第9話 モヤを入れてみた

 ブランすでぃーは、真相なるものを語るという。

 真相ねぇ。なにやら陰謀の匂いがしますなあ。


 とはいえ、それを聞くのは後だ。その前にやっておくべきことがある。

 剣で刺された冒険者ジェイの治療だ。

 死にかけではあるものの、魔法をつかえばまだ間に合うに違いない。

 だが――


「ダメだ。血が止まらない」


 金級冒険者リックが治癒魔法をかけるも、ジェイの傷はふさがらない。

 デロデロと血を流し続けている。


 これはまずいな。

 マジでちょっと危ないぞ。


「なんでだ? どうして?」


 もう一人の金級冒険者も魔法をかける。

 だが、二人がかりでもだめみたいだ。

 ジェイの顔色はますます悪くなっていく。


「……魔剣よ。魔王を封印していたのは魔剣だったの」


 ボソっと呟いたのは取り巻き女子だ。

 魔剣がどうとか不吉なことを言っている。


「どういうことだ?」


 聞き返すリックの語気ごきは荒い。

 そらそうだ。

 明らかに時すでに遅しの情報っぽいし。


「魔剣は傷の再生を阻害するの。無限の再生能力を持った魔王を封印するには、それを使うしかなかった」


 なるほどなあ。

 ジェイはその魔剣でブッ刺されたわけか。

 それで治癒魔法がきかないんだな。


「おまえ、いまごろそんなことを!」

「ごめんなさい……」


 リックに怒られ、取り巻き女子は今にも泣きそうだ。

 うむ、ここは俺からもクギを刺しておこう。


「泣いて済む問題か! 泣いたところでジェイは帰ってこない」

「いや、まだ死んでないが……」


 リックのツッコミだ。

 いや、そこで冷静になるなよ。

 とりあえずムシ。話を続ける。


「おまえは情報を隠匿するばかりか、仲間を信じず疑い続ける。挙句の果てには殺そうとまでする。その結果がこのありさまだ!」

「でも、あなたはゆうとを――」


 取り巻き女子はナマイキにも言い返そうとする。

 しかし、そんなものは聞いていられないのだ。


「でもじゃない! 男のシリばっかり追っかけてるからそうなるんだ。恥を知れ、恥を!」


 取り巻き女子は完全に黙ってしまった。

 うつむいたまま目に涙を浮かべている。


 フッ、俺の勝ちだな。

 しょせん勇者の腰ぎんちゃくなど、この程度よ。


 ……しかし、ジェイはどうにかなんないかなあ。

 こんな下らないことで死ぬのはもったいないし。


 魔剣か……。

 呪いみたいなもんかな? 専門職ならなんとかなるかもしれないけど、街に戻らないとムリだしなあ。

 ――いや、待てよ。呪いって穴で吸いとったりできねえのかな?

 穴の力は未知数だ。まだまだ秘められた力があるかもしれん。

 やってみっか!


「てい!」


 ジェイのそばに穴を開ける。

 たのむ、穴よ。魔剣の呪い的なやつを吸い込んでくれ。

 お前ならできるはずだ。ふおおおおおお!


 その瞬間、ジェイの体から黒いモヤのようなものが立ちのぼった。

 それはみるみるうちに穴へと吸い込まれていく。


 これは!

 成功かもしれん。


「治癒魔法を!」


 リックを指さす。

 彼は驚いた表情で俺のことを見ていたが、すぐ我に返り治癒魔法を使い始めた。


「いいぞ、効いてるぞ!」


 ジェイの傷はみるみる塞がっていくのであった。

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