18.ダブルデート
「おまたせー、由香里!!」
土曜の駅前。休日を楽しむたくさんの人で溢れる駅前広場で約束していた由香里に、駅の方から歩いて来た花凛が大きな声で言った。襟の付いたピンク色のワンピース。短めのスカートからは白くて長い足が色っぽく映る。由香里が言う。
「おはよっ、花凛」
「おっはよ~、由香里っ」
由香里は花凛の後ろにいる正司に気付いて挨拶をする。
「おはようございます、正司さん」
「あ、ああ、おはよ。由香里ちゃん」
その瞬間、花凛が正司の横にやって来てぎゅっと強く腕を組む。その大きな胸がぎゅうぎゅうと押し付けられる。花凛はちょっとむっとした顔で下から正司を見上げ不満そうな顔をする。正司が小さな声で言う。
「し、仕方ないだろ。挨拶ぐらいはしなきゃ!!」
「分かってる。分かってるけど、なんか、面白くないの!」
友人の由香里に挨拶をしただけで嫉妬する花凛。他人から見ればもはや病的だろう。由香里が正司に自分の彼氏を紹介する。
「正司さん、これうちの彼氏。よろしくね」
そう言って自分の後ろにいるひょろっとした長身の男を紹介する。
「あ、タケルっていいます。よろしくお願いします」
そう言って手を差し出すタケル。正司は手を握って答える。
「橘です。よろしくね」
「正司さんですね。由香里から話は何度も……」
「そうなんだ、あははっ、……痛っ!!」
急に腕に感じる鈍痛。見ると腕を組んでいる花凛が不服そうな顔で正司の腕をつねっている。
「ど、どうしたの? 花凛」
花凛は黙ったままむっとした顔で正司を睨む。
「え? 何で? タケル君は男だよ……」
花凛はぷいと横を向いて言う。
「分かんないけど、花凛以外の人と仲良くするのって、なんか面白くないの!」
それを聞いた正司が花凛の顔に両手を添え優しく言う。
「俺が好きなのは花凛だけだよ。心配しないで」
そう言って花凛の額に軽くキスをする。花凛がようやく笑顔になって言う。
「うん、ごめんね。しょーくん。花凛もしょーくんだけだよ!!」
「ね、すごいでしょ。私の友達」
それを少し離れて見ていた由香里が顔を引きつらせながらタケルに言う。
「う、うん、凄いね。話通りだ。女の子って、ああ言うのが好きなの?」
「分かんない。人によるでしょ……」
「そうだね……」
由香里がふたりに言う。
「で、今日は映画で良かったかな?」
「うん、いいよ」
正司にべったりくっついたまま離れない花凛が頷いて答える。正司とタケルも同じく頷く。由香里が言う。
「じゃあ、ちょうどいい恋愛映画がやってるから観に行こうか!」
「了解~!!」
そう言って花凛は歩き出す由香里とタケルの後を、正司と一緒について歩き始める。正司が花凛に言う。
「なあ、本当に良かったんか? 俺みたいなおっさんが来て……」
由香里もタケルも花凛もみな現役大学生。明らかに年上、オッサンである正司には少々居心地が悪い。花凛が言う。
「そんなこと全然気にしなくていいってば。しょーくんは花凛の宝もの。宝ものは大事でしょ? だからいいんだよ!!」
もはや何のことを言っているのかさっぱり分からなかった正司だが、とりあえず花凛や由香里が嫌でないのならばいいのかなと思うようにした。
駅前の映画館。かなり大きな映画館でスクリーン数もたくさんある。土曜ということで正司の予想を超える人で賑わっていた。チケット販売機にやって来たタケルがボタンを押しながらあることに気付いて言う。
「あ、今日学生割引デーじゃん!! 土曜なのにラッキー!! ねえ、安く観れるみたいよ!!」
そう言った彼の顔を由香里が「ダメ!」と言った表情で見つめる。そして直ぐに花凛の隣にいる正司に気付いて言う。
「あ、ああ、ごめんなさい。正司さん」
「いいよ、気にしなくて。社会人はちゃんと通常料金を払うから」
正司は笑顔で発券機のボタンを押す。この程度のことは想定済み。社会人となればこんな事よりもっと辛いことなど山の様にある。
「しょーくん、ポップコーン買お。ラブラブポップコーン!」
そう言って花凛が大きな胸をグイグイ押し付けながら正司を誘う。正司が固まる。社会人になってもこの様な耐性は、まあつかない。
(本当にイチャイチャだね……)
映画が始まってからも由香里は、隣に座る花凛と正司のふたりを横目で見て思った。暗い映画館。はっきりとは見えないが、常に花凛が正司のどこかに触れている。
(間接キスねえ……)
ふたりの頼んだコーラは特大の物がひとつだけ。ストローは一本。何でもそれをふたりで一緒に飲むことで常に『間接キス』ができるそうだ。
(そんな発想一体誰が……、って、キスしてんじゃん!!!)
