【承】悪夢の中。

第4章

「ワシのちんぽを舐めろ」


 五十嵐和雄いがらしかずお 57歳。

 ビール腹の太った中年男。

 現在、彼は多くの女性に囲まれ生活している。


 あからさまに常軌を逸した様子。若く美しい女達は、彼を神や主人のように慕い奉仕する。

 

 これは彼の持つ"力"によるもの。

 彼の世界すら支配する"理想の力"─────。


 それは遡ること数年前、五十嵐が妻と離婚した所から始まる。


 離婚経験は初めてではなく、彼は今までに数度の結婚と離婚を繰り返している。


 理由は様々で、金遣いの粗さ、女性関係、酒癖の悪さ、DV等、『亭主関白のクズ』をそのまま生き写したような男・五十嵐。


 職も十数年前に起こしたセクハラやパワハラ、横領などの不祥事から強制退職。


 以降、仕事という仕事はせず、のらりくらりと生きている。


 最後に結婚した妻も気が小さく無垢な性格を利用し強姦、ついでに弱みを握って半ば無理やり屈服させていた女性。


 家事をさせることはもちろん、彼女の得ていた収入のほとんどは五十嵐の娯楽費に消える。

 そんな五十嵐の醜悪な行動も我慢し、なんとかそれでも過ごしていた彼女であったが、子供に手を出されことをキッカケに限界を迎えた。


 結果、離婚。


 五十嵐の脅迫や暴言を無視し、弁護士を挟んでの調停によってすぐに決定。

 離婚後の五十嵐には収入もなく、かといって働き口もない。


 はじめのうちはホテル。次にマンガ喫茶、そしてついには外で野宿、ホームレス。


 そんな五十嵐は寒空の下で思った。


 なぜワシがこんな思いをしなければならない?

 なぜ何もかもワシの思い通りにならない?

 

 全て周りの人間が悪い、この社会がおかしい。


 この世の中は腐っている。自分のような人間がこんな屈辱的な扱いを受けるなんて。


「さ……寒い…………」


 極寒の冬は、そんな五十嵐の体を芯まで蝕む。

 長いあいだ冷やされた五十嵐の体は、元々の不摂生や老化も相まって限界を迎える寸前だった。

 

「クソッ! 誰でもいい、【ワシを助けろ】!」


 世間に対する憎まれ口と命の危機に際して、出てきた言葉、ボソッと呟いた独り言。それは意図せず世界に影響を与え動き出す。


「あ、あの……おじさん……助けに来ました」

「……???」


 そこにいたのはまったく見に覚えのない女。

 その女は、なぜか分からないけど自分を助けに来た、と言う。


「うぅッ、なんでもいいが……寒いんだ……」


 ぶるぶると震える体がやばいと必死で訴える五十嵐を見たその女は、申し訳なさそうに慌てる。


「!、気が利かなくてごめんなさい! えっと……じゃあ、私のお家に行きましょう」


 意識も体力も限界ギリギリで女に引っ張られ、連れられた先は近くのマンション。

 そこで迎い入れてくれたのは温かい部屋と温かい飲み物、それに手料理。

 外と内側から徐々に広がる温もりは、五十嵐の体を癒やし落ち着かせる。


「ふぅ……助かった。えっと、お前さんは大学生か?」

「はい、すぐそこの大学に通ってます」

 

 その女は近隣の大学に通う女子大生。

 安い家賃のマンションで一人暮らしをしており、公園の近くに寝ていた五十嵐をたまたま見つけ、声をかけたと言う。


「あの、それで……私は何をすれば……?」

「………………」


 雨風の凌げる家の中、久々の食事を接種した五十嵐は冷静に今の状況を考えていた。


(この女の言葉と行動を信じるなら、ワシの言った事が叶ったと言うことか?)


 まったく意味が分からない。

 が、これはもしかすると…………。


「おい女、【服を脱げ】」


 知らない女にこれを言うとかなり危険だが、どうせワシに失うものなんてない。弱みを握らずとも、てっとり早くこの状況を確認する。


「分かりました、今脱ぎますね」


 さも当然のように五十嵐の命令に従う女。


「えっと……下着も脱いだ方がいいですか?」

「……当たり前だ」


 確認を行ったたけでそこに一切の迷いはなく、生まれたままの姿を五十嵐に見せる女。


「こ、これは……」 


 今目の前で起こっている事態を少しずつ理解し始める五十嵐。異常ともいえる光景に、ゴクリと生唾を飲み込む。


「え、えっと……何ですか……?」


 五十嵐は目の前の裸の女を見て確信した。

 "ワシの思い通り"になっている。と───。


「何ですか? じゃない。さっさとしろ」

「えっ、えっ?」


 理解出来ずにたじろぐ女。そんな女に悠然と椅子に座って命令を下す。まるで王と奴隷、ペットと主人のように、五十嵐は言い聞かせる。


「【ワシのちんぽを舐めろ】」

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