第01章
それからは夢のような時間が過ぎていった。
いつもと変わりない景色もキラキラと輝いて、朝起きた時の億劫な気持ちも消えた。
彼との学園生活は心躍る毎日。とても
心が見えずとも怖くない。
人と人。悪い人もいれば良い人もいる。
自分に合う人もいれば、合わない人いる。
そんな当たり前のこと。
まずはどちらかが心を開いて話さなければ始まらない。十数年以上一緒にいた友人が裏切る事だってある。たとえ会ったばかりでも心が
心が通わずとも、見えずとも、分かることはある。
そんな当たり前のことを私はやっと、理解した。
そして高校を卒業を機に─────。
高校へ入学した。
「え?」
いったい何が……何が起きているの?
私はたしか高校を卒業したはず………。
あれ? でもたしか今日は入学式で………。
「橘どうした? 悩みごとか?」
「ん、いや、ちょっとね……」
これは……絶対におかしい。
たしかに私は彼と結ばれた。
でもそれはあくまで、あの時のキッカケのおかげ。そしてあの時の雨は、入学してから数ヶ月も先の話。
それなのに、彼との関係性が中学の時から進んでいる────。
「ね、ねぇ、もしかして……私達って付き合ってる?」
「おう、なんだ急に? 当たり前だろ」
面食らった顔をしつつも彼は、おかしな奴だなぁと即答してくる。
「いっ、いつから?」
「え? 中学の時からだろ?」
中学の時に私が傘を彼に貸してあげて、それをキッカケに恋人関係に発展した。と、彼は言う。
何かおかしい、何もかもおかしい。
時間、場所、いや世界そのもの?
「『訳が分からない』という顔をしているね」 「───ッ!?」
見知らぬ男……女………どちらとも言えない中性的な顔。医者や科学者が着ているような白衣を身に纏った大人が突然私の目の前に現れる。
何か嫌な予感がする。
とにかくコイツから離れなければ、と私は自身の直感とも言える警戒信号によって反射的に、そして無理やり、彼を引っ張って逃げようとする。
しかし、動かない。
「あー、他の人たちは時間が止まってるから無理だよ」
「………何をしたの?」
「んーー、催眠術?」
あっけらかんとした奴は、およそ現実的ではない答えを言い放った。でも、その答えを私はすぐに飲み込む。だって………。
だってコイツの心が見えない。
彼のように見ないようにしているのではなく、見ようとしても文字が浮き出てこない。覗けない。
「おっ、それはプライバシー違反だよぉ。やめてよぉー」
「うるさい」
コイツは私の力も知っている。そしてこの異常事態。何かヤバいことが起きている。
いったい……いつから?
「最初から」
「……ッ、心を読まないでくれる?」
「んー、どうもね、君みたいな人が何人かいるんだよ。まぁ、さすがに数十億人もいたら管理しきれないよね」
「?、なんのこと?」
奴は私の質問を無視してブラブラと散歩でもするかのように進み、それがまるで当たり前のように、受け入れている私がいた。
警戒心を最大にしていたのにまったく反応できず、奴が近づくのをすんなりと私は受けいれる。
体が動かない。というよりも心が動かない。
「さて、いい夢は見れたかな?」
なに、安心してくれ、うちは無期限無料で延長できる最高のサービス付き。ただし強制だけど、ね。と奴は手の平を私の前に付き出す。
その手を見た私の視界はぐるぐると回りだし、次第に意識もドロドロに溶けていく。
形づくられていた私の世界は、また、分解と構築を繰り返す。
壊れた現実は、理想の夢へと変化する。
「それじゃあ、おやすみ……いい夢を」
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