第63話 エルミッヒ商会本店
「建物が浮いたニャ!」
フックに吊られたオルタレス商会の店を見てキャロが驚く。
「な、な、な……」
フラットも驚きすぎて言葉にならないようだ。呆然と宙に浮く店を見つめている。
いや~、このフック便利だよな~。重さをものともしないばかりが、吊った物が壊れないってのも素晴らしい。
見ようによっては鼻に見えなくもない屋根の突起にフックを引っかけたわけだけど、普通なら屋根がバキって折れて終わりだよね。
ほんと、どうなってんだろ? このフック。
ちなみにオルタレス商会の店員だが、トリプルフックで吊ったままだ。
最初は悪態ついていたやつらだったが、時間とともにおとなしくなった。
もう喋る元気もないって感じだった。かわいそうに。ハハッ!
「じゃあ、頑張ってね。冒険者と協力して残りの借金を返してちょーだいね」
そう言うと、吊った建物をスカイフックに連結させる。
トリプルフックは解除した。ドルンと落ちた店員が、建物内でグッタリしている姿が見えた。
あ~、やっぱり人を乗せて運ぶこともできそうだな。
大きなハコを作ったら、人間だって物だってたくさん運べそうだ。
「じゃあ、いってらっしゃい!」
スカイフックで滑らせていく。
オルタレス商会の店は、シャーと空をすべって街の外へと消えていった。
もちろん行き先はカルコタウルスの生息地だ。
救援物資だな。
冒険者と力を合わせて頑張ってくれ。
丸腰だった冒険者も、店の中のものを使ったら、なんとか生き残れるだろ。
いや~、俺って優しいなあ。
「よし、フラット。誰かに
そう言うと、空き地になったオルタレス商会の跡地に屋台を置く。
ここはもう俺の土地だからな。
屋台と奴隷で持ち主の存在をアピールしておくのだ。
広い空間にポツンと置かれた小さな屋台が、なんとも
「さすがにちょっと寂しいなぁ。新しく家を建てるっつてもすぐにはムリだし……。あ! そうだ!」
フラットたちを残して街の郊外へと向かって走る。
目指すは貧民地区だ。たしか廃屋が何個かあったはず。俺と出会う前にフラットがアジトにしていたと言っていた。
「あった。これだ!」
ボロッボロの家もどきをフックで吊る。
チューとネズミが数匹、家から飛び出した。
「ほう! 中の生き物は自由に動けるのか!」
うんしょ、うんしょ。
廃屋を吊ったままオルタレス商会の跡地へと戻る。
こいつを仮の店舗としよう。
なにも新しい建物をあそこに作る必要はないんだ。
どっかで作ってから、この廃屋と入れ替えればいいじゃないか。
俺って頭いい。
やがてポツンとたたずむ屋台と奴隷たちが見えた。
「ムハッ!」
思わず笑いが漏れる。
立派な屋敷がたち並ぶ中に、小さな屋台がひとつ。
その周りには奴隷。みんなどうしていいか分からず立ち呆けている。
なんかオモロイ。やべ~、ツボったかも。
「あ! 悪党が帰ってきたニャ!」
などと笑っていたら悪態が返ってきた。
キャロだ。
いうに事欠いて俺が悪党だとか抜かしておる。
なぜだ! こんなにも皆のために働いているというのに!
「よ~し、お前らどけ。ペチャンコになっちまうぞ」
まあいい。そんなことより持ってきた廃屋だ。
こちらをポカンと見つめているフラットたちを避難させる。
「キャロはべつに居てくれていいぞ」
廃屋、すなわちこれキャロの墓標なり。
「ヒドイにゃ! やっぱり悪党だニャ!」
誰よりも先に逃げたキャロが、またまた悪態をつくのだった。
「これでよし!」
テキトーな板っ切れに、炭でエルミッヒ商会と書く。
それを廃屋に貼っ付けて終了だ。
由緒ただしきエルミッヒ商店の完成なのだ。
なんと言っても年季が違う。
誰がどう見たって、昔からここにあるたたずまいだろう。
オルタレス商会なんてものは最初からなかった。
これで衛兵も納得するに違いない。
「キャロ、ベロニカたちを呼んで来い」
「わかったニャ!」
よ~し、店を構えるのはしばらく先だと思っていたけど、早くも実現したな。
あとの目標はなんだ?
奴隷を増やして事業拡大か?
楽勝だな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます