第2章

 少し先の未来を知ることが出来る。

 それは数秒先であったり、数時間先であったり。


 この未来予知は自分で知りたい事を知ることが出来る力ではなく。ランダムに、自分と関係のある、または自身が関与できる事柄の未来。その情報が直接記憶として刻まれる。


 感覚的には過去に体験した記憶が未来で起こる。前にもこんなことあったよな。みたいな感じ。


 そして俺はこの力を使って金儲けをした。

 公営賭博や株価の未来を知ることが出来た時、仕事をほっぽりだして買いに行く。


 結果、俺の資産は加速度的に増える。


 しかし、つまらない。


 女も、上手い飯も、良い家も、良い車も、豊かな生活も。最初は快楽に酔いしれ楽しく生活が出来ていたが、次第にその刺激にも慣れてしまった。


 働く必要もないのに変わらず出勤していたのは、結果的に良かった。時間を潰すにしても、何もすることが無くなってしまったら、暇で死んでしまう。


 元々ホワイト寄りの会社だったので労働自体はキツくないし、上司との面倒事も金の余裕が解決してくれる。


 俺のしょうに合ってなかったのだろう。


 豪遊や刺激的な毎日、ネットで金持ち達がしているような憧れた非日常は、慣れたら日常に。

 もちろんお金は多い方がいいし、こうやって余裕を持って生活が出来てきいるのは能力のおかげだ。


 しかし分かった。不幸にならないために"金"は必須だが、幸せは"金"が多くても比例しない。


 少なくとも俺は、そう思った。


「ここも久しぶりだな」


 数年前までは歌手を目指していた。

 シンガーソングライターとして活躍する。

 そんな夢を俺は見ていた。


「なんも、変わってねぇなぁ……」


 でも先行きの不安に負けて辞めた。


 周りの意見に左右された訳じゃなくて、俺自身が未来への不安に耐えられなかった。


 だから、会社員として働くことにした。


 そんな俺が今、未来を知ることが出来る。ってのは皮肉だな。


「そうだな」


 金も沢山あるし会社を辞めて、また音楽を……いや、やめておこう。


「それは嫌だ」


 時間があって、金があって、余裕があって、それでも駄目だったら…………。

  

「あのー?」


 もしも音楽を再開して気持ちが戻って、その先の未来を知ってしまったら…………。

 

「あのーーー、聞いてますかぁ?」


 そうだよ、そもそもあの時ダメだったんだ。

 諦めたことをまた始めるなんて、未練タラタラすぎるな。


「……………」


 よし……帰るか……。


「おい! 人の話聞けよ!!」

「ッ!? 誰!?」


「さっきからお兄さんに話しかけてた女の子」

 

 高校生……? かな。

 黒のセーラー服に赤いリボン。長い髪をポニーテールに結んで、白いスニーカーを履いている。


 150センチ前後の小さい背丈を補うためか、少し背伸びをしながら俺の背後を覗き込んでいた。


「そのバック、ギターケースですよね?」

「ん、ああ、そうだよ」


 俺が答えるやいなや、この女子高生は俺の両手を覆うように握ってブンブン振って喋りだす。


「やっぱり! じゃあじゃあじゃあッ、弾けますよね? お兄さんギターを持ってて、なんか暇そうにしてるし、しかも結構チョロ……優しそうだし、コレはチャンス! って思ったんです! あ、美人局つつもたせとかじゃないですよ? いや、確かに私は美人ですけど、ね!」


「…………なんだコイツ」


 これが俺とコイツとの出会い。

 無理やり背中を押してくる未来への災難。

 飽きることのない生活が今、ここから進み出す。


「私と、路上ライブしましょう!」

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