第八話 国会とテストと校長先生 その二
これは小学生だった私たちにとって
私はATPリンクで明智光成に声をかけた。
「おい光成、聞こえるか。お前、校長先生に呼び出されてんだってな?」
「ああ。今、ちょうど校長室の目の前だ」
「マジかよ。なんかあったのか?」
「さあな。
「あの校長先生のことだ。気をつけろよ。今日はWi―Fiが切られたことといい、カーテンが閉められたことといい、何かおかしい。ひょっとすると、
「ああ。かもな。昨日、主月先生が後をつけてたのも気になる」
「それな。
「ネバーウェアとバトルするわけじゃないんだし、お前の出番はないかもよ」
「そんなぴえんなこというなよw。Wi―Fiは復活したようだし、ネットで
「悪いな。じゃあ、
「ああ、気をつけろよw」
「失礼します」
しかし、中から返事はない。光成は再度ノックした。
「失礼します」
やはり返事がない。ATPリンクで様子を
「おい光成。返事ないのか? ヘンだな。スマホの位置情報的には校長先生は中にいる。待たせて
「ああ、だとしたら俺は先手を取る。二回ノックしたんだ。鍵がかかってなかったらこのまま開ける」
光成はドアノブに手をかけた。
「失礼します!」
すると、ドアノブに内側から力がかかって回ったかと思うと、
「あら、
ドアが開け放たれ、中に入ると
校長先生はヒールのある
「どうぞ、おかけください?」
校長先生は疑問形のように語尾を上げていった。
光成は入口側から見て手前のソファーに
光成が座った応接用のソファーには、テーブルをはさんだ向かい側にもソファーが置いてある。話をするのだったら
先ほどから部屋に立ち
「
「ああ、なんだ?」
「校長室で
「俺の出番だなw。まかせろ。って、なんだこれは? アルコールが検出されてんぞ?」
「アルコール? 校長先生は酒を飲んでたのか?」
「いや~
「香水? 香水にアルコールが入ってんのか?」
「入ってんだよ」
「お前よく知ってるな」
「ああ、うちのオカンがたくさん持ってんだ」
「確かにあのお母さんは香水つけてそうだな」
「そうなんだよ。くっそいっぱい持ってんだw」
「けど、ヘンだな。テスト中、校長先生が教室に来た時には、
「お前の教室にも来てたのかよw。ウケるw。
「ということは、たった今つけたってことか? さっき、ノックしてもなかなか出なかっただろう。あの時に香水をつけてたのか?」
「そうかもな。けどよ、校長先生って香水つけてもいいのか? しらんけどw」
今日も雲一つない快晴だった。窓の外がまぶしい。カーテンも閉めず、直射日光を背後から浴びる校長先生は、窓の外がまぶしすぎるためその姿は黒い
「今日は放課後にお呼びしてごめんなさいね。さきほどのテストはどうでした? 今回は難しかったのかしら。いつもだったら百点近い点数を取っているのに、今回に限っては0点だった子もいらしたのよ?
ATPリンクで話を聞いていた私は、自分のテスト結果についていわれたのかと思い、
「光成、聞いてたぞ。いつも百点近い点数取ってるのに0点だった子って、ひょっとして
「かもな。今回に限ってそこまで点数下げるヤツは他にいないだろう」
「マジかよ! あんなに苦労して
ATPリンクでの通話が聞こえない校長先生は話を続けた。
「
「ほほぅ。聞いたぞ。お前、百点満点なのか。よかったな。お前だけ百点で。テスト中になんで答え教えてくんなかったんだよ」
「しょうがないだろ。だけどヘンだな。採点がやけに早い。
「それな。やはり俺たちが光合成人間だって疑われてんのかもしらねえ。けどよ、よりによって俺の0点を
校長先生に私の皮肉はもちろん聞こえていない。逆光で
「
「聞いたぞ。よかったな。光成」
「はあ、そうですか。ありがとうございます」
光成は私の
「本当にあなたは素晴らしい。教員としてあなたのような生徒に出会えたことを
「よかったな。光成。教えてやれよw。お前がATP能力持ちだってことをよw」
「いや、べつに教科書を読んで問題集に目を通しただけですよ。学校のテストは教科書に書いてあることしか出ないじゃないですか」
光成までもが私の言葉に反応してくれなくなった。
「本当かしら? それが本当でしたら、
「『超人的に』だってよw。遠まわしに光合成人間じゃねえかっていってんじゃねw?」
その時、光成から見て右側から小さな物音がした。しかし、部屋の右側には
小学校の壁は厚い。隣の音が聞こえるようなことがあるだろうか。教室でも隣のクラスから何か聞こえてくることはあるにせよ、壁を通って聞こえてくるというよりは、
「
「俺の出番か! ちょっと待てよ、う~ん? 特に何もないようだが」
「気のせいだったか……」
「んん? 確かに今、なんか音がしたな。この音は、そうだな、オフィスとかにあるキャスターがついたイスのきしむ音だ。んんん? まただ。音がした! お前のいう通りだ!
