■10『RPG』

 人間離れした二人の戦闘は車道のど真ん中、火花を散らし繰り広げられる。


「ハァッッ!!」

「これはアカーーーン!!」

 蘭玲の毒手と強化された肉体に対し、受けは不可能だ。と文は判断してヒット&アウェイに徹する。


 時間経過と共に『毒』の薬効は増していき、その動きは目視不能の領域へ。そして多くの戦闘経験から体術も昔に比べ向上しており、しかも傷を負っても数秒で完治する。


 そんな弟子を相手に文は素の力のみで対応。膠着状態が続いているが、どちらかの失敗ミス=死となる戦い。互いの実力は拮抗していた。

 

 そして、その様子を車中しゃちゅうから見ていた二人はある案を思いついた。


「今の内にコッソリ逃げない?」

「『潔白』の能力者とは思えない発言ですね」


「いやいや、実際私達悪くないじゃん」


「……それもそうですね。逃げましょう」

 とゆっくり扉を開け音を立てぬよう気配を消す。体を低くして抜き足差し足と二人は殺し屋達から距離を取ろうとする。が────。


「おいおい、お前達は文の仲間じゃないのカ?」

 カチャっという安全装置セーフティ解除はずされる音と共に銃口がべネップ・シャーレのひたいに向けられる。


「あの……お姉さん誰です?」

「私達、あの人と無関係。オーケー?」


「私は馬鹿ウェンの元上司、組織の若頭ナンバー2、名は凛風リンファ。君達は人質、最悪皆殺シ。オーケー?」


 と濁った瞳で答えるその女性に、二人は冷や汗をかきながら何とか冷静をよそおう。


「と、とりあえず人質の方でお願いしますぅ」

「び、びびッ、美人なお姉さんに捕まって嬉しいなぁ〜〜」

「……そう言ってもらえて良かっタ。とりあえず、バンパーの上で試合観戦と洒落込もウ」


 凛風は二人を車体の上に乗せ「私は静寂せいじゃくが好キ、五月蝿うるさいガキは嫌いダヨ」と小さく耳打ちする。


そして手品師のようにナイフを手元からバッと取り出し、そのままスッと二人のアキレス健を切った。


 「───ツ!」と切られた部分が熱く、そして鋭い痛みが全身へ走る。しかし脅しを聞いていた二人は、その激痛に声を上げず歯を食いしばった。


「よしよし、二人は良い子ダネ〜〜」

 と凛風は足首を抑えて悶える二人の頭を、満面の笑みでワシャワシャと撫でる。その異常とも言える状況は、戦闘中の文も気がついていた。

 

(なぜか凛風カシラもいるんですケドッ!? 構成員二人でも無理ゲーなのに、若頭リンファ弟子ランレイを相手にしなきゃいけないってコトッ!?)


 高速の蹴りと鉄をも破壊する拳を避けながら、精神がグチャグチャになりかける文。


 持ち前のメンタルで落ち着きを取り戻し、再度思考を巡らせる。そして、チラっと車の方を二度見する。が結果は変わらず──いる。


「オワタ\(^o^)/。こりゃ駄目ダァ〜〜」

 と口走り、コンクリートの壁をえぐり溶かすほどの毒崩拳どくほうけんを回し受ける文。


「貴様どこを見ている! こっちをミロ!!」

 極限まで集中している蘭玲の視界には、上司の存在など入らない。従って攻撃の手も緩まない。


 そんな状況を理解した文は、攻撃に対しバックステップで距離を取りながらう〜んと考える。

 そして考えに考え抜いた結果、結論へと至る。


「よしッ、決めタ!!」

 瞬間、蘭玲の里合脚りごうきゃくをあえて体で受け、そして掴む。


「ナッ、何を────ッ」

 その掴んだ足を両の手で更に鷲掴み、そしてハンマー投げよろしくぶん回す。勢いを回転の力で強め、そしてのそのまま蘭玲をへと投げる。


「二人共、楽しい旅をありがとう! きっと二人は思い出の中で生き続けるでショウ!!」

 

 蘭玲が車に向かって飛んでいく中、文はきびすを返して反対方向へと走り出す。その様子を見た凛風リンファは、両手を頭上に構え『能力』を素早く発動。


わたしから逃げられると思うナ」


 そして次の瞬間、凛風の頭上に大筒の発射機が出現。それは明らかに人に対し使用する武器ではなく、ましてや人体や衣服に隠せるほど小さな物でも無かった。


 その発射機は発現すると同時に引き金が引かれ、既に弾頭は文に向かって飛んでいる。


その気配に気が付いた文はバッと後ろを振り返り、その正体を確認、そして同時に絶望した。


「ふぁッ!? これ対戦車ロケッ────」

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