第27話 新しい街

 ゴブリンを蹴散らして、歩くこと一日半。街が見えてきた。

 城郭都市だ。石を積み上げ、グルっと囲っている。

 しかし、この石壁やけに貧祖ひんそうだ。

 俺の背より明らかに低く、乗り越えようと思えば簡単に乗り越えられそう。

 いったい何から守っているのだろうか?


 テコテコ歩いていると、すぐに門へとついた。

 門と言っても、みすぼらしい木の柵だ。

 腰かけたらボキッと折れそう。これも何から守っているのかまるで分からない。


 そんな門を通って街の中へ。

 とくに門を守る兵士みたいなのはいないみたいだ。治安大丈夫?


 意外や意外。街はけっこう活気があった。

 大通りには、いくつも店がのきをつらねる。

 武器屋に防具屋、パン屋にクツ屋。商品の種類も豊富みたいだ。

 う~む。活動の拠点としては悪くないのかもしれない。


 ひとまず宿屋に向かう。

 短期ではなく、長期の宿泊をメインに取り扱っている宿にする。

 料金は前払いになるが、ちまちま払うよりちょっとお得らしいから。

 金ならある。

 奴隷の売人と冒険者の死体から根こそぎ奪ってきたのだ。

 逃げた奴隷も必死だったのだろう、サイフはほぼ手つかずだった。

 たぶん、食糧を真っ先に狙ったのではないだろうか。これはラッキー。


 それと、他にも取ってきたものがある。奴隷の首輪だ。カバンごとゴッソリ持ってきた。

 これで奴隷を増やしまくるのだ。

 本体が激ヨワな俺は、奴隷で身を固めることにした。

 奴隷の隙間からフックで敵を吊るのだ。

 連戦連勝、間違いなしだろう。


「ここです」


 ベロニカが指さしたのはレンガと木で作られた二階建ての建物。まあまあ大きい。部屋数はけっこうありそう。

 チラっと看板を見る。妙に躍動感のあるウサギの絵が描かれていた。

 なんか見たことあるな、コイツ。


「ベロニカ。この絵は?」


 看板を指さして言う。


「ああ、ラビットバードですね。この宿の名物料理です。美味しいですよ。これ目当てに宿泊する人も多いですから」


 ラビットバード?

 ……俺のケツをかじりやがったアイツか。

 たしかに旨かったけど、食用だったのね。

 じゃあ、俺は家畜に殺されかけたのか?


 まあいい。俺は過去は引きずらんタイプだ。

 最終的に強くなっていれば、それでいいのだ。


 受付をすまして、個室へと入る。

 もちろん、ベロニカも一緒だ。あれやこれやと世話をしてもらうつもりだからな。

 ベロニカも最初は大変だろうが、頑張ってくれよ。

 そのうち、数を増やして楽をさせてやるからな。フヒヒ。


「エルミッヒ様。ひとつ質問よろしいでしょうか?」


 ヤラしいことを想像していると、ベロニカに話しかけられた。

 え? まさか顔にでていた?


「な、なんだい?」


 ちょっとキョドる。

 エロい想像がバレたところで何の問題もないのだが、それはそれで恥ずかしい。

 あんがい俺は繊細なのだ。


「ゴブリンが宙吊りになっていたのは、魔法でしょうか?」


 あ、そっちね。よかった。

 う~ん、どうしよう。この能力のこと、正直に言うべきか、言わないべきか。

 連携のためにはベロニカにもしっかりと理解しといてもらいたいしなー。

 よし、ここは話すべきだろう。


「いや、魔法じゃないと思う。なんかスキルらしくてね。鼻フックって言うんだけど知ってる?」

「鼻フック?」


 あー、やっぱり知らないか。

 どうしよう。うまく説明できるかな。


「えー、鼻フックっていうのはね。鼻をこう……フン!」

「イタタタタ!!!!」


 俺がヒモを引くとベロニカの鼻が吊り上がった。


「こんな感じ。俺がヒモを引くと鼻が吊り上がるの」

「痛い痛い痛い。まってまって」


 ベロニカは、ピンとつま先立ちになっている。

 ヤバイ。メチャメチャおもしろい。


 とはいえ、ベロニカは敵ではないのだ。そんな長い間吊るのはよくない。

 俺はヒモを引く手をゆるめた。

 解放されたベロニカは涙目で鼻をさするのだった。


「今のは何ですか? すごく痛い」

「だからね。俺がヒモを引くとね」


 ――フン!


「イタイイタイイタイ。ほんと、やめてやめて」


 再びつま先立ちになるベロニカ。

 ダメ、お腹が痛い。これずっと続けてられそう。




――――――




「なあ、悪かったって。機嫌直してくれよ」


 ベロニカにメチャクチャ怒られた。

 さすがにちょっとやりすぎたみたいだ。

 完全に背中を向けて、ベッドで寝てしまっている。


「ごめん! この通り!!」


 膝をついて手を合わせて謝るも、ベロニカの機嫌は直ることはない。

 まいったな。これから冒険者ギルドへ行って、新規登録をしようと思っていたのに。

 しゃ~ない。ひとりで行くか。


「ちょっと出かけてくる。なんか買ってくるから、それで許してくれよ」


 そう言い残すと、宿屋を後にした。


 ひとりでトボトボと歩く。

 さて、冒険者ギルドはどっちだったか?

 そういや場所を聞くのを忘れていた。散歩がてらブラブラいくか。


 それにしても、だいぶフックの能力が分かってきた。

 他人には全く見えていない。吊られた本人も。

 そして、吊られた者の思考はしっかりしているし、喋れる。

 だが、身動きはまったく取れないようだ。

 物理的反撃はできないと考えていいと思う。


 問題は魔法攻撃だな。

 喋れるなら、呪文の詠唱が可能かもしれん。

 無詠唱も言わずものがな。

 油断していると、思わぬ反撃を喰らいかねん。

 ちょっと、検証が必要だな。

 ひとりでウロウロしている野良のら魔法使いとか、いないかな?


 最悪、モンスターじゃなくても冒険者でもいいんだけど。

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