「
「どうかしましたか? 何か気になりますか?」
「いえ、音がしたような気がしたので……、誰かいるのですか?」
校長先生はこれに答えなかった。光成は校長先生の表情を見たかったが、逆光のせいでよく見えない。
「光成。お前の視覚情報を明るく補正して見てるんだが、校長先生、くっそこえー顔して音がした方見てるw」
「なんだって? やっぱ
「はっ、そうでした。そういえば、
「家庭学習のことはまた今度お聞かせいただけたらと思います。話が変わってしまいますけど、明智さんはご存知かしら? 昨日、ちょっとした事件がありましたのよ?」
光成は校長先生が話をそらしたと思った。
「あの、
「隣には誰もいません」
校長先生は
「話を続けましょう? もしかしたらと思って
「昨日ですか? さあ、何かあったのですか?」
「実は、光合成人間の事件があったのです」
「光合成人間の?」
「そうです。大事にはいたらなくてよかったのですが、最近、光合成犯罪が多発していますでしょう? 明智さんも危険ですから気をつけてほしいのですれど、昨日もありましたのよ。それで、関係のない話であればよいのですが、昨日の放課後はどこにいらっしゃったのか、差し支えなければお聞きできるかしら?」
「そうですね、確か……」
昨日の放課後といえば、
「田畑がある方の、桜並木があるところに行ってました」
「桜並木……。そう。それで、何をしに行ったのでしょう」
「そうですね……」
光成はセミが鳴いていたことを思い出した。
「セミですね。セミを取りに行ったんです」
校長先生は口元に手を当てて考えるような仕草をした。
「
「さあ、
「ええ、すぐに
「はあ。そうだったんですね」
「
今日の本当の目的はこれか? 光合成人間であることだけでなく、光合成仮面であることまで疑われているとは。光成は
「光合成仮面ですか……、聞いたことはあります」
「話では植物の仮面をかぶった少年とのことです。ちょうど明智さんと同じくらいの年格好の」
校長先生はわざとらしく「明智さんと同じくらいの」といういい方をした。ここは小学校で光成はそこの生徒なのだから、同じくらいの年格好をした子どもなどいくらでもいる。それをわざわざ「明智さんと同じくらいの」といういい方をしたのだ。ピンポイントで光成が疑われていることは
光成は校長先生の質問には答えず、逆に質問で返すことにした。
「でも、ヘンですね。
主月先生は後をつけていた時、
校長先生はこれに答えなかった。
「なるほどね……。その
本当に笑っていたのか、校長先生の顔を見ても逆光でその表情を確かめることはできなかった。
心なしか、
国会では光合成基本法についての議論がまだ続いていた。
「総理。あなたは多様性という言葉をよくお使いになりますが、聞くところによると所信表明でも十二回ほど使われたそうですよ。これを私がどれだけうれしく思ったか総理はご存知ないでしょう。やっと多様性を大切にする総理が現れた、やっとすべての国民の幸せをかなえてくれる総理が登場した、私はうれしくて、どれほど感動したかおわかりでしょうか?」
「それが先ほどの議論はいったいなんですか! 私があの議論をどれほど苦々しく聞いていたかおわかりですか? 光合成人間も我が国の国民ですよ? それが
「
議長に指名されると総理は手を上げて答弁台に立った。
「えー、先ほどの議論につきましては、私としても
「何いってんだ! 私は光合成人間が嫌いだなんていってないぞ!」
「私は治安が悪くなっていることを問題にしているんだ! そうやって誤解されるような話にすり替えるんじゃないよ!」
この野次に倫藤議員が割って入った。
「
「それではまず、総理にお聞きしておきたいことがございます。光合成人間が生活をする上で正体をかくしていることは、総理もご存知のことと思います。なぜ正体をかくしているのか、総理、おわかりでしょうか」
