第六話 ATP能力 その三
「ターゲットはあの少年をずっと見ていますね。まさか、来日の目的はあの少年だったのでしょうか」
「ふうむ、来日の目的とは思えんが、確かにヤツが少年に関心を持っていることは
「あのような光合成エネルギーの使い方もあるのですね」
「なかなか面白い少年だ。おぬしはどう思う?」
「はっ、光合成ブレードの使い手としてはエネルギー出力の乱れが気になります。野草からブレードを出せば、あのようになることもいたしかたありません。私としては野草を使うことをやめさせたいところではあります」
「うむ。もし、おぬしが教える機会があればそう教えてやってくれ。それで、まさかそれだけではあるまい」
「はっ、いくつものATP能力を使う光合成人間は初めて見ました」
「ワシもだ。それに、あの音を消す能力もこの場で真似しよった。真似をする能力。非常に興味深い。光合成ブレードやシールドのようなパワー型の能力と
「光合成ブレードの使い手としては耳の痛い話です」
「おぬしも心してかかれ。光合成ブレードばかりに
「承知いたしました」
「光合成仮面。初めて見たが、見どころのある少年じゃないか。なかなか面白い」
スポポスポッポ、スキャニイン!
「くぅっそ! ボイパなんかやってる場合じゃねえ! ガキだと思ってたが、とんでもねえヤツだ! こんなん相手じゃ勝てっこねえ!」
「いい加減こいつのボイパもウザくなってきたなw。はじめはくっそウマくてウケたけどなw。よし! 光成、ヤツにできることはもうねえ!
光成が完全に勝利したかに見えたその時だ。プラズマの
「はっ!」
「なんだ! 光合成プラズマか!」
「光成! やっぱネバーウェアが他にもいるぞ!」
光合成プラズマが次々と飛んでくる! 光成はボイパ男から
「助けてくれえ!
ボイパ男が
ズイズイスキャッチャ、スピスピバァーン!
ボイパにあわせダンサーがポーズを決めた!
「OH! YEAH! オメェのダンスはいつでも最高だぜえ!」
新たに登場したネバーウェア、この男を私たちは見たことがある。この男はつい先日、小学校に現れた、あのプラズマ男だった!
光合成プラズマが乱射される! 光成はそれを光合成ブレードで
「なに? なんだこの動きは? この足の向き、イナバウアーか!」
イナバウアーとは、フィギュアスケートのオリンピックメダリストである
「くそ! 深く切り
「いや、ムーンウォークだ! のけぞっただけじゃなくて、実際には後ろにも下がってんだ! くっそウメえ! ウケるw」
ムーンウォークとは、80年代を代表するキング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソンさんが得意とした、前へ歩く動きをしながら後ろへ
つまり、プラズマダンサーが何をしたのか説明すると、光成の
またプラズマの乱射がはじまった!
「光成! プラズマはこのままかわしきれそうか? あの調子で乱射してれば、いくらこの
「かわせることはかわせるが、光合成ブレードの
光成は再度接近して
「4回転半! クワッドアクセルか! こんなこともできるとは! なんて身体能力だ!」
光成は「見る」能力が高いとはいえ、こんな
光成はちらっとボイパ男の様子も確認した。ヤツは必死になって耳に入った土をとろうとしているところだった。プールで耳に水が入ったときのように、片耳を下にして片足ジャンプを
「マズい! ヤツの耳に入った土が取れちまう! 急がねば!」
光成がジャンプの着地点をねらって
「ぐぉ!」
光成はとっさにシールドを張って身を守ったものの、そのあまりの
「はあ、はあ、はあ……、なんて
「おい光成! お前、息が上がってんのか?」
「ああ、光合成ブレードを出しっぱなしだからな。いってみりゃ水を勢いよく出しっぱなしにしてるようなもんだ。そこにシールドも張って、あの爆発、すごい
光合成人間は光合成によるエネルギー生産によって身体能力を向上させたりATP能力を使ったりすることができる。しかし、エネルギーを使いすぎて光合成が間に合わなくなると、呼吸によってエネルギーを生産しなければならなくなる。つまり、光合成人間の息が上がるということは、エネルギーが切れて限界に達したことを意味するのだ。
「くっそ、あれだけプラズマを
セミが
「マジかよ! どんだけプラズマ
光成がブレードで
「なに? ヤバい!」
ぎりぎりで光合成シールドを張ったが、
ボイパ男が背後からめまい
「なんだ? どういうことだ? セミは
ギュイィィ〜ンベラリラビュイィ〜ン!
