臍帯ロープ

第12話 たまに動きますね

 蘇った破壊神……名前なんだっけ? セットバリュー? ともかく復活した破壊神を秒殺してから3日が経過した。


 あんなのを破壊神として恐れているとは、この時代の人間はどうにも貧弱だな。平和ボケして戦い方も知らないのだろうか。まぁ平和なのはいいことだし……今の時代はこれでもいいのだろう。


 ご主人は無事補習を終えて、破壊神の件はといえば、


「とりあえず怪我人もなく、無事にシックザールは討伐できたみたい」


 生徒会室で、閑古鳥かんこどり会長が言う。そうそう、破壊神の名前はシックザールだった。


「でも……誰が倒してくれたんだろうねぇ……しかも一撃で」

「気になりますね……」ゆうが閑古鳥会長が入れた紅茶を飲みながら、「先生方の誰か、でしょうか?」

斎藤さいとう先生とか? たしかにできそうなのは斎藤さいとう先生くらいだけど……いくら先生でも一撃は厳しそう」

「たしかに」同意したのは副会長の神代じんだい。相変わらず女子に囲まれているが、特に浮かれた様子はない。「斎藤さいとう先生はパワータイプじゃないですからね。どちらかというとスピードとテクニック」

「そうだね……でも、じゃあ誰がやったんだろう?」


 まさかゆうに抱かれている黒猫だとは思わないだろうな。考慮に入れることすら無理な話だ。どこからどう見ても、今の私は黒猫でしかないのだから。

 

「……もしかして……」ほうじ茶を飲みながら、ポニーテールの大和撫子、幽見かすみ礼子れいこが言う。「幽霊さんが倒してくれたのでしょうか」

「幽霊?」興味を持ったのが、閑古鳥かんこどり会長。「この学校、幽霊がいるの?」

「いますよ」幽見かすみは当然のように言う。「夜になれば、大勢の幽霊さんがいらっしゃいます。シックザールが倒れたときも夕日は落ちておりましたし……おそらく幽霊さんはいたはずです」

「へぇ……その幽霊さんは強いの?」

「最近……強い幽霊さんが住み着いたみたいです。もとからいる幽霊さんが怯えておられました」

「ほほう……幽霊界にも人間関係があるんだねぇ……」


 幽見かすみが幽霊が見えるということを、みんな当然のように受け入れている。もしかしたら生徒会の間では共通認識なのかもしれない。

 それにしても幽霊か……私は霊感がないので幽霊の類は見たことがないのだが……強い幽霊ならば少し気になるな。機会があれば会ってみたい。


 それから、閑古鳥かんこどり会長が私を一瞥してから、ゆうに聞く。


本若もとわかさんは?」

「あ……えっと、今日もちょっと用事があるみたいで」


 ご主人は例によって補習である。補習と言わずに用事があると言ってくれるあたり、ゆうの配慮がうかがえる。


 まぁご主人が補習になったのは自業自得だし、配慮は必要ないんだがな。


 ゆうは私を撫でる。ゆうに抱かれているとひっきりなしに撫でられてしまう。まぁ気持ちが良いから撫でてもかまわないのだが。


「相変わらずゆうさんは、もふもふしたものが好きだねぇ。またぬいぐるみが増えたりした?」

「はい。この間、クマのぬいぐるみをもらいました」

「もらった? 買ったんじゃなくて?」

「はい……前の持ち主が言ってたんです。って」

「急に動き出す? ぬいぐるみが? 本当?」

「たまに動きますね」当然のように言うな。「かわいいから問題ないんですけど」

「お、おう……相変わらず豪胆だね……」

「……?」


 ぬいぐるみが動き出したら、もっと怖がったほうがいい。それはおそらく呪いや幽霊の類だ。手が出せない相手からは逃げたほうがいい。私ですら幽霊には勝てるかどうかわからないのだから。


 物理攻撃が効けば余裕で勝てるんだけどな……猫の姿になってからというもの魔法が使えないし、身体能力も弱体化しているし……まぁ弱体化しても強いことに変わりはないんだがな。


「ともあれ……」閑古鳥かんこどり会長が若干疲れたように、「これからちょっと忙しくなるよ。シックザール復活に絡んでた教師は当然退職だし……グラウンドの大穴も埋めないといけないし……シックザールを倒してくれた人にもお礼を言わないといけないからね」


 シックザールを倒したやつは閑古鳥かんこどり会長の眼の前にいるけどな。私だけどな。シックザールを倒したを探しているならば、一生見つからないけどな。


 とにかく、破壊神も倒したし、しばらくは平穏だろう。1つ気になるのは最近住み着いた強い幽霊とやらだが……まぁ会うこともあるまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る