「
総理は少し間を置いてから答弁台に立った。
「えー、それぞれの方が、様々なことを
「総理! 『それぞれ』とか『そう』とかばかりで何をおっしゃっているのかまったくかわかりません! 実際問題としては差別があるからなのですよ! 総理だってご存知でしょう! 総理にはその現実に対して
「
「えー、おっしゃる通り極めて問題との認識であります。光合成人間という理由でですね、人事評価に不利益が発生する、こういったことはあってはならないことであります。ですから、本法案では、光合成人間への理解を増進してですね、光合成人間の
「総理! こういうことは社会人だけの話じゃありませんよ! 学生や子どもたちの間にもあるのです! 進学を取り消された、仲間はずれにされた、不登校、記録会で失格になったというケースもあるのです! こんな社会じゃ自分が光合成人間だなんて、おいそれと口にできませんよね! 総理、子どもたちもこのような差別や不平等に直面しているのですよ! なんとかならないのですか! 総理!」
「
総理は手を上げて答弁台に立った。
「えー、そもそも差別やいじめといったものは許されないことであります。ですが、先ほどの議論にもありましたように、光合成人間は
「パラリンピックのようにって、それはつまり、自分が光合成人間だって公表することですよね? だからそれができないっていっているんですよ! 最近ですね、仮面をかぶった光合成人間が、光合成犯罪の
総理は後ろの政府担当者から話を聞いていた。
「総理がお答えください! 知らないんですか! 総理!」
「
総理は手を上げて答弁台に立った。
「光合成仮面と呼ばれていると報告を受けております」
総理はそそくさと席にもどった。
「それでは総理、どんな仮面をかぶっているかご存知ですか?」
総理はまた後ろの政府担当者の話を聞いた。
「もう結構です! 総理はご存知ないのですね! 植物ですよ! 植物の仮面をかぶっているのです! もっと勉強してください! 総理!
「光合成人間は、皆、仮面をかぶって生きなければならないのですよ!」
国会での議論が白熱するさなか、
「
校長先生は机の上に置いてあった書類を開いて何かを取り出した。そして、それを机の上に置くと、そっと差し出した。
「こちらに来て、近くでご覧いただけません?」
それは、プラズマ男が校庭に現れた時に、倉庫の裏で光成がくわえた草だった。
「これが何だかおわかりになりますか?」
「さあ、なんでしょう。見たところイネ科の植物のようですが」
「イネ科? そう、よくご存知ね。これはイネ科のメヒシバという草です。ただ、こんなに大きくはないので、明智さんも気づかなかったのかもしれませんね? メヒシバはご存知でした?」
「いいえ、知りません。こういう雑草にも名前があるんですね」
「そうです。その辺に生えている野草にもすべて名前がついているのですよ。
校長先生はそういうと、体を前のめりにして光成の顔をのぞき
光成は、どういうわけか頭がボウっとし始め、その草は自分が口にくわえた草だと、うっかり答えそうになってしまった。そう気づいてハッとした。
「
「ああ、なんだ?」
「何かヘンだ。校長先生の質問にうっかり答えそうになっちまった。
「ああ、それはな、香水ってのはつけた
「そうなのか? くわしいな」
「さっきもいったが、オカンがくっそハマってんだよw。けどな、ちょっと待てよ?
「なんだって?
「
頭がボウっとする光成は、自身の体に起きた異変を理解して身の危険を察知した。このままだとマズい。光成は息を止めた。
「そうか、
念のため補足であるが、ATPリンクでの通話は、口でしゃべっているわけではないので息を吸う必要はない。
「光は足りてんのか?」
「
「どうしました?
