第04章
ワシはこの能力を"催眠術"だと勘違いしていた。
しかし違う……そんなチンケなモノではない。
この力は"現実を変える"力。
理想を現実に出来る夢の能力。現実改変能力。
欲しい物があるのなら。
「【ワシは豪邸に住んでいて、欲しい物は全て誰かが持ってくる】」
と言えば叶う。
わざわざ誰かに対して命令せずとも。
「【この街の若い女は必ず、一回はワシの家に訪れて体を見せること。それが常識】」
こういったことも出来る。
なーに安心してくれ、ワシは器のデカい男。
女の趣味だってその分大きい。
人妻だろうが子供であろうが問題ない。
ただし、バハアはキモいからダメだ。まあ……そうだな、30代までは許してやろう。
ワシのような選ばれし者に抱かれる、光栄だろ?
「そうは思わんか?」
「おっしゃる通りです五十嵐様……いえ、ご主人様に尽くすことこそ、私達の喜び。生きる意味と存じます」
【五十嵐和雄に対して、全ての女は絶対服従】
【五十嵐和雄の命令は何よりも優先される】
【五十嵐和雄に危害を加えることは出来ない】
この3つの現実改変を発動させた五十嵐。
現実改変能力、この能力は催眠ではないため仮に力を解いたとしても変わった現実は不変。
氷を操る能力者が作り出した氷が"現実"のものとして発動後残るように五十嵐が変えた"現実"も、"結果"として存在し続ける。
つまり自分好みの女に囲まれた生活。それが当たり前という事柄は既に、"世界の理"となっている。
「……イエスマンばかりだとつまらんな」
しかし、五十嵐はこの状況に飽きつつあった。
"変えた現実"すらも上書きすればまた違った"現実"に変更可能だが、思いつく限りの遊びはした。
そんな時、ある妙案が脳裏に閃く。
たまには人を操らず遊んでみるか……。
【時よ、止まれ】
「ワシ自ら、奴隷を探しに行く」
それから五十嵐は時の止まった世界の中、街中を悠然と散歩し、その場にいる人々を見定める。そしてしばらく歩いた先で、あるものを発見した。
「おっ、こやつらは知らんな。何処か別の街から来たのか?」
しばらく散策していた五十嵐の目の前に、3人と一匹の家族。恐らく父親と思われる中肉中背の普通の男。中学生ぐらいのまだ幼さが残る女の子に、30代半ばといった女。それと柴犬。
大きな川の流れる広場で、家族団欒のバーベーキュー。仲睦まじくグリルを囲んで笑顔で話している様子が止まった時の中でもよく分かる。
そして五十嵐和雄の家に訪れていないということは、最近引っ越して来たか、または別の場所から来たということ。
「これも何かの縁、犯しておこう」
時の止まった世界で五十嵐は、若い女にまずは手を出す。
「うむ、どうもマグロだと張り合いがないな」
時を止められることに気がついた頃の五十嵐は、初めのうち何をしても無反応という状況に興奮していたが、次第に時を止めずとも犯せるのだから関係ない。という事実に萎えてしまった。
「よし、解除するか」
【時よ、進め】
止まっていた世界は動き出し、止まった世界で犯されていた人間もその影響を受ける。
「がッ……痛い! あッアッ! 痛ぃいいいいいいいいいいいいい!!!」
「なッ、え!? どうしたの!!?」
「なんだなんだ!? 大丈夫か!?」
「うーん、処女は痛がるから萎えるな」
突然破瓜の痛みで悶え苦しむ娘と、その状況に理解が追いつかない両親。その目の前には苦しむ女を無視し、更にもう一人の女に手を伸ばす五十嵐。
「さて、コッチの具合はどうかな?」
「キャッ! 何!!? 誰!? やめて下さい!!! 離して!!」
さも当然のようにもう一人の女を押さえつけ、自分のモノを女に入れようとする男。
しかし、それを平然と夫が見ている訳も無く。
「おい! 誰だお前!? 離せ!! 私の妻に何をしてるんだ!!!」
今も妻を犯そうとする男に困惑と怒りを隠すことも出来ず、調理用のナイフを手に持ち、妻に覆いかぶさる男にそれを向ける。
「胸は年にしては中々、問題はコッチだな……」
しかし、五十嵐は一切動揺せず事を進める。
「やめろッ! 『やめろ』と言っているのが聞こえないのか!!」
男は五十嵐の暴挙に我慢が出来ず、手に持ったナイフをそのまま振り下ろすように突き刺そうとする。
が─────────。
「バウッ!」
その凶刃が五十嵐を捉えることは出来なった。
勢い良く放たれたその凶刃は、家族に向けられる。
五十嵐が刺される瞬間、一緒に連れられていた飼い犬がまるで主人を守るかのように、五十嵐の後ろを飛び跳ね庇った。
【五十嵐和雄に危害を加えることは出来ない】
世界の理は五十嵐を守る。
絶対的な力は、偶然を必然のものとする。
「お前はコイツの夫か?」
娘を痛めつけられ、妻を目の前で犯され、家族を自らの手で殺めてしまった男。
今起こっている異常事態に精神が保てず、力が抜け、膝から崩れ落ち地に座る。そんな男に五十嵐は言い放った。
「お前の反応はまぁまぁ面白かったが、女どもの具合はクソ以下だった……よって"神罰"を与える」
何か勘違いしているようだが、ワシがお前から奪ったのではない。
そもそもがワシの所有物である女を勝手にお前が
「これは万死に値する行為だ」
ワシは"神"。神罰の代行者。
ワシの寵愛を拒む女も、ロクに満足させられないゴミも、身の程を弁えない男も、全て"神罰"を与える。
「最後に、何か言い残すことはあるか?」
五十嵐の滅茶苦茶な理屈、そしてこの現実。
先程まで放心していた男は、心の底から声を振り絞り、最後の最後まで抵抗する。
「……死ね」
虚しい遺言、悔しさと無力感だけが胸に木霊する。
「…………」
五十嵐はその声に反応することなく、別段面白くもない。と退屈そうに力を発動させる。
【家族もろとも消え失せろ】
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