第8話 近づきたくないので入れてみた

 みな俺の言葉に納得したようだ。

 ブラスディーを取り囲む。


「五対一だ。観念しろ! お前にもう勝ち目はない」


 ブラスディーに降伏をうながすのは、ベテラン冒険者のリックだ。

 しかし、とうのブラスディーは降伏するつもりなどさらさらないようで、剣をかまえて戦うしぐさを見せる。


「フン、貴様らごときに降伏してたまるか。魔王の代わりに俺が始末してやる」


 戦いが始まった。

 金級冒険者たちとブラスディの間で、火花が散る。


「ブラッディークロス!」

「サタノファイエモーショナル!」


 技と技の激突。

 たしかにデカイ口を叩くだけあって、ブラスディーは強いみたいだ。

 囲まれながらも三人の猛攻をしのいでいる。


 これはアレだな。

 今まで実力を隠していた的なヤツか。


 ちなみに五対一ではなく三対一になっているのは、一人は剣でぶっ刺されて死にかけだからだ。

 そして、俺は遠目で見守るだけ。

 なぜなら、あんなところに混じっては危険だからだ。

 穴を使わなければ、俺はザコそのものなのだ。


「ブルースラッシュ!!」

「エレメンタルカイザード!!!」


 彼らが何かを叫びながら剣を振るうと、炎がうずまき地が裂ける。

 ……なんであんな風になるんだろうな? まったくもって原理がわからん。

 わからんものにはなるべく近づきたくない。


「なにしてるのアンタ! 手伝いなさいよ!」


 取り巻き女子がなんか叫んでいる。

 あいつは本当にエラそうだな。おまけに状況をよく理解していないとみえる。


「手伝えってお前、死にかけのやつに無茶言うなよ」


 血を流してグッタリしている金級冒険者を指さした。


「違う! アンタよ、アンタ!」


 え? オレ?

 え~、俺がやったら一瞬で終わっちゃうじゃん。

 穴に落としたら尋問じんもんもできないし。

 そもそもお前、俺を殺そうとしたろ? 殺そうとしたやつに助太刀すけだちを頼むとは厚顔無恥こうがんむちもはなはだしいな。


 まあ、しょうがねえか。

 手ぇ貸してやるよ。


「てい!」


 俺が穴を開けると、ブラスディーの剣がスポッチョと吸い込まれていった。


「な!」

「ありがたい! よし、デススクライド!」


 剣を失くしたブラスディー目がけて、リックが強烈な一撃を放った。


 ところが、それは目に見えぬ何かに遮られたようだ。

 リックの剣はブラスディーの目前で停止している。

 魔法か。


「エアハンマー!」

「グッ!!」


 ブラスティーが圧縮した空気をはなつ。

 あれは知ってる。中級風魔法だ。

 後方に吹きとばされたベテラン冒険者リックは、回転して着地したものの、口から血を流していた。


 オイオイオイ。相手武器なしの三対一だろ。もうちょっと頑張れよ。

 とはいえ、俺を守る壁がなくなるのは困る。

 安全圏から、チクチクとさらに攻撃を加えることにした。


「てい!」


 ブラスディーのズボンがスポンと吸い込まれる。


「ちょ!」


 とつぜんのズボン消失にブラスディーは動揺しているようだ。


「いまだ、たたみかけろ!」


 俺の号令で三人が一斉に攻撃を加える。

 防戦一方のブラスディー。さすがにここからの巻き返しはムリだろう。


「あきらめろ。もう勝負はついたようなものだ」

「ぐぐぐぐ、断る」


 しかし、リックの説得はまたもや失敗。ブラスディーは手傷を負いながらもいまだ戦う構えを解かない。

 なかなかしつこいな。


 よろしい。ならば、次はヨロイとシャツ!


「のわっ!」


 ガッチリと留め金で固定されていたであろうヨロイも、穴にかかればこの通り。


 次はパンツ!


「まてまてまてまて」


 ブラスディーはブランブランさせながら攻撃をさばいている。

 やべえ、メチャクチャ面白い。

 今日からおまえはブランすでぃーだ。


「次はなにを取ろうかな~」


 もう取るものなどなさそうだが、面白いのでもっと探そう。

 なるべく尊厳を踏みにじるようなものがいい。


「わかった、わかった。降参だ。真相を喋るから勘弁してくれ」


 ブランすでぃーはそう言って両手をあげるのだった。

 ふう。

 完璧な勝利だったな。

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