「いいえ。なんともありません」
こう返事すると一息吸ってしまった。校長先生は光成を
「校長先生のやつ、気分が悪いかとか心配してるようなこと聞いて、本当は
「そうかもな。けどヘンだな。
「確かになヘンだな」
「それと気になってるんだが、校長先生は
「緑色のヤツだろw?」
「そうだ。ひょっとするとこれは
「校長先生も光合成人間なのかもなw。くっそヤベえぞ。校長先生も息してねえのかも」
「
「いえ、ぜんぜん
「おい! 大丈夫か! しゃべると息吸っちまうぞ!」
「まずいな……。さっきより
「大丈夫かしら? 話を続けますよ? 体調が悪かったらいつでもいってくださいね? このメヒシバについて
校長先生はこれだけしゃべっても
「
「自分には効かねえのかもしらねえな。ひょっとすると
「その可能性高いな……」
「だとすると、校長先生は直射日光を浴びてんのに対してお前は
「お返事いただけませんの?」
光成は校長先生の問に答えなかった。いや、答えられなかった。
「ヘンね……。これだけ上げているのに……」
校長先生はそうつぶやいた。上げている? 何を上げているというのだ? この
「それでは本題に入らせていただきたいと思います」
国会では
「我が国の国民は、海外へ
「
総理は議長に指名されると、手を上げて答弁台に立った。
「えーと、我が国の国民に対して、差別的な理由でパスポートを発行しないということは、当然あってはならないことであります」
総理はこう回答すると、そそくさと席に
「
「
総理は後ろにいる政府担当者から話を聞いていた。
「総理に聞いてるんですよ!
伊達指総理は政府担当者に二三度うなずくと、手を上げて答弁台に立った。
「えーと、
「えっと、すみません!」
倫藤議員が強引に総理の答弁をさえぎった。
「光合成全能態? 犯罪者? なんのことでしょう? もっと国民にもわかる言葉でご説明いただけないでしょうか!」
「ネバーウェアのことだろ!」
議場に笑い声が上がった。
「
倫藤議員は
「この
「
伊達指総理は苦笑を
「えー、ですから、
「
「
しかし、総理は指名されてもなかなか立ち上がらなかった。議長は再度声をかけた。
「伊達指総理大臣」
総理は仕方なく手を上げて答弁に立った。
「えー、パスポートの発行についてですね、私がすべてのケースを
「把握されていないのですね? これは人権問題ですよ? あきれてものもいえませんよ! 総理は
「明智大臣」
明智大臣は指名されると答弁台に立った。
「えー、光合成人間にパスポートを発行した事例につきましては、残念ながら記録上はございません。ですが……」
すかさず
「聞きましたか! やはり光合成人間にパスポートを発行していないのですよ! これは重大な
「まだ発言中ですよ!
「そうだ! 最後まで話聞け!」
「これが
「そうだ! 人権侵害だ!」
「ちょっと議長! 最後まで発言させてください!」
「
「どうか最後までお聞き願えないでしょうか。これは光合成人間だと判明しているケースに限って申し上げればの話です。現状としてはですね、光合成人間かどうかという事実は
「
「そうだ! これは差別だぞ!」
「だから『記録上は』って大臣はいってんじゃないか!」
「
「正体かくしてんだぞ! 把握なんかできるわけないだろ!」
ダン、ダン!
「
「えー、おっしゃる通り、光合成人間だからという理由でパスポートを発行しないということは、これ、あってはならないことでございます。ですが、正体をかくされている場合は
「ですが
「あのう、大変な誤解をされているようで、これだけははっきりと申し上げさせてください。差別的な意図は一切ございません。現状、公的な記録上は光合成人間が海外に
「えー、明智大臣の考えはよくわかりました。問題を我が国のたぐいまれな努力と技術の産物であるイチゴやブドウなどと同じに考えているわけですね。私も大好きですよ。特に皮まで食べられる種なしブドウは私の大好物です。これが海外に流出している事実については、私も重大な問題として
「そうだ、そうだ!」
「これは
「何いってんだ! 国益の
「どんだけ我が国の技術や情報が
ダン、ダン!
「
「えー、
「光合成基本台帳、確かに有識者会議の議事録に書いてありますね。光合成人間だけが台帳に登録される。これは平等とはいえませんよね? まるで犯罪者あつかいではありませんか!」
「そうだ! 不当な差別だ!」
「管理には台帳が必要だろ!
