第66話 旅の支度をする

「旅にでるか……」


 ポツリつぶやく。

 ここで商会をさらに大きくしていくって未来もあるけど、果たしてそれで俺が面白いと思えるか。

 金と地位があってもツマらなかったら意味ねえしな。


 ――だったら、もっと世界を見て回るか。

 イザとなったら帰ってくりゃあいいんだ。別の街に商会支部をつくるってのも悪かない。


「街をでるニャ?」


 キャロが俺のつぶやきに反応した。

 好奇心に満ちた子供のような目で俺を見つめてくる。


「そうだ、不思議を探して旅をする」

「面白そうニャ!」


 そういやコイツ、外の世界を知りたいって言って里を飛びだしたんだっけ?

 ちょうどいいわな。たくさんの景色と人を見ていこう。

 ついでに、コイツの里によるのも面白いかもしれん。


「え? 街を?」


 建物内がザワつき始めた。

 みな聞き耳を立てていたのだろう。ビックリした表情でこちらを見ている。


「商会の方はどうするんですかい?」


 アムコが尋ねてきた。


「残ったやつに任せるよ。店の方はもう俺なしでもやっていけるしな。もちろん、ここの金貸しや賭場も」

「……」


 アムコはなんとも複雑な表情だ。

 完全に一本立ちするのは嬉しいけど、不安もあるってとこか。

 俺という後ろ盾がなくなくわけだし。


「たまには顔をだすよ」


 一度行った場所なら、スカイフックで行き来できるからな。

 その気になれば、いつでも帰ってこられる。


「アネゴも行くんですかい?」


 アムコはちらりとキャロの方に視線をうつすと、彼女にそう尋ねた。

 キャロはフンと鼻を鳴らすと、それに答える。


「とうぜんニャ! アタシがいないとエルミッヒが困るニャ!! それに前々から思ってたニャ。アタシにとって、この街は狭すぎるニャ!」


 キャロのやつ、なんかカッコイイことを言っているが、俺は知っている。オマエがここから結構な額を借りていることを。

 たぶん、どさくさにまぎれて踏み倒す気なんだろう。


 だが、ここのオーナーは俺だ。俺から借金しているようなもんだから、逃げられないんだけどな。

 それに、借金の利子は、キャロの報酬からしっかりと引かれている。

 本人は気づいてないけど。


 奴隷解放で金を搾りとる。働いて得た賃金も、借金の利子で削り取る。

 エルミッヒ商会は、アホの血を吸ってここまで大きくなってきたのだ。


「いつ、いくんですかい?」


 アムコがふたたび尋ねてくる。


「今からだ」

「え!?」


 決めたら、そく行動。これがエルミッヒ流ね。


「たいへんだ。フラットのアニキに知らせないと」


 アムコは大慌てで、下っ端に指示する。

 すぐに、俺に水を運んでくれた少年ふくめ三人が建物を飛びだしていった。


「エルミッヒは相変わらずせっかちだニャ!」


 キャロも旅の支度したくをすると言って建物から出ていった。

 そんな慌てんでもいいのに。

 すぐっつっても、俺にだって準備がある。

 旅の支度はもちろん、商会のやつらにも、後はよろしくと伝えなければならんし。


 ――ん、なんだ?

