第17話 私の、どうぞ
別に喋るのが良いこととは限らない。沈黙は金という言葉もある。実際、私は
「さて……じゃあそろそろ行こうか」シャンプー談義を終えて、
窓の外を見ると、すでに日が暮れていた。そこまで暗いわけじゃないが、幽霊が出そうな雰囲気を醸し出していた。
「幽霊さんがいそうな場所に、心当たりはある?」
「どうなんでしょう……」ご主人が珍しく不安そうに、「心当たりと言われましても……」
「そうだよねぇ……じゃあ、とりあえず校舎を一周してみる?」
「それがいいかもしれません」ご主人は頷いてから、一瞬の沈黙。そして、「え? 幽霊がいる場所を知ってる?」
また変なことを言い出したご主人だった。
「なるほど」ご主人は独り言のように、「体育館か、屋上……それと、2年3組の教室?」
おそらくご主人は誰かと話している。しかし、誰と話しているのか、それは見えない。
この感じは、前もあったな。教室で私の見えない誰かとご主人が話し始めた時があった。
「おや……」
「? 8人、ですよね?」
私は含めないとして……
+4人。私が知らないやつが生徒会室にいる。
「見えないもんだねぇ……」
そうだ。この部屋に幽霊がいたのだ。それも4人。まったく気が付かなかった。その状態で呑気にシャンプー談義なんかしていた。
しかもご主人の反応を見る限り、そいつらが幽霊だと思っていなかったらしい。生身の人間だと思って、今まで接していたようだ。それを考えると、幽霊というのは案外人間に近い見た目をしているのか? もっとおどろおどろしい見た目をしていると思っていた。
「
幽霊はどんな感じの人物なのか。
「えーっと……」ご主人は部屋の片隅に目をやって、「まず、あそこの隅に一人いらっしゃいます。見た目は……そうですね。真っ黒な炭みたいな見た目で、スライムみたいな材質です。結構大きくて……煙が出てますね」
完全に悪霊じゃないか。このご主人、それが見えてて反応してなかったの? 今までそんなものが見えている状態でシャンプーの話してたの? イカれてんのかこの人。
「それから……」ご主人は天井を見上げて、「天井にいらっしゃいます。目がギョロギョロしてて……天井に張り付いてますね。ずっとこっちを見てます」
なんでこの人こんなに冷静なんだ? 幽霊が見えてるんだよな? 異形の怪物が見えてるんだよな? 悲鳴くらいあげろよ。叫んでくれれば私が危機を察して助けてやるというのに。
「次に」ご主人は
「マジで?」
「はい。とても手足が長いですよ」
「そこじゃなくてね」手足の長さに驚いたわけじゃないらしい。本当に自分の首元に子供の幽霊がいるのか?という意味で驚いたのだろう。「ちなみに、いつからいたの?」
「私が生徒会室に入ったときには。最初は薄く見えた程度なんですけど、時間が経過するにつれて鮮明に見えるようになりました」
「わーお」怖がってるのかそうでもないのか……
寛容だな。大抵の人間は幽霊と聞いただけで悲鳴を出しそうなもんだが。伊達に生徒会長なんて役職にいないようだ。かなりの大物らしい。
「それで最後の1人が……」ご主人は自分のすぐ横を見て、「ここにいらっしゃいます。見た目は……そうですね、人間、と形容すればいいでしょうか」
「ほう……人間?」
「はい。私たちと一緒です」
つまり人の形をしていると。今までの異形の怪物よりは話が通じそうだ。実際、ご主人は会話をしているようだし。
「通訳しますね」言って、ご主人は黙り込む。おそらく幽霊の話を聞いているのだろう。それから、「生徒会室に幽霊が見える人がいるって聞いて集まった、って言ってます」
「つまり、いつも生徒会室にいるわけじゃない?」
「……」ご主人はまた幽霊の話を聞いてから、「そうみたいです」
「なるほど……」
「それで……幽霊さんたちが生徒会になんの御用?」
「……」ご主人は通訳に徹するようだった。「話がし辛いから、誰かの体を借りたいって言ってます」
「体を借りる?」
「はい。そうすれば自由に喋れるみたいです」
「体かぁ……私のなら貸してあげてもいいけど……」
そうすれば、今度は
ならばどうすればいいのか。一番良いのはご主人の体を貸すことだろうが……
そんな事を考えていると、
「私の、どうぞ」
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