「何いってんだ! 差別だろ! お前こそ馬鹿なんじゃないのか!」
「そもそもネバーウェアは犯罪者だろ!」
ダン、ダン。
「
「えー、まさにそういったことに注意しなければならない問題でございます。管理する上では台帳の作成は必要になりますが、これが
「ですが、大臣。結局は台帳を作るおつもりなのですよね? 不平等で差別的な台帳の作成は、断じて容認できません! 大臣にはもっと人の立場に立って考えてもらいたいのですよ! 仮にですよ? ご自身の子どもが光合成人間だったら、大臣はどう思うのですか? そういった視点で考えていただけないでしょうか? あなたにも息子さんがいらっしゃいましたよね? 要管理対象者として、息子さんが管理されるわけですよ? まるで犯罪者ではないですか! 現在の社会は光合成人間を犯罪者や変質者を見るような目で見ているのですよ! 就職活動や会社の人事評価でも不利にはたらいているのが現状です! そういった光合成人間を取り巻く現状のなか、ご自身の息子さんが犯罪者のように管理されることを想像してください! あなたの子どもだったらですよ? 大臣、どう思うのですか!」
「
しかし、大臣は目を閉じたまま、答弁に立たなかった。
「明智大臣」
議長に再度指名されてやっと立ち上がった。
「えー、仮定での話にお答えすることは
「大臣! いっていることやっていることが逆じゃありませんか!」
「差別的な台帳を作ったり
「そうだ、そうだ!」
「犯罪者あつかいじゃないか!」
「犯罪者だろ! ネバーウェアは!」
「
「
「光合成人間は裸にならないと能力発揮できないんだろ? 海外で就労して、現地で全裸になってほしいのか! それこそ
「海外でも全裸は違法なんじゃないのか!」
「何をいっているのですか! 多様性の問題ですよ! 多様な人間で構成されているのが現代社会ではありませんか!」
「なんでもかんでも多様性とおっしゃいますが、全裸が多様性ってのは無理があるんじゃないでしょうか!」
「さっきから光合成人間の保護ばかりで話が違うんじゃないのか! まずは国民の安全を守ることが先だろ!」
「だから光合成人間も国民です! 誤解と
「いいや! ネバーウェアは犯罪者だろ!」
「議長! 野次を止めてください!」
ダン、ダン。
「
「ネバーウェアの親がどうなってるか知ってるのか! 地域から
「子どもたちがかわいそうです!」
「子どもたちを最優先に考えてほしいんです!」
ダン! ダン!
「静粛に!」
国会の議論が最高潮に達していたその頃、光成と校長先生の面談はまだ続いていた。
香水と
「先ほどからだまっていらっしゃいますが、どうかしましたか?」
校長先生は光成に息をさせて催眠ガスを吸わせたいのだろう。しかし、光成は答えなかった。
「何もしゃべらないのでしたら会話ができませんよ?
校長先生は光成の口元を見つめた。呼吸をしているのか確認しているのだ。
「おかしいわね……」
校長先生はこうつぶやいた。
「話を続けましょうか。光合成仮面は植物を成長させ、それを頭にからみつけて顔をかくしているそうです。つまり、
「…………」
「そう、答えないのね。もう一度確認しますけど、息はしていらっしゃいますよね? 気分が悪かったら
そういって校長先生は光成の顔をのぞき
「光合成仮面はちょうど
「ああ?」
光成は思わず声を出してしまった。
校長先生はあろうことか光成を子どもあつかいしたのだ。私はマズいと思った。光成は子どもあつかいされるとキレるのだ。
しかし、校長先生はこれを見落とさなかった。
これは何? 今までと明らかに
「仮定での話ですよ? 光合成仮面の行動が子どものようだというのは」
「ああ?」
「別に明智さんを子どもあつかいしているのではありません。どうしたのですか?」
「なに? なんつった?」
この反応を見て校長先生は確信した。子どもあつかいされることに反応しているのだ!
確信を持った校長先生は
「
光成のくちびるが
「おい! 光成! 落ち着け!
「だって、ひどいじゃありませんか? 自分の正体がわかる
「ああ? うるせえな! やめろよ! そうやって挑発すんのは! ごほっ」
「まずいぞ! 光成! 今のはかなり息を吸ったぞ!」
「挑発なんてしていませんよ? どうしたのですか? そんなに取り乱して」
校長先生から笑みがこぼれた。
「明智さんの話じゃありませんよ? だって、明智さんは
「うるせえ! やめろ! ごほっ、ごほっ!」
光成はむせ返ってしまい、バランスが取れなくなってソファーから転げ落ちてしまった!
