第三話 ネバーウェア その二
カフェにて
雨上がりの空に、
なぜ虹はあのように七つの色に見えるのだろうか。それは、おおむね次のような仕組みとされている。
一、雨上がりの空気には水分が大量にふくまれている。
二、太陽の光が空気中の水分によって
三、屈折した光は、太陽の正反対の方向で、スペクトルと呼ばれる七色の光に分解する。
四、光が七色のスペクトルに分解するのは、スペクトルの色によって
スペクトルは
そして、この七色のスペクトルには物体の色と深い関わりがある。すべてのスペクトルを反射すれば無色の光に見えるのだが、物体によってスペクトルの反射率が異なった場合は、それぞれのスペクトルの反射量によって様々な色合いに見えるようになるのだ。例えば、赤いスペクトルを反射すれば赤い色に、青いスペクトルを反射すれば青い色に見えるというように。
光合成には、赤と青のスペクトルが必要であることが様々な実験によって知られている。これは植物が緑色であることと無関係ではない。植物は緑色のスペクトルを反射するため緑色に見えるのだが、逆にいうと、光合成に必要な赤と青のスペクトルを反射していないのであり、それらを吸収して光合成を行うことができているのだ。
物の色一つとっても、このように自然界にはおどろくべき原理がかくされていることがある。雨上がりの空にかかる
ほら、見てごらん。この雨上がりの夕焼けを。
世界はなんと美しく、光と色に満ちあふれていることか。
「いいか! ターゲットは増水した川で泳いでいた光合成人間! ATP能力持ちかどうかは不明!」
「リョウカイっすよ、
「おい、
「アデノシン三リン酸、Adenosine triphosphate、略してATPっすよね? それがなんなんすか。そんなこといってるから光合成犯罪の検挙率は低いんですよ。この前の小学校の事件もそうだったじゃないですか。
「確かにお前は教練過程をトップで
新入隊員の
「今日は風が強い。十分に引きつけてから使えよ」
「リョウカイっすよ、絶対に
「おい! あわてるな! 落ち着け!」
「しめた! 光合成仮面のヤツめ、
「こいつは危ないかもしれんな。あの光合成人間が能力持ちだったら、
光合成スイマーはテイクオフした
きれいに
「ぜぇ〜、はぁ〜、ぜぇ〜、はぁ〜っ、ちくしょう……、さっきのガキ……、ぜぇ〜、よくも、はぁ〜、よくもやりやがったなぁ〜〜〜! なんだテメェは? ああ? さっきからどいつもこいつもヘンな格好しやがって、さっきのガキは草みてぇなお面つけてたが、オメェのその格好は何だよ? ピーターパンってかあ?」
ピーターパン?
「ピーターパンだあ?
「スペクトルだぁ? なんだそれは? 横文字使ってカッコつけてんじゃねぇぞ!」
「スペクトルも知らねえのかよ!
「ああ? ウアックゥだぁ? そうか! オメェ、!
「テメェ、いっちまったな……、その呼び方をよ! いっちまったなあ!
「ネバーウェアだあ? てめぇこそいいやがったな! ぜってえ許さねえぞ! あぁ?」
「
「バカにすんじゃねーぞ! この
光合成スイマーがおそいかかった!
「はっ、早い!」
光合成スイマーは、
「おらおら! どうしたこのヤロウ! おらおらおらあ!」
「はぅ! ぐふぅ! ダメだ……、ヤバい……、訓練ではこんなことないのに、
実際には、
「ぐあぁぁぁ!」
ついに、
「痛え! マジ痛え! 痛えけど、そうだ、
「あれ?」
レバーを引くが何も起きない。
「マジ? 故障? こんな時に??」
青柱はあせって何度もレバーを引く。
「
「はっ、
訓練では
「くっそぉ、外れねえ! いつもだったらこんなことねぇのに!」
「なんだぁ? オメェ、やる気あんのかぁ? なにコチョコチョやってんだよ、オラァ!」
「おい! マズいぞ! ヤツに集中しろ!」
「はっ!」
光合成スイマーがなぐりかかってきた!
