第13話 そう考えると納得できると見せかけて、クリストファーですね

「いつもありがとうございます。東征とうせいさん」


 ご主人はゆうに頭を下げて、私を受け取る。これでご主人も礼儀正しいところがあるからなぁ……なんで私と2人のときにはあんな訳の分からない言動になるのだろうか。


「またいつでも頼ってね」ゆうは気にした様子もなく、「もし寝込んじゃったりしたら、私に連絡して」


 猫だけに。かなり無理のあるダジャレだったな。相変わらずキレのないダジャレだ。ダジャレさえなければゆうはさぞモテるだろうに。


「じゃあ、さようなら」


 ゆうは手を振って、そのまま教室の外に出ていった。この2人は友達ではあるが、家の方向が正反対なので一緒に帰ったりはしない。


 さてご主人も補習を終えて、そろそろ帰るのだろう。


 すでに教室には誰もいなかった。夕日は暮れかけていて、もう少ししたら夜の帳が落ちるだろう。

 一応、ご主人も美少女と呼ばれる部類の人間なのだ。あまり遅くならないうちに帰ったほうがいい。


 そう思っていると、


「マーちゃん」


 だからマーちゃんじゃない。いつになったら私の名前を呼んでくれるんだ。いや……ゆうのように毎回フルネームで呼ばれても、それはそれで面倒だが……まぁどっちでもいいか。


「クリスはどこに行ったんでしょう?」

「にゃー(知らん。そもそもクリスを知らん)」

「そう考えると納得できると見せかけて、クリストファーですね」

「ニャーオ(何が?)」


 相変わらずこいつは何を言っているのだろう。他の人間と話しているとまともに見えるのに……1人になった途端これである。意味がわからん。


 そして、そのまましばらくご主人は喋り続けた。まぁご主人が独り言を言い続けるのは珍しいことではないので、私はそれを聞き流していた。


 しばらくして、夜になった。さっさと帰ればいいものを……なにをこのご主人はやっているのか。


 呆れつつも、ご主人の独り言に耳を傾ける。


「なるほど……ではりんごが好物なんですね」

「にゃー(誰の好物なんだよ)」

「ほほう……破壊神の復活の影響で、気が乱れている? その影響で吸い寄せられた、ですか?」


 うん……? なんだか独り言にしては違和感があるな。いつものご主人の独り言の感じではない。まるで誰かと話しているかのような喋り口調だった。


「なるほど」不意にご主人が合点がいったとばかりに、「幽霊さんだったんですね。どうりで浮いてると思いました」

「ニャー? (幽霊?)」


 思わず、私は視線を巡らせる。


 何も見えない。だが、ご主人はどうやら幽霊と会話しているようだった。私には見えないが、ご主人には見えている様子だった。

 

 いや……それともこれもご主人の戯言か? また意味のないことをブツブツつぶやいているだけなのか? 

 幽霊は本当にいるのか? それともいないのか? どっちなんだ? ご主人がポーカーフェイス過ぎてまったくわからん。


「……危ないから帰ったほうがいい……ですか?」ご主人が首を傾げて、「悪霊が住み着いている? そろそろ現れる?」


 なぜかご主人は幽霊の言葉を復唱しているようだった。私が聞いていることを感づいているのか、それとも他の理由なのだろうか? ただの独り言なのだろうか?


「わかりました。では、ご忠告に従って帰宅します」


 そう言って、ご主人は教室をあとにした。教室を出るとき、ご主人は教室に礼をする。おそらくそこに幽霊がいたのだろう。


 ご主人は支離滅裂な言動こそするが、嘘はつかない。だから、本当に幽霊はいたのだろう。


 悪霊……シックザールが復活したことによって悪霊がこの学校に住み着いた、なんてことが本当にあるのだろうか。

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