな」
「いったい何をしに来たんだ。私の家に来たということは、私に関係したことに
行ったり来たりしていた大臣の足が止まった。
「ひょっとして、光合成基本法か?」
「光合成基本法に何かあるのか? これは
「何者かが
「大臣。時間が……」
「よし、わかった。
さて、話は変わるが、今からさかのぼること一ヶ月ほど前、さるNPO法人では事務局に欠員が発生したため求人を行っていた。NPOとは、金もうけを目的とせずに、社会
国会での議論にもあったように、光合成人間の就職活動は困難を極めるのが実情である。それがどういったものなのか、実際に見ていきたいと思う。
「やあ、初めまして。お
「いえ、逆にこんな
「いやいや、構わんよ。あなたも今の仕事がありますからね。さあ、どうぞ、おかけください」
「それでは、失礼いたします」
「まずは
理事長はそういってウィンクをした。
この理事長は、
「それから、こちらの者はシニアプレイヤーをしている
そういって
シニアマネージャーやシニアアナリストなどの
「
この男は
このことについては
クールビズというビジネス習慣がある。クールビズとは、省エネや
この男のだらしなさはクールビズだけではなかった。
しかし、だらしのない身だしなみとは裏腹に、ニコニコした顔にはエクボがあって、なかなか
「それから、こちらはCTOをしている
「比留守で……、ゴホッ、ゴホゴホ!」
この男は先ほどからずっと
ヘッドマウントディスプレイとは、目をおおうように装着する機器で、そこに映像やゲームの画面などを映して見ることができる、いわば、ヘッドホンの視覚版といったようなものだ。この男が着けているヘッドマウントディスプレイはかなり大型なタイプのもので、この男が
先ほどの
さらに、この男の
「ゴホン! ゴホン! ゴエッホン!」
CTOはマスクも着けていない。
「さて、それでは、えーと……」
目を細め、履歴書を手元から
「字が小さいな」
上級プレイヤーが横からのぞき
「えっと、
「ゴフ! ゴホッ、ゴフゴホン!」
「ああ、そうだった、若流さんだった。失礼。実は、こんなさわやかでイケメンな男子が
「いえいえ、そんなことありませんよ」
「まあまあ、そう
理事長はそういってウィンクをした。
「ゴフン! ゴホッ、ゴフン!」
CTOの
「それではあらためまして、私は
「ゴフ、ゴフ……」
「ほほう。総合商社のお仕事を。我が法人の事業とはだいぶ業種が異なっているようですが、どういった訳で今回の求人に
「ええ、実は、私も光合成人間でございまして、以前から
「ほほう。こんなイケメンなのに、あなたも光合成人間でしたか! 今の会社はよく
「ゴフッ、ゴフン! ゴエッホン!」
「…………。いえ、今の会社には
「なるほど。あなたもイケメンなりに苦労されているわけですな。わかるよ? 我々も光合成人間の
「ゴフッ」
「我々もですな、まあ、これはかくしている訳ではないんだが、君もだいたい察しがついているだろう? 我々もね、光合成人間なのだよ。
そういって、理事長はウィンクをした。
「ゴホッ、ゴホッ」
「君も光合成人間ならわかるだろうが、社会は実に差別で満ちあふれておる。光合成人間というだけで変質者あつかいだからね? だから、我々のような光合成人間の
理事長は
「こんなイケメンの男性が共感してくれるなんて、うれしい限りだよ。そうか、君も社会に
「ゴホッ、ゴホッ」
「いえ、えっと、恨みというほどのものはありませんが、実は私の場合、生まれてから一度も公表したことがないんですよ。光合成人間だということは。ずっと
「ゴフッ、ゴホン! ゴホン!」
「なんだって? それじゃあ、どういうわけで
「ゴホゴホ! ゴフッ、ゴホ! ゴエッホン! ヒュヒィィ、ゴフ! ゴエッホン!」
CTOの
「あの、体調は
「私は
理事長は
いや、だって
「え、ええ……。もちろんですよ。この求人に
「つもり? つもりでは覚悟とはいえんな。こういうセンシティブな内容はだね、極めて重要なことなのだよ。わかるだろ?」
「ゴフ、ゴフッ」
「私の悪いところなんだが、どうも疑り深い性分でね。簡単には人を信用できんのだよ。我々はもっと腹を割って話す必要があるかもしれんな。そこで提案なんだが、もっとお
「ゴフ……」
「お
「ゴホン! ゴホン! ゴエッホン!」
なんだって?
裸になれだって? 本気でいっているのか? 裸で面接なんて聞いたこともないぞ? これはハラスメントどころの話ではない。
「
理事長はそういってウィンクをすると、上着を
「ゴホ! ゴホッ! ゴホォオ!」
太満はすっかり
「おおっと。私の筋肉を見られてしまいましたな。実はジムに通っていましてね。別に
理事長の胸毛の生えたその肉体は見事に
「おや? 失礼、私が下着にまで気を配っていることがバレてしまいましたな?」
理事長はそういってウィンクをした。
「ゲホッ! ゲホン! ゴエッホン!」
なぜかCTOだけは服を
なんだこの
「さあ、君もいつまで服を着ているつもりかね?