「ごふぅっ……、くっそう、痛え! めちゃくちゃ痛え! なんてパワーだ! これがネバーウェアの力か!」
「うぁっははははは! 大草原! 弱い! 弱すぎる! それとも
光合成スイマーは高らかに笑い、次々とボディービルポーズを決めた! パンツもはいていない
「おい! 早く起き上がれ! 次の
「訓練とぜんぜんちがう! マジかよ! ヤバい! やられる!」
「
「はっ! 本当だ! しめたぞ! ちくしょう! テメェ! くらいやがれ!」
「なな、なんだ?」
消火器のノズルから出てきたものは、
「うわぁぁぁ! なんだこりゃあ! 毒か? ヤベえ! ヤベえよう! なんだ? なんなんだこりゃあ?」
スイマーは手でふき取ろうとしたが、ネバネバベトベトしてまったくふき取ることができない。
「くそ! 外れちまったか! こんな時に風が! ちくしょう! もう一度くらいやがれ!」
「なな、なんだぁ? 力が出ねぇぞ? テメェ! 何しやがった!」
「ああ? さっきお前に説明してやったよなあ? 光合成には赤と青のスペクトルが必要だってよ? お前さっき理解できなかったよなあ? お前にべっとりとついたその
「なぁにぃ? くそぉ! よくわかんねぇが、このスライムのせいで力が出ねえのか! やりやがったな! このやろう!」
「くそ! 密着してくんなよ!
「おい!
「わかってますよ! くそ! スライムが
「うぁっははははは! 放すかよバカが! なかなかいいもんだろう?
「ATP能力を持っているヤツってのは、たいてい何かをねらっているようなところがある。だが、何をねらっているかは能力によって
「よし!
これを聞いた青柱は思った。
「これが能力持ちじゃないって? マジかよ? 確かに研修で聞いたATP能力は
「なにぃ? もうひとり来んのかぁ? テメェらキタねえぞ!」
光合成スイマーは考えた。
「スライムのせいで力が出ねえ上に、二人相手じゃ勝てっこねえ。
光合成スイマーは全身に血管が
「イテテテ、イテぇ! お前何すんだ!」
「うらぁぁぁ!」
光合成スイマーは
川が光合成スイマーにとって最高に有利な場所であることは、
「うわぁぁぁ! 助けてくれぇ!
「なんだってぇ? うははははは! オメェ泳げねえのかよ? ざまぁねぇぜ! 思い知りな! 自分の無力っぷりをなぁ!」
有利不利というレベルの話をこえ、
「な、なんだぁ? なんだこれは?」
「
太門は地上から追いかけた。人がおぼれているからといって川に入るべきではない。川は人が泳いで救助できるほど
「ヤツを見捨てるわけにはいかない!」
太門は青柱を助けることを決心した。
「だが、何か変だ。
「なんだこれは? 水が重い? いや、
「うわぁぁぁ! 早く!
「落ち着け! 絶対助ける! だから落ち着け!」
「
ゆっくりと近づいてきた太門に、青柱はわらにもすがる思いでしがみついた。
「落ち着け! 二人ともおぼれてしまうぞ! 落ち着け!」
この
「ぷはぁ! はぁはぁ……、なんだぁ? なんだったんだ? ここまではなれると楽になるぞ? これなら
「なんかヤバそうだな。このまま
光合成スイマーは飛び魚のようにはね上がったかと思うと、
「どういうわけだ? 光合成スイマーのヤツ、
「あぶっ、あぶぶ!
「
「落ち着け! 体を楽にしろ! あお向けだ! こうだ! 俺の真似をしろ!」
自分と
「ぷはっ! なんだこれは? 全然飛べなかったぞ! 水しぶきが上がらないのはこういうわけだったのか! とはいえ土手にはなんとか手が届きそうだ!」
太門は、まず自分が土手に上がって、
「おい!
「ぷはぁ! マジっすか! 助かったぁ!」
「はぁ~~、はぁはぁ……」
「
「おい、もう
「ヤツは? あのネバーウェアはどうしたんすか?」
「ヤツは
「ちくしょう!」
「おい、ヤツらを取り
「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょぉぉお!」
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