それはまるでエレキギターの激しいソロのようだった!
「OH! YEAH!」
ヤツは身をもだえるようなキモい動きをして
「さっきはよくもやってくれたなあ! 耳ん中の土は完全にとれたぜえ! ざまあねえな! ああ? 音が聞こえてんのかって? んん? 耳がよぉ〜く聞こえてんのかって? 聞こえてるぜ! めっちゃ聞こえてる! 耳がよく聞こえるってことはよう! こんなに気持ちのいいことなんだなあ! 最高に気持ちのいいことだぜ! OH! YEAH!」
「ヤツの能力が復活したのか? どういうことだ? 音は消えてないぞ? セミはずっと
「オーマイガッ! 君は忘れちまったのか! さっき俺はいったよなあ? あはん? セミの鳴き声なんか消さずに、
光成が激しいめまいにおそわれたところにプラズマの連射がくる! 光合成シールドで防ごうにも、シールドは体を
かつてテイクオフした光成がこれほどまでピンチになったことがあっただろうか。もはやプラズマのエネルギー切れを待つしかない。しかし、ヤツのエネルギーはつきなかった。
「こいつはやべえ! 光成を助けに行きてえところだが、
私は急いで服を
「マズい! ひよっちまって服がうまく
パインパイン、スポポキャイ~ン!
「あぁっははははは! なんだそのザマは!
私がもたつきながら、ちょうどズボンを
赤いボンベを背負い、緑色の光合成スーツに身を包んだその
「おお!
サクラ隊員は光成に声をかけた。
「危ないところだったぞ! 君が光合成仮面か! こんなところで何をやっているんだ! 君はまだ子どもじゃないか! 危ない真似はやめなさい!」
私はこのセリフを聞いて嫌な予感がした。
「ああ? なにい?」
光成の様子が
「今なんつった? くっそぉ、子ども扱いしやがって!
「
「状況はわかってるよ! 確かに状況は悪い! だがな! 俺が今やられてんのは子どもだからじゃねえ! あいつらが予想以上だったからだ! お前だって一人じゃ勝てっこねえぞ! それに俺はまだ負けちゃいねえ! 子ども
光成はヒメジョオンの花束を
「光合成仮面くん! そんな草でどうするつもりだ? そんなもので光合成ブレードは安定しないぞ! エネルギーを
「うるせえ! 知ってるよそんなこと!」
「なんだ? 何を
サクラ隊員はそういって、ブレードの持ち手部分をかかげた。
光合成ブレードとは、切り取った植物に光合成エネルギーを注入して、ホースから勢いよく水を出するように、植物から光合成エネルギーを出力する技である。原理的にはその辺の野草からもブレードを出すことは可能ではあるが、植物の
「HEY GIRL! イカしたブレードじゃないか! そのブレードで
ギャルギャルギュビビイィ〜ン!
「OK! 許可するぜ! グルングルンに目を回してやる! 気をつけな! ロックンロールすることをな!」
プラズマダンサーはねらいをサクラ隊員に切り
「おお! すげえ剣さばき! さすが
「ああ? そんなことねえだろ!
「光成!