理事長は
若流は身の危険を感じた。これ以上、ここにいたらヤバい。
「せっかくですが、私はこれで失礼させていただきます」
「おやおや、どうしたのかね?」
「ああ、そのドアはだね、スタッフが外から鍵をかけたよ。私の許可がなければ開かんよ?」
「クックックッ」
「
後ろを
「おっと、うちの設備を
「ぐおぉ!」
この
密着してまったく身動がとれない。
「今のはいいパンチだったよ君? 実に見事なボディーブローだった」
理事長もつないだ手が
「これは総合商社の営業なんかにはできん
「我々が気づかんとでも思っていたか! このマヌケが! 我々はATP能力持ちのエリート集団なのだよ! ナメるんじゃない! 君がスパイ目的で面接に来てることは初めからわかっていたのだ! それをのこのこと我々の事務所にやって来て、飛んで火に入る夏の虫とはまさに貴様のことだな!」
若流の表情が変わった。
「な、なんだって? 何をいってるんだ?
「どんなにシラを切ろうが、ただで帰れると思わんことだな! 我々は確実な情報をにぎっているのだよ!
太満は理事長と手をつないだまま、片手だけで
「ぐあぁ!」
外はすでに暗くなり始めていて、光合成をするための光源は室内の
「ナメてると殺すよ?」
しかし、目はまったく笑っていない!
「おいおい、
「ゴホッ、ゴホン」
「
比留守はもそもそと服を
「オホン、ゴコン!」
「おい! 何をする! こんなことをして、タダで済むと思うなよ!」
比留守は取り出したスマートフォンを持って、またもそろりと若流に近づいた。
「スマホのロックを解除させようというのか? クソ! そんなことするわけないだろ!」
「
理事長がそういうと、比留守はこともなげに暗証番号を入力してみせた。
「ウソだろ?」
「クックックッ」
「なんでだ! どうやって暗証番号を盗んだんだ!」
「ゴフッ、ゴホン! ゴエッホン!」
「君はなぜCTOがこの面接にいるのかわかってないようだね?
「クックックッ」
「この
理事長はそういってウィンクをした。
「抗体? なんだ? 伝染病なのか?」
「ゲホン! ゲホッ、ゴエッホン!」
またしても若流の顔にツバがかかった。
「くぅっそお! 何の病気だ! こんなことゆるされないぞ!」
「たから、
「なに? ひょっとして、この
「
「な、なんだって?」
「私は親切で
「ゴホゴホッ、ゴォッホン!」
「…………」
「だいぶ
理事長はそういうとウィンクをした。
「オェッホン! ゴエェェッホン」
二重スパイとは、スパイが元々所属する組織を逆にスパイすることをいう。つまり、この場合でいえば、
「そ、そんなこと、できるわけないだろ!」
「わかるよ? 君にも立場があるからね? それに、さっきもいったが私は非常に疑り深くてね、君が快く引き受けてくれてもだね、簡単には人を信用できんのだよ。光合成ウイルスに感染しているとしてもだよ? 君が
「クックックッ」
「…………。
「なんだって? あぁっはっはっはっは! 君、意外と面白いことをいうじゃないか! そんなことで私が君を信用できると思っているのかね? ずいぶんと低く見られたものだな! 人を
比留守はスマートフォンの画面を
「な、何をアップロードしてるんだ……」
「全部だよ! このスマフォに入っているもの全部だ! これで君の
「ゴホン! ゴホォ、ゴエッホン!」
「クックックッ」
「そんなに
理事長がウィンクをすると、
「おや? 意外と早く終わってしまったようだね? それほど重要なデータは入っていなかったかな? 比留守、
「入っていまし……、ゲホン! ゲホン!」
「それだけ入っていれば結構! まあ、データは後でゆっくり見させてもらうよ。どうかね?
「クソぉ!
「まあ、いいたいことをいいたまえ。これで我々は君の人生を台無しにできるようになったのだからね。君のスマフォに入っている秘密や、光合成人間だという事実。これらがネットにバラまかれたら困るだろう? 従わなければ、
理事長がそういうと、あれほどくっついて離れなかった太満の体がフワッとはがれた。体がくっついていたのはヤツのATP能力だったのだろうか。体は自由になったものの、絶望に打ちひしがれた
なんてことだ。
光合成人間として生まれたとはいえ、
そんな
「あ、これ理事長のっすよ」
太満がニコニコエクボでいった。
「おお、すまん、すまん」
理事長は下着を受け取ると、何かを思い出したように動きを止めた。
「そうそう、重要なことをいい忘れるところだった」
「
「ゲホン! ゲホン!」
理事長はそういってウィンクをした。(続く)
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