■11『ザ・シークレットサービス』

 着弾と共に爆音が一瞬にして鳴り響き、火炎と黒い煙が周辺にブワッと巻き起こる。生物が生存する余地は無い。所詮しょせん人間である文も例外ではなく、直撃すれば"死"は確実だが────。


「あっぶネ!! 逃走継続!!」

 文はピンピン生きていた。


 弾頭が着弾する瞬間、地面に蹴り技を放ち、その威力によって爆撃に対し距離を取った文。ガハハ!と笑い、脱兎のごとく逃げる文。


 その姿を確認した凛風も間髪入れず『バイク』を手前に発現させ蘭玲に指示を出す。


「さっさと後ろに乗れ。追うゾ」

「……了解」


 そしてブーーンッとエンジンを吹かしながら、チラッと車上の二人へ一瞥いちべつ

 そしてそのまま視線を正面に戻し、凛風は片手を少しだけ挙げ、バイクを文に向かって走らせた。


 バイク音が遠くへと駆けていき、その音が聞こえなくなった頃、べネップとシャーレは傷を治し、お互いに顔を向ける。


「これって…………」

「うん、これは──」


「「『作戦成功』」」

 遡ること数時間前──────。


 三人は組織から刺客が送られることを危惧し、食事の前にそれぞれの"髪の毛"を持つことにした。


 誰か一人でも刺客から逃げることに成功し、距離を取ることが出来たなら、その人物を基点ポイントに『戻す』ことが出来る。そういった計画を立てていた。


「一番狙われるのは自分だろうから、なんとか引き付けるので空港にでも逃げてくだサイ」

「仮にべネップが捕まっても、私か文が遠くに逃げられば脱出は出来ると思う」

「といっても、"生きてれば"ですがね」


 そして無事、三人は凛風リンファと蘭玲から逃げ切ることに成功。


 切られた足首も血だらけで飛んできた文の傷も、能力によって完治。国外へ逃亡しても追手は来るだろうが、しばらく見つかることはない。


 と三人は空港でワチャワチャしていた。


「次は私の生まれ故郷! ロシア!」

「寒いところですね」

「防寒着買ってから飛行機乗りまショ」

「アンタら、命が助かった直後のテンションとは思えないわね」


 空港に内接されているアパレル店にてしばらく物色し防寒着とその他一式を揃えたのち、次の便が来るまでのあいだ、食事を済ませた三人。


 飛行機のエコノミークラス、座席がズラッと縦一列に並んだ内装。

 繁忙期であり急遽きゅうきょ便を取ったため中央三座席の二つと、通路を挟んで横にある二座席の一つしか取れなかった。つまり、必ず一人は隣の席に知らない人が座る事となる。


「自分は外の景色見たいから二座席に座るネ」

「私はどっちでもいいわよ」

「じゃあ僕達は三座席の方に座りますか」

 

 文は先頭を歩いて指定の席を探す。


「えーと確かここらへッ────」


「ブッ、ちょっと文! 急に立ち止まらないで!」

 急に立ち止まった文の背中にぶつかるシャーレ。

 

「アー〜〜…………」

 文句を言われるも、その場から動かず立ちすくむ文。その様子を見て二人は不審に思い、その背中から顔を覗かせる。


「……どうかしたの?」

「何かありましたか?」


「「ッ!?」」

 後ろにいた二人もそれを見てギョッと驚き、そしてすぐ、飛行機から降りるため引き返そうとするが、後ろには搭乗客が並んでいて出られない。


「まあまあ、いいから座りナ。少年少女」

「そうアル師匠、ワタシの隣が空いてマス」


「「「……………」」」

 文の隣には蘭玲、べネップとシャーレを隣に侍らせ、三座席のど真ん中には凛風が二人の肩を組んで座っている。


「なんで二人は……並んで席を取ってないの?」

「飛行機に乗る時は不測の事態を考慮し、通路側に座るのが常識ダ」

「師匠に常識は無いアル」


 飛行機が離陸を始めてしばらく間、凛風からの質問攻めが淡々と続く。


「傷を治したのはどっちの能力カナ?」

「……僕です」


「お嬢ちゃんも『能力者』?」

「……そうよ、戦闘力もないしべネップみたいに便利なモノじゃないけどね」


 二人が素直に答えているのは軽い拷問があっての事。文は拷問ではないが、グチグチと弟子に文句を言われている。


「ワタシに『死ネヨ』って言ったアル?」

「言ってナイ」

「殺し合いの中とはいえワタシ傷ついたヨ……謝っテ!」

「言ってナイもん!」


 二座席の方はフワフワとした会話が続く中、三座席の方では重苦しい空気が流れる。


「我々は裏切り者、そしてその仲間を逃した事はナイ」

「なるほど誤解です」

「私達は文の仲間じゃないわ」


 「えぇッ!?」と二座席の方から声が聞こえたが、気のせいだろう。


「事実はどうでもいい。今回の件、我々のボスから指令を預かった。心して聞ケ────」

「「…………」」


 しばらく沈黙。二人は静寂の中で妙な緊張と心臓のバクバクと鳴り響く音で息が詰まる。スーッと息を少しだけ吸って、凛風は言葉を紡いだ。


「『ひき肉にして持って来い』」


 その声が放たれた瞬間、シャーレとべネップは肩に回されていた腕をバッと引き剥がし、そして文も通路側に飛び出し逃走を試みる。が────。


「二度言わすナ」


 凛風の有する能力は自身の半径5m、無生物であるならば""作り出す。


 その数や内容に制限は無い。


 ピッ…ピッ…ピッ……と機械仕掛けの警告音が機内に鳴り響く。壁・天井・床、何も無かったはずの場所にはビッシリと、30センチ四方の箱が姿を現す。


「『ザ・シークレットサービス』」


 その箱は鋼鉄を破壊し、軍事やテロ犯罪など様々な用途で使用されている。

 粘度状のソレは見た目が合成樹脂、つまりプラスチックに似ていることからプラスチック爆弾。


 またの名を──【C4爆弾】と呼ぶ。

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