「わかった!」
「それともう一つ、あと残り三人がこの並木道にいるって話だったが、ウ○コwが二人だとすると、あのプラズマダンサー
「確かに、そうなるな!」
「つまり、
「このまま逃げんのか? 俺はまだ負けちゃいねえ!」
「落ち着け! ウ○コwが出てきたんだ! 俺たちも取り調べ受けるかもしれねえんだぞ! そうなる前に、どさくさにまぎれてずらかっちまった方が面倒がねえ!」
「でも、あの隊員一人じゃ無理だろ!」
「
「いや、それが気になるんだ! なんでもう一人は出てこないんだ?」
「確かにな! アイツら相手を観察するために一人はかくれてる。能力があんのか、どんな能力なのか、それを見極めるためにな」
「もう能力はわかってるだろう!」
「それな。これ以上観察する必要はねえ。後は人数が多いほど有利なはずだ。なのになんで出てこねえんだ?」
「なんかあるんじゃねえのか? あと、もう一個気になってるんだが、そもそもなんでこんなとこに
「ゆうて、
「かもな。だが、今までそんなことあったか?」
「いいや、
「何か他に任務があってここにいたのかもな? もう一人が出てこないのは、別の任務があるからじゃないのか?」
「確かにな! 俺たちが知らねえことが、まだあんのかもしらねえ!」
ズンッチャッ、スカッチャチャ、ウィゥウィゥ、ウィウィン!
「OH BABY! 君もやるねえ! その
ボイパ男がシャウトするとダンサーは走り出した! そのフォームは、さながらスピードスケート選手のような
「なに? 当たらない! どういうことだ?」
ヤツはスピードスケート選手のように
「なんだ、この動きは? くそっ!」
サクラ隊員はヤツを追って今度は深く
この行動は最悪の失敗だった。プラズマダンサーは深追いしてくるところをねらいすまして、全身からプラズマを
「マズい!」
サクラ隊員は
「なんてヤツだ……。ゴウはこんな男とたたかっていたのか……」
「はあ、はあ、はあ……。
プラズマを
「
光成はふらつく体を起こして立ち上がった!
「おお……、ヤベえ、
私は再度、あたふたもたもたと服を
パラッパッパ、パヤャャア〜ン!
「OH! 神よ! 許したまえ! 強すぎる
その男は
この男の
「おお! す、すげえ! サザレさんじゃねえか!」
予想だにしなかったこの男の登場で、私はすっかり興奮してしまった。私はこの男の大ファンだったのだ。
「こりゃあ一体どういうことだ? サザレさんはそんじょそこらの事件じゃ出てこねえぜ? サザレさんが出てくるってことは大変な事だぞ! そんな大事件だったか? このめまい
この男の正体は、ネット上では「サザレさん」と呼ばれている
しかし、サザレさんは光合成スーツを着用しない。これは彼独自の
健全な光合成は、健全な肉体に宿る。
この信念はサザレさんにとって決して
服を着ていても強いのになぜふんどしになるのか。それがまさにサザレさんの
「ターゲットの
「気にするな! 児童が危険な目にあっているのだ! やむを得ん!」
「しかし、私の力不足でサザレさんまで任務から外れることになってしまいました!」
「サクラ! お前の力不足ではない! コイツらは強いぞ! 音を消す能力はやっかいではあるが、ワシの見立てでは、本当に危険なのはプラズマ男の方だ! コイツは強い! ラスボス級に強いぞ! お前は手出しするな! 一見すると光合成プラズマが能力のように見えるが、本質的な能力は異なる気がしてならん! おそらくプラズマは本来の能力から副作用的に発生した能力だ! これだけプラズマを出してエネルギーが切れないのが、そもそもおかしい! 特に全身からプラズマを放出する
ドゥットゥク、スポポポーンダーン!
「リアリー? お前を見たことがあるぞ! 確かお前は最強最悪の
ジャジャジャジャーン! ギュィィイイ〜ン!
