第004章

 グリルの前にあの家族はいない。そこにあるのは炭火で焼かれた串焼きがいくつか。

 軽い運動で小腹が空いてしまった五十嵐は、焼かれた肉を少しだけ口に入れ、また違った玩具を探しに散歩を続ける。


 不摂生ふせっせいとその性根しょうねを表す太った体。


 そんな大きな腹の重りを携えて、先程の広場からスタスタとしばらく歩いた五十嵐の目の前には、二人の高校生。


 五十嵐と同じ進行方向に歩いており、仲睦まじく手を繋いでいる。服装と時間帯から学校の帰りだと分かり、そして二人の関係性も後ろからでもハッキリしている。


 「さっきはハズレだったが、今回はどうかな?」


 あの家族の件で確信したが、やはり男はいた方が良い。ワシ以外の全人類を女にしてみた時も『何か足りない』と感じていた。

 その原因は、"人の物"というスパイスがなかったから。独り身の女も良いが、そうでない者も良い。


 "人の女"っというスパイスが、"肉"の旨味をより深く掻き立てる。


 「このガキ共も同じ……」


 ブツブツと独り言を言いながら、目の前の男女の後ろをつける五十嵐。


 「……お前たちの"味"は、当たりか?」

 【歩みを止めろ】


 ピタッ! と先ほどまで家に向けて歩み進めていたはずの男女は足の動きを止める。

 いや、正確には動かない。


 「あれっ? 足が……動かない……」

 「俺も……、足……つーか体も動かねぇ」


 金縛りのように硬直した体をどうにか動かそうとするも微動だにしない。

 口を開いて話すことは出来るものの、首から下はピーンと糸で吊るされた人形のように自由が効かない。


 そんな二人の後ろから重い足音が近寄る。


 「おい、そこのクソガキ。よく見ておけ、女の扱い方をな────」

 後ろから突然現れた暴漢。

 その男には迷いなく、もう一人の子供に見せつけるように女の服を引き裂き丸裸にする。

 

 「キャッ「【黙れ】」

 「ーーーーーーッ!!」


 引き裂かれると同時、放たれたはずの叫び。

 そんな二人の言葉を五十嵐は拒む。


 「あー、しまった。小僧の方も口を閉じてしまったか……まあいい、声は聞けずとも反応は楽しめる」

 

 五十嵐が言うように、口封じした男の顔はすぐに苦悶に満ち満ちていくこととなる。

 まるで獣の交尾、生物の醜悪さを他のオスに見せつけるように、後ろから襲った女を犯し、辱める。

 「ーーーーーーーッ」

 叫びたくても叫べない。


 その痛みや苦しみ、恐怖や怒り、不安や拒絶といったどの感情も言葉として放つことが出来ない。そのストレスはすぐ、二人の表情に現れる。


 「おっ、おっ♡ いいぞ……その表情、その反応。締まりも中々良い!」


 二人の歪んだ顔を見ながら、自身の陰茎を昂らせた五十嵐は『絶頂』を余波を全身に走らせる。


 「おっ、ぉっイぐ……! イぐ! 女! ワシの子種くれてやる! 小僧もしっかりと目に焼き付けておけ……コイツがいったい誰の所有物かを!!」


 五十嵐はそう言うと、ぶるぶると体を震わせ、その快楽によだれを垂らしながら、徐々に腰を打ち付ける速さを高めていく。

 「ーーーーーッ! ーーーーーーーッッ!!」

 涙も苦痛もその叫びも、五十嵐を止めることは出来ない。ただそこにあるのは───。

 

 「うッ……イぐッ!!!」

 蹂躙されることしかなできない無力。


 「ッ!!!」

 「ーーーーー………」

 

 何も悪いことはしていない。そこに理由もない。

 家に帰ろうとしていた。ただそれだけ。

 それだけなのに────。


 「ふー……スッキリした」


 果てた五十嵐は絶頂の後に来る爽快さと空虚感をジワジワと感じながら、相も変わらず動かないゴミを見て言う。


 「あーそうじゃな……60点」


 疲れた腰を小気味よく叩き、やれやれといった感じで喋ることすら出来ないクズに対し、言葉を続ける。


 「締りは悪くないが、どうにも体が貧相で男好きせん。それと……」

 女に自身の評価を簡素に伝え、そしてそのまま五十嵐は隣にいた男に近寄る。


 「お前うるさいんだよ! 喋れないくせにゴチャゴチャ叫びやがって! 果てた後までうっとおしい! 余韻が冷めるだろクソガキッ!!」

 怒気を強めた口調と共に急に大声を出し、暴力振るう五十嵐。


 「死ねッ! 死ねッ! 死ねッ!!!」

 動けない二人の体を蹴飛ばして、上から何度も暴言を吐き、顔や腹を踏みつける。


 「「……………」」


 もう身も心もクタクタの二人には、それに言い返す気力も、やり返せる"力"もない。


 「ふぅーー……。このガキもコレクションに入れてやるほどの女じゃなかった……もう用済みだ。 ワシの前からさっさと【消えろ】」


 目の前から"消えた"二人。余韻を邪魔された鬱憤を晴らし、その"存在"も無くなった。


 「よしッ! 少しばかりスッキリしたな。ゴミ掃除も出来て満足。さーて、そろさろ屋敷に戻ッ─」


 しかし──「さすがに酷いね」


 ッ!!!?

 「なっ、誰だ貴様!? いったい何処から!?」

 五十嵐の目の前には、見に覚えのない人物。

 男か女かも分からない顔立ちに白衣。

 

 絶対にソコにいなかったはずの空間から瞬間移動のように突然姿を表した。得体の知れない、そう五十嵐は警戒を強める。


 「いくらが君のだからと言ってもね。うーん、さすがに目に余るな」


 「まったく分からん、貴様は何を言っている? ワシはお前に、何処から現れたのか聞いたんだ……【答えろ】!!」


 意味の分からない言動に動揺を隠すことが出来ず、能力を発動させる五十嵐。


 「あー、ワタシにその"力"は意味がないんだけど……まあせっかくだし、教えてあげよう」


 「教えてあげる、だと? ……何をだ?」


 自分の力がまったく効いていないと分かる反応、そして理解出来ない事を『教える』と言い放つ目の前の人物に対し、五十嵐は一抹の不安を抱きながら問い返す。


 その答えは言葉ではなく現実で────。

 

 「君が、君達が忘れている""。身の程を弁えない者達には世界の""を教えてあげる」

 五十嵐の前にバッと突き出された手。


 その手を見た五十嵐の視界は、有無を言わさずグルグルと回りだし、次第に意識もドロドロに溶けていく。

 形づくられていた五十嵐の世界は、見るも無惨に崩壊を始める。


 「さぁ起きろ。夢から覚めろ、クソ悪党。理想の世界はこれで終わり。ここからはお前達の、お前にとっての、悪夢の時間だ────」

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