■12『遭難』

 反社に飛行機を爆破され、上空9000mから落とされてしまうこと……ありますよね?


「こっから入れる保険はありますかぁああああああああああああッッ!!!?」

 

「なぁあああああああああいッ!!!」


 べネップとシャーレは気絶した文を掴み、重力によって加速しながら落下していく。

 三人で三角形のフォーメーションを組み、空気抵抗を出来るだけ強めながら考える。

 

「仕方ないッ! をやるわよ!」

「ッ!! ですか!?」


 空中でコクリと頷き合図を送るシャーレ。べネップは良心の呵責かしゃくを早々に済ませ事を始める。


 サーファーの要領、サーフボードに見立て二人は文を掴みながら上に座る。そしてべネップは文の髪の毛を幾つかむしり、空中に放っていく。


 空中に漂う髪の毛を基点にし、上方向に何度も文の体を『戻す』ことで落下スピードを落としていく。そして地表に衝突するおよそ2秒前、二人は「せーのッ」と文を蹴って上へと飛んだ。


 文は地面へめり込み、勢いを殺す事に成功した二人はほぼ無傷で着地。能力と生贄による所も大きいが、それ以上に着地地点が良かった。


 それは白く冷たく、そしてフワフワとした水の結晶。北に位置する国特有の寒冷によってもたらされた天候と自然によって作り出された大地。


 三人が不時着した場所はだった。


「ダメです。どれだけ進んでも雪しかありません」

「寒さはともかく、食料が無いのはヤバいわね」

「とりあえず散策しまショ」


 空は雲に覆われ雪がゆっくりと落ちていく。地面に積もったそれの深さは足場を乱し疲れを増やす。三人は雪原を脱出するために歩み続けていた。


「最悪、切り札を使うか『ビバーク』しないといけませんね」

「ビバーク???」


 雪山や雪原において遭難した際、地表に対して縦または横に雪洞せつどうを掘って不時泊することをビバークという。


「いつも気になってたけど、べネップのその知識は何?」

「全部アベナ婆に教えて貰ったものですよ」


 それぞれの髪の毛を持った三人は別方向に向かって進み、食べ物になる動物や脱出する方法を探す。


 ある一定の時間が経てばべネップが『戻し』、その地点から再度別方向に向かって進む。コレを何度も行う。そして3度目の散策時、シャーレはあるものを発見した。


「あ、アレは……っ!」


 白い世界にポツンと見えるのは一軒の家。

 遠目から見て、その大きさは小さいが真新しい木材もくざいで作られたログハウス。


 急いで近づいてみると二重窓から人影がチラッと見えた。気配は2つ……間違いない、ココには誰か住んでる。


 先にべネップ達と合流するべきか?

 いや、何かしらの問題が発生した時のために単独で確認した方がいい。


 シャーレはロッジの扉をコン、コンとノックし、家に向かって話しかける。


「すいませーん、誰かいますかー?」

 

 ノックと呼びかけを聞いて中の家主は、扉に近づきガチャリと開ける。


「……………」


「……………」

 家主と目が合ったシャーレは一秒にも満たない速さで思考を巡らせ行動する。


「イズヴェニーチェ! 家間違えたようです!」


 と言ってニコッと笑い、回れ右で踵を返す。

 焦らず、しかし出来るだけ早くこの場から離れようと足を前に踏み出す────が。


「ニーハオ、嬢ちゃん。運命の再開を祝して家に入りなサイ」

 家主は離れようとした首根っこをガッと掴んで家の中に引きずり込む。


 家の中は温かく、焚きストーブから発せられる熱によってその温度は保たれる。簡素なテーブルと椅子、ソファに補充用の薪。家の隅っこにはライフルやハンドガンなどの武器が備えられていた。


「なるほど……それで落下から身を守ったのカ」

「師匠は頭おかしいぐらい頑丈アル」

「アンタ達はどうしたの?」


「『能力』でパラシュートを作っタ」

 爆発の瞬間、即座に耐爆スーツを蘭玲と共に身に纏い、パラシュートを使って着地した。


 着地地点は三人が落ちた場所から数km離れた場所であったが、しくもシャーレはソコに遭遇してしまった。


「で、この雪原から脱出する方法は?」


 今回の件は凛風と蘭玲の作戦によって起きた事態、つまり二人にとっては予定調和のはず。


 落下地点の状況もある程度予測出来ていた二人に対し「ここから脱出する手段をもちろん用意しているんでしょ?」とシャーレは問う。


「「……………」」

 しかし、その問いに対して二人は真顔のまま遠くを見つめている。その様子を見たシャーレは、驚いた表情をしながら察した。


「えッ? もしかして……」

「「……………」」


「中国人ってバカなの?」

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