3
ああでもないこうでもないと虎ロープをいじくり回し、先に首吊りの体裁を整え終わったのは、割に手先が器用な光の方だった。
「ねえ、見て。できた。」
ロープの先にできた輪っかを掲げ持ち、まだもたもたしている涼に見せびらかしながら、光はピースサインを決めた。
「どうやってやるんだよ……。」
ぐちゃぐちゃに絡まった虎ロープを困惑顔で見つめながら涼が嘆くと、光が声を上げて笑った。
「早くしないと朝になっちゃうよ。」
「いや、だからどうやったらいいんだよこれ……。」
「無器用だね。やってあげよっか。」
「頼んだ。俺は煙草が吸いたい。」
「最後の一本だね。」
「この世とはお別れの一本。」
光にロープをパスした涼は、その場から数歩離れて煙草に火をつけた。
「未成年喫煙だ。いつから吸ってるんだっけ?」
「忘れた。」
本当は、覚えていた。
あれは中学に上がってすぐの頃。はじめて光を抱いた日だ。
父親の煙草をパクって吸ったのは、どうしてだったのか。よくは覚えていないが、多分もやもやしたなにかを煙と一緒に吐き出せたら気持ちがよさそうだと思ったのではなかっただろうか。
結局の所、煙草を吸っても吐き出せるのは二酸化炭素と副流煙くらいのものだと、今は分かってるのにやめられない。
「ほら。できたよ。」
光の声に振り向けば、彼の手の中にはきれいにまん丸く作られた虎ロープがあった。
「さすが死にたがり。上手いもんだな。」
「まぁね。イメトレ済みだから。」
「台かなんかが必要なんじゃないのか。」
「睡眠薬持ってるよ。斜面に座って首にロープを掛けてこれ飲めば、眠っちゃったらずり下がって自然と首がしまるわけ。」
「詳しいな。」
「予習済みだよ。」
「さすが。」
「褒めてもなにも出ないよ。」
そんな会話を、まだ現実感がないまま交わした。このまま死んだら、死んだことに気が付かずに、うっかり幽霊にでもなりそうだな、と、涼は思った。
傍らの光はポケットから白い錠剤の詰まった瓶を取り出し、ザラザラと目分量で半量を取り出して涼に顎をしゃくった。
涼は水をすくうときみたいに両手をあわせて、大量の錠剤を受け取った。錠剤は表面が糖衣に覆われてピカピカ光っており、子供の頃に食べたラムネ菓子を彷彿とさせた。
二人は斜面に腰掛け、銘々首にロープを掛けると、錠剤をバリバリ噛み砕きながら飲み込んでいった。
「水、買ってくればよかったな。」
「ほんとそれ。苦い。」
交わした会話はそれが最後だった。そのまま涼と光は暴力的なまでの勢いで、眠りに落ちていった。
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