破壊神

第7話 リコーダーを隣においておくから

 眠っているうちに、時間が過ぎ去った。猫になってからというものやることがなくて、どうにも時間の経過が早い。なんとも気楽な生活だった。


 さて、放課後になった。たしか放課後には東征とうせいと教師が魔女について話し合うはずだ。魔女については私も気になるので、話を聞きに行こう。

 

 そう思っていると、


本若もとわかさん」


 不意に教師がご主人を呼び止めた。この教師はたしか、ご主人の担任だったはずだ。若い男で、なんとも優男の雰囲気が漂っている。ちょっと頼りなさそうに見えるが、一応生徒のことを気にかけてくれている教師である。


「ちょっといいかな」呼ばれて、ご主人は教師のところに寄っていく。なんだか猫みたいだった。「今から時間あるかな?」

「はい。今からなら大丈夫です」


 いつも大丈夫だろうが。いつもヒマしてるだろうが。いつ呼ばれても問題なく対応できるだろうが。

 

「じゃあ……今から補習の時間にしたいんだけど……いいかな?」それから、教師は続ける。「ちょっと出席日数が足りなくてね……今回の補習を出席日数扱いしておくから」


 やはり出席日数とやらが足りてないらしい。話を聞く限り、その出席日数が足りないと卒業や進学が危うくなるらしい。ならばこの補習の話は受けておくべきだろう。


 この世界で、学校というものを卒業するのは大きな意味を持つ。卒業しないならしないなりになんとかなるかもしれないが、まぁ卒業できるものならしておいて損はない。


 なら仕方がないな……魔女の話はお預けか。ご主人の補習のほうが大事だからな。


「では、よろしくお願いします」


 ご主人は頭を下げる。一応こういったところの礼儀はしっかりしているようだった。まぁ私の前でくらい意味不明な言動をするのは許してやろう。


「よし……じゃあ、その猫さんはどこかで預かっておくよ?」

「マイちゃんをですか?」

「マイっていう名前なんだ」違う。ケントニス・ノレッジ・コネサンス・シュテルケ・ポテンツァ・サジェス・ウィズダム・ヴィスハイト・ヴィゴーレ・マハト・フォルスだ。「ちょっとね……猫なんか連れ込んでるからいけないんだ、という批判がありまして……補習中くらいは、ね?」


 なるほど。ならば仕方がない。猫を連れ込むのは別にルール違反ではないが、批判があるなら対応しなければ。補習中に私がどこかに預けられるので済むのならお安い御用だ。


 さて、どこにどうやって預けられるのだろうか。鉄格子の中にでも入れられるのか、と思っていると、


「……」ご主人が教室の中を見回して、「東征とうせいさん」

「はーい」


 呼びかけられて、東征とうせいがこちらに寄ってくる。


 東征とうせいゆう。このクラスの委員長にして、生徒会メンバーの1人。MTYランキングなるランキングにも上位に名を連ねる実力者である。まぁMTYランキングがなにを表しているランキングなのかは知らんが、とりあえず上位ならすごいのだろう。


 黒髪のロングヘアー。長い手足に整った顔立ち。ちょっとばかり周りに流されやすい気弱な一面があるが、まぁ愛嬌の1つだろう。


 こんな奴が、ご主人の唯一の友達であるとは信じられん。どうして東征とうせいはご主人なんかと友達でいてくれるんだ? 意味がわからん。


「どうしたの?」

「補習の間、うちの猫を預かっていてほしいんです」

「あ、うん、いいよ。どれくらいかかりそう?」

「えーっと……」


 ご主人が目線で教師に確認をする。するとそれを察して教師が、


「出席扱いにするには……そうだね、結構かかるかな。1時間から2時間くらい」

「わかりました」東征とうせいは頭を軽く下げて、ご主人に向き直る。「じゃあ大丈夫かな。ちょうど私も生徒会の活動があって、しばらく学校にいるから。もしも本若もとわかさんのほうが先に終わったら、生徒会室に来て」

「わかりました」


 ということで、私は東征とうせいに預けられる。実は東征とうせいに預けられるのは今回が初めてじゃない。今までも数回、東征とうせいにお世話をされている。


 そのたびに思う。東征とうせいに拾われればよかったと。


「では、よろしくお願いしますね」ご主人は頭を下げてから、私に言う。「あんまり東征とうせいさんに迷惑かけちゃダメですよ」

「にゃー(あんたの補習が原因だけどな)」


 補習がなければ私が東征とうせいに預けられることもなかったんだよ。原因はご主人にあるんだよ。とはいえ、東征とうせいに迷惑をかける気なんてサラサラないが。


「大丈夫だよ」東征とうせいが言う。この感じは……いつものアレだった。「リコーダーを隣においておくから。そうすれば利口だー、ってね」


 空気が冷える。東征とうせいが寒いダジャレを言うのはいつものことだ。しかし、今回はいつにも増してキレがない。いや……いつも通りか?


 東征とうせいはこのダジャレさえなければなぁ……まぁ本人が楽しそうだからよしとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る