■14『ロシア兵』

 ロシア国の某所、雪降り積もる大地に一軒の建物。その中で5人は集まり、話をしていた。


「ヘリコプターは作れないんですか?」

「半径5mをオーバーする。パーツごとに分けて作っても組み立てる専門知識が無いナ」


「数年前に武装していた日本のアニメロボットは空飛べるでショ?」

「最近は著作権が厳しいから駄目ダ。権利の主張しか出来ない屑共はいずれ処理スル」


 車の類で移動するには雪が深い。除雪車や専用のトランスポートも考えたが、かなりの時間がかかるため最後の手段として置いておく。


 当面は建物内で生活できるよう、まずは食料の確保を優先することにした。


「さっき探索していた場所に鹿がいました。この場所が東の沿岸部に近ければ虎もいるかと」

「じゃあ師匠とワタシで獲ってくるネ。ライフルを二丁借りるアル」

「嫌ダ! 自分、寒いの嫌い! 家でぬくぬくと生きていたいヨ!」


「お前が代わりに狩られるカ?」

「イエスボス! 行ってまいりマス!」


 蘭玲と文は鹿狩りのため道具一式を持ってべネップに教えられたポイントまで出て行った。


 残った三人は薪の補充、雪をバケツに入れて家の中へ運ぶ作業を行う。

 焚きストーブの近くにバケツを置くことによって雪を溶かし、飲み水を作る算段だ。


 サバイバルにおいて水の確保は重要だが、重い雪を文字通りバケツリレーしていくのは中々の労力。


「水って生物じゃないのに凛風さんの能力で作れないんですね」


 寒さの中、フーっと軽く汗を掻きながら疑問に思うべネップ。


「いいや、作れるゾ」

「はぁ? じゃあ今までの作業は何なのよ!」


「普通に嫌がらせだが?」

「「………………」」

 

 二人が狩りに出てから2時間ほど経った頃、三人は険悪なムードを落ち着かせるためテレビゲームを始めることにした。


 ポーダブル電源に繋げた32インチのモニターと某有名ゲーム機。

 赤と緑の帽子を被った期間工が姫を助けるために様々なギミックが用意されたステージをクリアし、ボスを倒すアクションゲー。


 べネップは赤、シャーレは緑のキャラクター。凛風は毒キノコの化け物を使って協力しながらゲーム進めていく。


「その土管怪しくないですか?」

「なんダ? この麻薬みたいな花は」

「それ私の! 炎打ってみたい!」


 そして場面はステージ終盤、クリアするためワニガメのボスに挑む三人。


 カチャカチャとコントローラーの音とゲーム音が家の中を鳴り響く。


 ボスキャラを何度も攻撃していく内、あと幾ばくかで倒れそうな演出。熱中して画面に夢中になっていたが、突然シャーレだけが手を止める。


「二人共……家の周りに


 幼少期から命を狙われる立場にあったシャーレは、敵意に対し異様に鋭い。そんなシャーレの声を聞いた二人もすぐさま武器に手を伸ばし警戒を強める。


 風の影響で足音などは聞こえないが、複数名の者が徐々に扉の前に集まっている。

 ロッジから十数m離れた場所に3人、数m離れた場所に4人、玄関前に三人。とシャーレは気配位置を報告する。


 実際シャーレの危機察知によってイギリスから逃げることが出来たことから、凛風のように殺気を完璧に消せる者以外に対し、このレーダーに間違いはない。


 つまり三人は今、間違いなく「敵」に囲まれている。


「この状況、どうするの?」

「シャーレはモニターの後ろに隠れてください。僕と凛風さんで対応します」

「少年、危機に陥った時にすべきことは『対応』ではナイ。『先制』ダ」


「えッ、いったい何を言って────」


 べネップが驚きながら凛風に顔を向けた瞬間、それは現れた。

 大の大人と遜色ない筒と固定台。筒の向きは上へとの角度をつけ、凛風はその発射レバーに手をかけている。


「マズイ! 耳を塞いで口開けろ!」

 べネップはシャーレに叫び地に伏せる。


 その瞬間、能力解除によって天井は消え打ち出された砲弾は空高く鋭利な放物線を描いて飛んでいく。

 その砲弾は地面に当たることなく空中で強力な爆発と共に3センチ前後の鉄の矢を周囲に放つ。

 無数に放たれたその矢は高速で地表に向かって360度飛び散って射抜く。

 防弾使用の素材で作り直した天井のみがその凶弾・凶矢を防ぎ三人の身を守る。


 そして外にいた者はその砲撃によって、全身から向こう側が見える穴がプレゼントされた。


「……終わった?」

「少年、ゆっくりと扉を開けなさイ」


「なんで僕が……」

 べネップは外の様子を、ゆっくりと扉を開き確認する。そしてそこには───。


「なっ、これは………」


 蠢く人型の兵士。砲撃によって貫通した穴という穴から血を、ダラダラと流していたと分かる。

 しかし服に染み、雪に落ち、そしてその滴る血液はまるで録画映像の逆再生のようにみるみる元の肉体へと戻っていく。

 べネップがほんの一瞬ほおけている内、パックリと丸形に開いていた傷もスーっと再生を完了させる。


 赤色に光る眼光、白銀の世界で白い迷彩服と機関銃を装着したその集団は、開く扉へ向かって瞬時に態勢を整え隊列を構える。


「敵確認。総員、状況開始」

「「「了解ダー」」」


 胸元にはこの国の兵士と分かる印。その姿は不滅の怪物。その眷属達によって構成された能力者の集団。人はその生物の名を──『吸血鬼』と呼ぶ。

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