第26話 役割分担
「エルミッヒ様こちらです」
「うむ」
ベロニカに道案内をしてもらいながら街を目指す。
だいたい一日半ほどの道のりだそうだ。
いや~、用心棒がいると安心感が違うな。
ゴブリン程度なら蹴散らしてズンズン進めそうだ。
ここに来てから、ゴブリンにすら見つからないようにコソコソ動き回っていたからな。
復讐するときが来たのだ。あー、早く出てこないかな。
ベロニカは冒険者としては中の上ぐらいらしい。
ここいらの冒険者のレベルがどんなもんか分からないが、身のこなしを見る限りでは戦力として申し分なさそう。
彼女は俺のことをエルミッヒ様と呼ぶ。
洞窟で一緒に過ごした数日間が、彼女と俺の絆をはぐくんだのだろう。けっこうなことだ。
とはいえ、呼び名については、べつに強要したわけではない。自然とそうなった。
俺としても、なぜかしっくりくる。ずっとそう呼ばれていたような不思議な感覚だ。
いや、実のところ、なんと呼ばすか迷いがあった。
名前を聞かれたからエルミッヒと答えておいたものの、俺はエルミッヒじゃないしな。
それに、そもそもエルミッヒって名前なのかね?
ステータスとやらにでてくるのはローゼル・エルミッヒ。ローゼルのほうが名前ではないんかいな?
まあ、どうでもいいか。どうせ身分を証明できるものなど何一つ持ってないし。
なにせ、あのステータスってやつは他人が見られないのだ。
ベロニカに聞いたらなんじゃそれ? って顔をされた。
そもそも、そんな機能なんぞないみたいだ。
だよなあ。俺も聞いたことないもん。
てことは、この現象は俺だけっぽいな。
こんな力には頼らないと決めたが、けっこう貴重なものだったのかもしれん。
やっぱ、あれかなあ?
フォルティナから能力を奪うように穴にお願いしたやつ。
奪ったのがこのステータスだったと。
穴はちゃんと聞いてくれたんだな。結局は飲み込まれたんだけど、そこは感謝だ。
ただ、そうなると分からんのが、スキル鼻フックだな。
ヒモを引くと相手が吊り上がる、この力はなんなんだ?
ステータスとやらをフォルティナから奪ったのだとすると、コイツは一体どこからきたのか。
俺がもともと持っていた?
いや、違うか。
二個奪ってくれたと考える方が自然か。
イキなプレゼントだな。穴よありがとな。
「エルミッヒ様」
「うん? どした?」
前方を歩いていたベロニカが急に立ち止まった。
少し腰を落とし、手で俺を制している。
「なにか空気が不穏です」
「うん」
そうだね。たしかに変な感じがする。
俺はザコだが、危険察知にはたけている。
ザコがザコのまま生き残るのは、それだけの理由があるのだ。
ふいになにかが飛んできた。
瞬時に反応したベロニカが盾ではじいた。
コロリと転がるのは、子供のコブシほどの石。投石か。
ベロニカの装備は革のヨロイに鉄の剣。そして、前腕につけた小型の丸盾だ。
対する俺は、動きやすい服、拾った棒にリュックといった旅人スタイルだ。
穴の能力に特化すると、こうなってしまったのだ。
「ゴブリンです!」
茂みから姿を見せたのは三匹のゴブリンだ。粗末な棒に石といった定番のスタイルで武装している。
よっしゃ! きた!
これまでのウップンを晴らす絶好の機会だ!
「茂みの中にまだいます。注意して!」
それだけ言うとベロニカは、三匹のゴブリンに剣で切りかかった。
うん、素早い。それに指示も的確だ。
顔もカワイイし、これはマジの掘り出し物だぞ。
「わかった! 茂みはまかせろ」
生い茂る木々の中に目を凝らす。
投げる石を探しているっぽいゴブリンを発見した。
あいつだな最初に石を投げたのは。
「フン!」
目の前のヒモを引く。
ゴブリンがぶい~んと吊り上がった。
このヒモ、なかなかの射程距離だ。
ゴブリンまで、けっこう遠かったんだけどな。
俺が動くと、なぜか手元のヒモもついてくる。
そのままヒモを引きつつ、距離をつめていった。
「フガガガ!」
ゴブリンの鼻は、ちぎれんばかりに引っ張られている。
苦悶の表情。やっぱり痛いみたいだ。
ただ体に力は入らないみたいで、全身をグデンとしたまま足だけがブラブラ揺れていた。
やべー。超おもしれえ。
「オラオラオラ」
無抵抗のゴブリンを、棒でバシバシ打ちまくる。
超たのしい。一方的に攻撃できるのがこんなに愉快なものだとは。
「オラ! どうした? もう終わりか!」
ヒモを上げたり下げたり。
それに連動してゴブリンも上下を繰り返す。
「まだまだ!」
今度は棒でゴブリンの乳首をグリグリドリル。もちろん反対側も忘れない。
身動きのとれないゴブリンは、じつに悲しそうな表情だ。
「あ~ん、これか? このチンコが悪さしようとしてたのか?」
棒でチンコをグリグリする。俺以外のチンコはこの世からなくなってしまえばいいのだ。
「あの、そろそろ楽にしてあげては?」
振り向けばベロニカがいた。
しまった。夢中になりすぎていたようだ。
いったい、どれほどの時間見られていたのだろう? なんか少し、気恥ずかしい。
「うむ。じゃあトドメを刺してあげたまえ」
どうぞとベロニカに手でうながす。
「え? わたしがですか?」
困惑するベロニカ。
「とうぜんだ」
俺はグロいのがあまり好きくないのだ。
ふ~、スッキリした。
今後はこのフォーメーションを基本としよう。
俺が吊ってベロニカがトドメ。理想的なパーティーに一歩近づいたかもしれん。
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