第11話 破壊神シックザール

 シックザールの復活阻止計画。その計画に生徒会メンバーは全員賛同した。それを見て、閑古鳥かんこどり会長が言う。


「最大の目標は。だけど……もしかしたら間に合わないかもしれない。そうなったら……できれば被害が広がる前に倒してしまいたい。だけど……危険だと思ったらすぐに逃げて。自分の安全を最優先で。いいね?」


 閑古鳥かんこどり会長の言葉に、全員が頷いた。糸谷いとだにでさえ頷いているところを見ると、会長の統率力に問題はないようだ。やはり私の時代とは違うらしい。


「じゃあ、早速地下に行ってみよう。実はもう破壊神の復活は秒読みみたいでね。あんまりのんびりしてるヒマはないんだ」


 そう言って、生徒会メンバーは立ち上がる。私もついていって暇潰しするか、と思っていると、


「ちょっと待っててね」ゆうがそう言って、生徒会室の奥の方に引っ込む。そして檻を引っ張り出して、私をその檻の中に入れた。「もしもご主人様が戻ってきたら、帰っても大丈夫だよ。書き置きはしておくから」


 それから、ゆうはなにやら紙に書き込んで、机の上においた。おそらくご主人に『自分がいない場合は猫を連れて帰っていいよ』という類のことを伝えようとしているのだろう。


 そりゃそうか……私みたいな子猫を破壊神復活の場には連れていけないよな。ちょっと残念だが、檻を破って出るわけにも行くまい。一応、ゆうが私のために用意してくれた檻だからな。


 生徒会メンバーが部屋から出ていく。シックザールの復活を阻止しに行くのだろう。私には関係ないが、なんともご苦労なことである。そんな危険なことは大人がやればいいものを……なぜ学生がそんな危険を冒さなければならないのか。


 まぁいい。本当に私には関係のない話だ。


 生徒会メンバーがいなくなって、1人……いや、一匹になる。


 しばらく時間が経過して、すでにヒマになってきた。夕日も落ちかけていて、校舎から聞こえてくる生徒の声も小さくなってきた。眠ろうにも、今日はたくさん寝たので眠くない。


 檻でも破って散歩に行くか? いや……この檻を壊すのも気が引ける。緊急時以外は壊したくない。


 そんなこんなであくびをしていると、


「ニャン? (なんだ?)」


 突然、強いエネルギーを感じた。校舎の下辺りから、圧倒的な力を持った存在が現れたようだった。


 威圧感。圧迫感。そんな負の感情を持った黒いエネルギー。私の生きた時代でも、これほどの力を持った存在は稀だった。


「ニャー……(これが破壊神か?)」

 

 破壊神シックザールの封印が解かれて、復活したのだろうか。生徒会メンバーは間に合わなかったということだろうか。


 だとするならば……少しまずいことになる。いくら私でも、防ぎようがないことだってある。


 次の瞬間、


「ニャ……! (む……!)」

  

 爆音。何かが爆発したような音が鳴って、校舎に砂が降り掛かった。音に耳をすませる限り、グラウンドの下が爆発したらしい。その衝撃でグラウンドに穴が空き、砂が舞った。


「ニャ。(これは緊急事態だな)」


 私は檻を力で曲げて、外に出る。檻の製作者およびゆうには悪いことをしたが、今は緊急の事態だ。仕方があるまい。


 檻を出て、窓を開ける。そしてグラウンドを見た。


 は浮かんできた。沈みかけている夕日をバックに、浮かび上がっていた。グラウンドには大きな穴が開けられており、その穴から現れたようだった。


 異形のバケモノ。明らかに人ではないそれにはつのが生えていた。全身は黒く、鋼のような筋肉が遠目からでも確認できた。


 これが破壊神か……どうやら世界征服というのは、まんざら夢物語でもないようだ。たしかに目の前のこいつならば可能かもしれない。


 そいつ……破壊神シックザールは大きく息を吸い込んで、


「聞け! 人間ども!」鼓膜が破れそうなくらいの大声で、叫んだ。「我が名は破壊神シックザール! この私が蘇ったからには、地上の支配者は愚かな人間ではない!」


 ビリビリと大気が揺れる。いつの間にか雲がすべてなくなっている。夕日は完全に沈んでいた。


 これは……マズイな。焦る私をよそに、シックザールはさらに言う。


「手始めに! この場所を更地に変えてやろう! さらに次は――」

「ニャー(うるさい)」


 鳴いて、私はしっぽを振るう。


 一瞬遅れて轟音が鳴って、次の瞬間シックザールの体が真っ二つになった。


 こんな奴、直接触れるまでもない。しっぽで巻き起こす風で十分だ。それだけでこいつくらいの体なら真っ二つにできる。


 たしかにシックザールは世界征服を成し遂げられる実力者だっただろう。私がいなければ、の話だが。


 力なくグラウンドに落下していくシックザールに向けて、言ってやる。


「ニャオ。ニャー(ご主人の補習の邪魔してんじゃねぇよ)」


 あんまり大声出して騒ぐと、ご主人が補習に集中できないだろうが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る