 建物の外へと姿を消したはずのキャロが、ひょっこりと顔をのぞかせた。


「アタシを置いていくニャよ」


 ジっと目を細めて俺に言う。

 意外と鋭いな、コイツ。

 キャロがきっかけの旅にもかかわらず、そのキャロを置いていく。

 それはそれで面白いかもと、少し考えていたのだ。


「大丈夫だ。ちゃんと連れていくから」


 ジョークで手放すには、キャロは惜しすぎる。

 それにまあ、連れていくのはキャロだけじゃない。みんなそれぞれ準備がある。

 なんやかんやと、出発は昼過ぎになるかもな。


「そういうわけで、しばしの別れだ。フラットにもよろしくな。しっかりと儲けてくれよ」

「ボス……」


 アムコの肩をポンと叩く。

 久々に帰ってきてフラット一家が潰れていたら寂しいからな。

 それに、ほかの街に勢力を拡大するには、いてくれなきゃ困るし。


「大丈夫ニャ、たまにお金をせびりに来てやるニャ」


 しんみりしたところで、キャロの捨て台詞である。

 おまえ、まだいたのかよ。

 やっぱコイツ置いていこうかな……。




――――――




「ご主人様、お帰りなさいませ」


 商会本部へと足を運ぶと、地面の掃き掃除をしていた女と目が合った。

 マリーだ。少し前に奴隷にした、俺の女。

 彼女の年は、十代半ば。おしとやかで、恥ずかしがり屋。

 念願の清楚系女子ってやつだ。やっと手にいれたのだ。

 彼女が来てしばらくは、そりゃあハッスルした。

 朝から晩まで、ミッチリのムッチリである。


 おかげで、ベロニカの機嫌を取るのに苦労した。

 彼女にプレゼントした指輪は、もうつける指がないぐらいの数である。


「足をお洗いします。そこに腰かけてください」


 マリーは、やわらかな笑顔を俺に向けてくる。

 その顔は色白なことも相まって、まるで一輪草のようだ。


 俺が言われた通り軒先に腰かけると、彼女は水の入った桶を持ってきた。

 そこに足をつける。

 するとマリーは、手でギュッ、ギュッ、ギュッっと俺の足を揉むように洗ってくれるのだ。


 おおう。こちょば気持ちいい。

 ツボをマッサージするような手つきがなんとも病みつきになる。


 それに角度もいい。

 この体勢だと、ひざまずいたマリーの胸の谷間が、とてもいい塩梅で見えるのだ。


「ご主人様、気持ちいいですか?」

「ああ、最高だよマリー」


 眺めといい、感触といい、最高だ。

 マリーを奴隷にできたのは、ほんとうに運がよかった。

 奇跡的に彼女の危機に居合わせることができたのだ。

 あと少し遅ければ大変なことになっていただろう。


 マリーの家は商会を営んでいた。

 その経営が傾いたのだ。

 理由はギャンブル。

 父親が賭け事に溺れ、多額の借金を抱えてしまった。

 店は取られ、父親、母親、マリー、三人とも奴隷として売られる寸前だった。

 そこを救ったのが俺なのだ。

 店の借金の肩代わりをしたばかりか、両親も引き取り、仕事を与えた。

 今では数店舗あるエルミッヒ商会の番頭の一人として、頑張ってもらっている。


 両親ともどもマリーは、俺に感謝してくれている。

 家族は離れ離れにならず、これまで通りの仕事と生活ができる。

 名義こそエルミッヒ商会に変わったものの、かつての店も自身が番頭として、またやっていけるわけだ。

 感謝するのは自然な流れだろう。


 だが、その代わり、三人とも奴隷にさせてもらった。

 こればっかりは、しかたがない。

 ギャンブルで店の金を使い込まれてはたまらない。

 善意だけで行動するほど、俺は甘くないのだ。


「マリー、旅に出ることにした。すぐに支度せよ」


 とうぜん、マリーも連れていく。

 戦力にはならんが、精力にはなる。

 スタイル抜群、肌もムチムチ、顔も可愛い、恥ずかしがりながらも乱れてくれる。

 まさにエロいことをするために生まれてきたような女なのだ。


 フラットもよく見つけてきたものだ。

「アニキのご要望通りの女を見つけましたぜ」その言葉に嘘偽りはなかった。


 それからしばらくして、マリーの父親はフラットの賭場でギャンブルにはまり、母親はフラット一家の若い衆に貢いじゃうんだよな。

 人生なにが起こるか分からないな。

 まあ、とにかく助けられてよかったよ。

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