ダンサーがサザレさんめがけてプラズマを乱射する! ボイパ男がそれと息を合わせて音を消す!
これからの出来事はあまりに
プラズマは合計五発
「ぐぁぁぁああ! 痛え! めちゃくちゃ痛え!」
ボイパ男はあまりの
「ヤベえ! なんだこれ? どうなっちまったんだ? ヤベえ! ヤベえよ!」
ボイパ男はそう
「なにを大げさな! ワシが本気で
サクラ隊員はボイパ男に素早く
これでボイパ男は完全に無力化された! これを見たプラズマダンサーは、ボイパ男を見捨てて
「逃がすか!」
これからのことも
ダンサーはプラズマを二発放った。サザレさんはそれらを正確に紙一重でかわすと、
「ふぅむ。この
プラズマダンサーはブリッジの姿勢から、バネが
「しまった!」
そのジャンプは
「なんてヤツだ! このワシとしたことが
「確認してまいります!」
サクラ隊員は身をかくすようにかがんで走り出した。
「あ、
気を失っていた
「明智くん……? 明智くんなの?」
顔はぼやけてはっきりしない。仮面をかぶっているようにも見えた。
「ダメじゃない……。こんなに心配かけちゃ……。あなたのこと……、先生がどんなに心配しているか……」
この声は
「おい、光成。めまいの方はどうだ? 回復したか?」
「ああ、もう
「そうか。それなら、そろそろ
「俺も同じことを考えてたとこだ」
「よし。それじゃあ、
光成が立ち上がろうとしたその時、急にサザレさんが光成の方を向いた。
「光合成仮面くん! 君も行くのか!」
光成は
「最後にいっておきたいことがある! この世には本当に
光成はサザレさんの言葉に何かいい返したくなったが、結局何もいわずそのまま走り出した。サザレさんは追ってこなかった。
サクラ隊員が
「申し訳ありません! ターゲットを見失いました!」
「そうか。ふうむ。そうすると、今回は何かをしにここに来た訳ではなかったのか」
「あの少年は行ったのですね。ターゲットの目的は光合成仮面だったのでしょうか。このまま行かせていいのですか?」
「かまわん。まだ子どもだ。つかまえても
私と光成は並木道から
「おい、光成! お前すげえな! サザレさんが才能あるってよ! 直々にきたえてくれるってよ! マジかよ! すごくね?」
「じゃあ、お前が将来
「いや〜、
私はそういってスマートフォンを見せた。
「ホントだな。もう一人いたってことか? でも、光合成おじさんがいってた人数と合ってたじゃないか」
「それな。それで思ったんだが、
「そうか、おじさんは自分のことを数に入れてなかったのか」
「いや〜、そんな気がするんだよね〜。よく考えてみ? あのおじさんだぜ? なんていってたか思い出してみろよ」
「そうだな……、あの時、なんていってたかな……」
光成はおじさんとの会話を
「タヌキやイタチなんかは今はちょうどいませんが、
おじさんはあたりの気配を探るような仕草をした。
「あなた
「『あなた含めて八人もいますな』っていってるな。確かに、そういわれてみると、あたりの気配を探りながらだったから、気配の数をいってるような気がする」
「
「誰だろうな。なんであんなところにいたんだ?」
「サザレさんがいたことも気になるんだよね〜。ぶっちゃけサザレさんはこんな小せえ事件で出てこないぜ? どうよ? 関係ありそうじゃねえ?」
「確かに……。そのスマホを持ってたヤツを見張ってたってことか」
「そうだよ。そいつはサザレさんが出なきゃならねえほどヤベえヤツだったんじゃねえのか?」
「そうかもな……」
光成は最後にサザレさんからいわれたことを思い出した。
「最後にいっておきたいことがある! この世には本当に
今回は二人のネバーウェア相手に確かに危なかった。特にプラズマダンサーの底知れぬ強さには
私と光成が話していたちょうどその時、あの桜並木からずいぶん
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