第15話 初めての復讐
「もちろん演技に決まってるでしょ、アレ」
僕は
作戦会議の場で、オリヴァールの
「それにあながち
そう言いつつ、僕が手にした書類は、街の住人や
それによると、オリヴァールの主導のもと、多数の子供たちが
「あんな目に
ため息をつく僕に、なにか言いたそうな視線を向けてくるエクウス。
「大丈夫だよ、ちゃんと助けにいくから。あんな目に
今、僕たちと《森の民》軍は《ネール》の街のほぼ全域を制圧して、敵軍を
ぶっちゃけ、僕たちの勝利は、ほぼほぼ確定している。
その中で、最後の一手をどうするかで、今後の流れが左右される──というわけで、作戦会議となったのだ。
「大量の火矢を打ち込んで、あぶり出してやればいい。
族長がぐっと親指を立てて、自信ありげに白い歯を光らせて笑ってみせる。
だが、僕は書状を書く手を止めて、そんな
「
「なんでじゃ!? ここは派手にやった方が、我らの完全勝利を印象づけることができるじゃろう! それによって、後々反抗しようとする気も起きなくなるじゃろうし」
「恐怖で抑えても、その恐怖が増大していくことによって、最終的に追い詰められた恐怖心が暴発します。そうしたら、僕たちの手には負えません。《森の民》と《セネリアル州》の人口差だとひとたまりもありませんよ」
「ふむぅ、確かにそれもそうじゃろうけど、森を焼かれた仕返しもしたかったのぅ」
残念そうに落ち込む族長を押しのけるようにして、今度はフェンナーテが「はい、はいっ!」と身を乗り出してきた。
「だったら、このまま包囲して
「却下」
「どうしてだよ!? 族長の案に比べたら
「今は時間をかけたくないんだよ。それに正直なところをいうと、敵にもこれ以上犠牲を出させたくない」
「はぁっ!?」
「なに甘っちょろいこといってるんだ、このボンボンは?」みたいな表情で顔を近づけてくるフェンナーテの後頭部をディムナーテが勢いよく叩いた。
まあ、そうツッコみたい気持ちはわかる。
「とりあえずさ、僕に一晩時間をくれない? あと、あのモラティオ
そういいつつ、書き上げた書状を掲げてみせた。
「この書状を何通か複製して矢で打ち込んで、ちょっとだけ待てば、この戦い、血を流さずに終わらせることができるよ、きっと」
「あ、ノクト様、悪い笑みを浮かべてる」
フロースがジト目でこちらを見ている横で、エクウスがあからさまにひいている様子が見て取れる。
「え、なに? そんな悪い顔してる、僕? これが一番人道的な作戦だと思うんだけど──」
○
「──と、いうワケで、無事戦闘終了とあいなりました」
そう言って、僕が指し示したのは解放された領主館の中庭。
その中庭中央の噴水の前に跪かされたモラティオ
ポカンとした表情のフェンナーテが、こちらに顔を向けてきた。
「なぁ、
「うん? 単純なことだよ? 無条件降伏すれば、モラティオ子爵やオリヴァールを含む一族全員、及び、兵士全員の生命を保証する。さもなければ火矢攻めと兵糧攻め、好きな方を選んで返事ちょーだいって」
返事の内容に関しては、三パターン想定していた。
一つ目は、モラティオ
二つ目は、兵士たちがモラティオ
三つ目は、書状の内容を無視して
「いやぁ、三つ目の選択をしてこなくて助かったよ。もし、それを選んだとしたら、
ちなみに、今回は二つ目の兵士たちが反旗を翻したパターンでした。
「《オクリヴィジニス》もそうだけど、ここに来るまで話を聞いたりした限りでは、モラティオ
ほぉーっ、と素直に感動してくれる族長やフェンナーテたちの態度に、少し気恥ずかしくなったりもして。
そんな僕に対し、拘束されたモラティオ
「おい、《森の民》の族長よ!
僕は正直驚いた。
族長が、僕の頭に手を乗せる。
「交渉の相手が違うな。今、我ら《森の民》を率いておるのは、この可愛い孫──
「お
僕の名前を聞いて、
僕たちにしたことを覚えているのだろう。
族長の手をそっと押し戻してから、僕はいつの間にか背後に立っていたディムナーテに小さく頷いて見せる。
すると、さほど時をおかずに、彼女がモラティオ
「オリヴァールよ! よくぞ無事で!」
だが、オリヴァールの反応はやや冷めていた。
「父上っ! なぜ、
「そ、それは、お前の身を案じて……」
さらにオリヴァールは周りの兵士たちにも言葉の矛先を向ける。
「オマエらもだっ! あっさりと《森の民》どもの
さすがに僕は呆れてしまった。
「そーいう態度だから、こういう事態を招いちゃうんじゃない」
「なんだと!?」
「ヒドいことしてたのって、僕たちに対してだけじゃなかったみたいじゃん。進軍しながらいろいろな人に話を聞いてきたけど、ハッキリ言ってスゴく評判悪かったよ、あなたたち親子」
「それがどうした!? 父上はこの州の領主、そして、俺が次期領主だ! 思うがままに動かしてなにが悪い!」
「態度が悪い!」
そう言って笑いながら話を混ぜ返すフェンナーテ。
「本当は『顔が悪い』って言ってやりたかったけど、他人の外見をあげつらうのはカッコ悪いからな」
「貴様ぁっ!!」
縄に繋がれたまま身を
「ぶべぇっ!」
不様に地面に倒れ込むオリヴァール。
僕は小さく息を吸い込んで、声を整えた。
「今、この時点を
その様子を見届けてから、僕は、目の前の二人に視線を落とした。
「モラティオ
僕が彼らに課した罰──それは、一年間の間、強制労働に就かされた僕たちやセネリアル州の子供たちと同様に、鉱山で発掘作業に従事することだった──
ちなみに、その後、半年を過ぎた頃に鉱山で小規模な落盤事故が発生した。
その行方不明者の報告書の中に、二人の名前が含まれていたが、僕の心が痛むことはなかった。
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