人生の教科書
夢色ガラス
一時間目の授業
はーい、皆さん席について。授業を始めますよ~。ほらほらとっくにチャイムはなり終わっていますよ。…先生が来るのが遅いから、ですって?まったく、相変わらず口が減らない子供たちですね。松山先生は大変でしたわね。んもう~、なんでもいいから座ってくださるっ!?
ふぅ、では授業を始めますよ。一時間目の授業は『人生の学び』です。『人生の教科書』を開いてください。
教科書を開きましたね?…では皆さん、質問です。皆さんはご自分のことを良い人間だと思いますか?それとも悪い人間だと思いますか? 手を上げてください。
…あらあら、皆さんご自分が嫌いなのですか?…ではそれはなぜか教えていただけますか?
「バカだから」
「人を傷つけてしまうから」
「可愛くなくて勉強もできないから」
「人が嫌いだから」
「生きていて楽しくないし、自分の惨めさに気付いてしまうから」
「みんなと仲良くなれないから」
まぁ、皆さん将来有望な少年少女たちでございますのになんてことを…。それではこのわたくしが皆さんのすばらしさを説明します。
今日は「みんなと仲良くなれないから。」について一緒に考えていきましょうね。それではこの意見を出してくれた方はどなた?どうしてこう思ったのか教えてくださいますか?
「はい、私が意見を言った亀田莉子です。…嫌いな意見とか、嫌いな人とかがポツリと言ったこととかに腹が立つと、すぐにケンカ腰になっちゃうんです。何でそういうこと言うのよ、とか口に出しちゃって。真由ちゃんみたいに、嘘でもみんなに優しくして合わせることができないんです。…だからこんな自分が嫌い」
…それはつらいですわね…。真由さんっていうのはどなた?
「はい…、私が上原真由です」
こんにちは、真由さん。真由さんはみんなに優しくて合わせているんですの?息苦しくはないですか?ご自分の考えだってあるじゃないですか?
「あ、ありませんわ!あと、『嘘でも』ってどういう事!?私はみんなのことが本当に好きですわ!!!いっつもボッーっとしているような莉子さんには分からないでしょうね!」
あらまぁ、真由さん。それが本音ではないですか。ふふ、単純なお方。
「……ッ!」
莉子さんはご自分の意見をしっかり主張しています。本当のことを言っている証拠ですよ。きついイメージを持たれてしまうかもしれないですが、わたくしでしたら『自分』をしっかり持っている莉子さんと仲良くなりたいと思いますわ。莉子さんが嫌だと思っている方は莉子さんの考えを聞いて直していくべきだと思います。莉子さんがご自分の意見をストレートに言ってくれれば相手の方が『今傷つけるようなこと言っちゃったかな…😣』と不安に思うことも無くなりますよね。
真由さんは皆さんと仲良くしていることで、真由さんご自身を安心させているのではないですか?『私はヒトリボッチじゃないんだ。』と。皆さんが真由さんを頼ってくれることにホッとして、『自分』を押し込んで我慢しているのではないですか?
真由さんも莉子さんも実はお互い一番気になっている相手なんじゃないですか?うふふ、やっぱり小さい頃のみんなを見ていると懐かしいですわ。
わたくしも莉子さんの気持ちになって考えてみるわね。
「先生、何のことですの?」
「私の気持ち…?」
ふふふ、それはいつか分かるはずですよ。今は自分にできることをやり抜くことが大切です。いいですか?
「そういえば、先生。先生の名前を教えて下さらない?」
真由さん。わたくしの名前はナイショ。まぁ、きっといつか分かることでしょうけれどね。今は…優恵夢(ゆうえむ)とでも言っておきましょうか。またお会いすることがあれば分かるように。
あら、わたくしのネーミングセンスは良くないかしら?もうお恥ずかしいですわっ…。
「あの、どなたですか」
まぁ!松山先生!お久しぶりです…じゃなくて、逃げなくては!!!
「ちょっ、待ちなさい!」
「あっ、優恵夢先生!待って!」
莉子さん、真由さん、そしてあの頃の担任の先生…。クラスのみんな…。懐かしい過去の思い出を見に来て本当に良かったですわ。
それにしても、やっぱり『優恵夢』というニックネームは変よね。わたくしの本名は上原真由。名前と苗字の頭文字を取って、『UM』。漢字にしたら優恵夢。…ネーミングセンスがないことはあの頃から変わっていないわね…。わたくしが生きる『今』では、莉子さんとケンカをしてしまったから。早く謝りに行かなくては。莉子さんはかなりはっきりわたくしの欠点に文句を言うんですもの。あの時は腹が立ってしまいました。
……莉子さんに正直にいう事に何が問題があるってはっきり言ってしまったのはわたくしですしね。ごめんなさい、莉子さん。
~莉子~
真由ちゃん、ごめんごめんごめん!!!
昔、真由ちゃんが『優恵夢』として来てくれてから、自分に正直になりすぎちゃった!それでつい傷つけるようなこと言っちゃったの。もちろんこれは言い訳だけど…。んもぅ!二十六歳にもなって何やってんの私!バカバカバカ!!!
【三時間前】
「真由ちゃん。私、金魚を飼うことにしたんだ~♪」
「へぇ、いいじゃない。莉子さんは小さい時から生き物が大好きだったものね。名前はどうするのかしら?」
「ん~、どーしよっかな」
「じゃあ、わたくしが決めてあげるわ。」
「えー、ヤダ。ダッサイ名前つけるじゃん、どーせさぁ」
「…はい?」
「『はい?』って何よ。本当のこと言っただけだし」
「何それ!莉子さんひどいわ!」
【今】
…みたいな感じ。ね?私がバカでしょう?
だから今から私と真由ちゃんが仲良くなれた教室に行くの。
そこに行けば最初の無邪気な心に戻れるから。大人だって『人生』の初心者なの。だからこうして過去の自分に頼っている。
でも。
でも、それで一歩踏み出せるなら何でもいいじゃん。
ほら、前を向いて(過去に行くんだから後ろを向いて?)。
行ってきます!新たな一歩を踏み出すために!過去へ!
<おしまい>
人生の教科書 夢色ガラス @yume_t
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