暗闇の中、花凛が正司に体を寄せるようにしてキスをしている。逆に焦ってドキドキする由香里。
(え、い、いいの!? こんなところでキスなんかしちゃって!?)
あまりのバカップルぶりに焦る由香里。同時になぜこんな一番見づらい後ろの席を選んだのかも理解した。
「面白かったね、映画」
映画を観終わったあと、花凛が由香里に言った。
「そ、そうね……」
そう答えながらも『ずっといちゃついていて映画なんて見てなかっただろ!』、突っ込みを入れたくなる由香里。彼氏のタケルが言う。
「お昼、どうしますか?」
それを聞いた花凛が持ってきていた鞄の中から大きなお弁当箱を取り出して言う。
「ごめんね、私達はこれなの」
味覚異常を持つ正司。花凛も同様に軽度の症状を持つため、外出時でも常に弁当が基本となる。由香里が言う。
「じゃあ、私達はそこらでテイクアウトでもして来るから一緒に外で食べよっか」
「そうだね、そうしよ!! 先に広場に行ってるね!!」
そう言うと由香里はタケルを連れてファストフードの店へと向かう。正司と花凛は一緒に駅前にある広場へ行き、そこにあったベンチに一緒に座る。花凛が言う。
「いい天気だね~」
「うん、いい天気だ」
「デート日和?」
「うん」
そう言って花凛は正司の腕に抱き着く。そして正司を見上げて尋ねる。
「ねえ、しょーくん。花凛のこと、好き?」
「え? もちろん好きだよ」
「どのくらい?」
「このくらい」
そう言って正司は両手を思い切り広げる。
「由香里って可愛いと思う?」
「え? あ、ま、まあ、そう思うよ……」
「しょーくんのね、由香里を見る目がなんかいやらしいの」
「え!? マジで!?」
本人も気付いていなかったオッサン視線。女子大生には易々と気付かれてしまうのだろうか。慌てて正司が否定する。
「そんなつもりはないよ!!」
「ホントに?」
「ほんと!!」
「じゃあこれ見て」
そう言って花凛は自分の胸元の服をつまんで上げ、正司に見せる。
「え、ええっ!? ちょ、ちょっと、花凛!?」
大きな胸の谷間を上から見る。
おっさんでなくとも男なら誰もが大好きなシチュエーション。真っ白なふたつの膨らみと、それを包む薄いピンクのブラが正司の目に映る。
(こ、これは、なんてえっちな光景!!!!)
可憐はその視線を十分に感じ取ってから、正司の耳元でささやく。
「しょーくんの、えっち」
(ぶはっ!!!)
もうそのひと言で昇天ものである。
「花凛ーーーっ!!」
そこへハンバーガーを買って来た由香里とタケルがやって来る。由香里は正司が真っ赤な顔をしているのを見て尋ねる。
「正司さん、どうしました? 顔、真っ赤ですよ??」
正司が慌てて答える。
「な、何でもないよ。ちょっと暑かっただけ……」
(暑い? この涼しい秋の時期に?)
由香里はそう思いながらも、その隣でくすくす笑う花凛を見て何となく状況を察した。
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