「どうしたの? 明智さん? 気分が悪かったらちゃんといってくださいね? 子どもじゃないんですから!」
「くっそぉ、この
光成は立ち上がることができなくなっていた。目が回って意識が
「どうしたの?
しかし、それはちょっと暑い程度の汗ではなかった。
「そうだ! 光成! 汗をかけ! 体に入っちまった
デトックスとは、体内に入ってしまった有害物質を体外へ
光成の
「ちょっと、
しかし、光成の
さすがの校長先生も
「
校長先生は
すると、その時である。光成の体のふるえが止まったかと思うと、さっぱりしたような顔をして立ち上がり、何事もなかったかのようにソファーへ腰を下ろしたのだ。
「あ……、明智さん?」
校長先生は何が起きたのか理解できず、立ったまま動けなくなった。その時である。
「ふぁぁああ〜」
光成から見て右手側の
校長先生はハッとして、あからさまに
「す、すみません!」
この声は
「今日はここまでにしましょうか。
校長先生はコツコツと音を立てて歩き出し、光成の横を
「お体は
光成は短く「はい」とだけ答えた。
校長先生はしばらく光成の様子を確認すると、部屋の
「大丈夫そうね? これで
そして、校長先生はドアの前に立った。
「今日は暑いのにごめんなさいね? また機会があったらお話できるとうれしいわ」
校長先生はそういうと、いつものように
「おい、光成。さっきのあくび、あれ教頭先生だったなw」
「ああ」
光成が後ろを
「思うんだが、お前が
光成は放送室の前に立つと、ドアの窓ガラス
「ヘンだな。放送室には教頭先生どころか誰もいないぞ」
「いや~、あやしいねw。校長室と放送室の間にもう一個部屋なんてあったっけ? 秘密の小部屋でもあんのか? 気になるっちゃなるが、今日のところはさっさと帰ろうぜ。
「わかった。疲れてクタクタだが、すぐ行く」
光成は昇降口に向かって歩き出した。
その日、光成が自宅に帰ると、家の前に黒い車が一台停まっていた。その横を
リビングの方から大人たちの話し声が聞こえてくる。光成がランドセルを背負ったままそこへ向かうと、父と秘書の二人が、イスに座りもせず立ち話をしているところだった。
「ただいま」
光成がそういうと、父が
「おう、光成。私たちも今帰ってきたところだ。なんだ?
「ああ」
「そうか、元気そうでよかった。すぐにシャワーを浴びなさい。水分はとったのか?」
「ああ、学校で水を飲んできたよ」
「
「ああ。それで、
「いつもすまんな。今日も帰ってきて早々出なければならないのだが、お前にあやまりたいことがあって帰ってきたんだ」
「あやまる? なんだよ。別にいいよ」
「今日、国会があってな、そこで自分の子どもが光合成人間だったらどうなんだって聞かれたんだが、父さんはお前が光合成人間だとは答えなかったんだ」
「なんだ、そんなこと、当たり前じゃないか」
「いいや、そんなことはない。お前が光合成人間だということはお前の個性だ。なのに、父さんはそれをいえなかった。かくしてしまったんだ。申し訳ない。この通りだ」
光成の父はそういって深々と頭を下げた。
「やめろよ。そんなこと、かくして当たり前だろう」
「すまなかった。
「ゆるすも何も、かくして当たり前のことじゃないか」
光成はそういうと、この会話から
かくして当たり前のことじゃないか。
まだ小学生の息子がこういった。光成の父は親として胸が
「仮にですよ? ご自身の子どもが光合成人間だったとしたら、大臣はどう思うのですか?」
「国民が
「そもそもネバーウェアは犯罪者じゃないか!」
「
「実際問題としては差別があるからなのです!」
「静粛に!」
「光合成人間は、
ダン! ダン!
「静粛に!」
「
立ちつくす明智大臣に秘書が声をかけた。
「…………。わかった。それでは行こうか。
「かしこまりました。
「なんだ? 手短に頼むぞ」
「今日、スザンヌ様がお見えになりました」
「なに? なんだって?」
光成の父の顔色が変わった。(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます