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「さすがだね。なんでもあるのがドンキホーテ。」

 そんなことを冗談めいた口調で言いながら、光は袋づめされた虎ロープを一袋手に取り、涼を振り向いた。

 「涼の分もいるでしょ?」

 涼は適当に肩をすくめ、ああ、と短く肯定した。

 「結構細いけど大丈夫かな。」

 「大丈夫だろ。虎ロープってかなり頑丈だぞ。」

 へえ、そうなんだ、と、感心したように頷きながら、光はそのままレジに向かった。

 涼は店の前で光を待った。ロープを購入してなお、すべてのものが現実的ではない気がしていた。

 「おまたせ。」

 「おう。」

 「ねぇ、どこで死ぬ? 途中で邪魔が入るのは絶対イヤだけど、死後すぐに発見はされたいよね。」

 「そんな贅沢なあなたに、」

 「お?」

 「丁度いい山がありますよ。」

 「山?」

 「駅裏の。あそこなら交番近いし、すぐ見つけてもらえるだろ。」

 「ああ、あそこか。懐かしいね。まだあるんだ。」

 ドンキホーテがある駅の東口は、カラオケや居酒屋もあってそれなりに栄えているのだが、反対側の西口はなにもない。ただ住宅街が広がっているだけだ。

 その住宅街の中に、小高い山というか丘がある。涼と光は子供の頃、時々そこで遊んだ。

 ドンキのビニール袋をひらひらさせながら、光が先に立って歩き出す。涼がついてくることを、一点の曇もなく信じた態度だった。

 涼とて、光のその信頼を裏切るつもりもない。

 二人は明けかけた住宅街を、死に場所を求め、てくてくと歩いていく。

 舗装路を外れ、足の下がふかふかする土になったとき、光が振り向きもしないで言った。

 「なんかごめん。」

 ここまで来ると、周囲は木々に囲まれ、家々の明かりも見えなくなる。涼はスマホのライトで足元を照らしながら、なにが、と訊き返した。

 「なんだろう……全部?」

 まだ暗い空を見上げながら、光は案外楽しそうに言ってきた。

 涼もつられて、少し笑った。

 「なんだよ、それ。」

 「一応言っとこうかなと思って。」

 「へぇ。」

 それ以降は、ろくな会話をしなかった。

 この丘で遊んだ頃の思い出話しをした後は、二人とも無言で丘を登った。単純に、運動不足がたたって息が切れ、会話どころではなくなったのだ。

 それでもなんとか丘の頂上まで登り、二人揃って肩で息をする。

 少し呼吸が整ってきたところで、光がドンキの袋からロープを取り出した。

 「どこに吊ろっか。」

 「あのへんの木とか?」

 「いいね、じゃあ俺はその隣の木にする。」

 ちょうどよく枝が張り出した木を見つけた二人は虎ロープの包装を破り、銘々木の枝にロープを結び付けはじめた。



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